「ギル、肉まん美味しい?」 「…あぁ」 「それは良かった」 もふもふと俺の髪を撫でる名前。 ちくしょう、昨日帰りが遅かったから叱ってやろうかと思ったのに肉まんでまんまとはぐらかされたぜ。 それにしてもうめぇなこの肉まん。 「私もいっこ食べよーっと」 「太るぞ」 「う…別に、ちょっとぐらい…」 「デブ」 「うるさいなぁもう!!気にしないからいいんだよ!!」 とか言いながら肉まんに伸ばした手を引っ込めてクッションに顔を埋めて拗ねやがった。 まぁちょっとぐらい肉ついてるほうがいいんじゃねぇ? 横腹を突いてやればクッションで殴りにかかってきやがった。 地味にいてぇ。 「ちくしょう!!自分が細いからって馬鹿にしやがってこのプー太郎ぉおお!!」 「いてっ、なにすんだよ暴力女!!」 「お前に女の気持ちがわかるかぁああ!!」 「ごふっ!!」 俺の鳩尾に打撃をくらわせた名前は「ばかやろー!!」と叫びながら自分の部屋へと走っていった。 なんだよ、そんなに怒る事ねーだろ!? ちくしょう、ピンポイントで狙いやがって…!! 「ピィ」 「なんだピヨちゃん、俺の事心配してくれんのか?」 手の平にに乗ったピヨちゃんに尋ねてみるとプイと顔を背けられて飛んでいってしまった。 ちくしょう…一人楽しすぎるぜ…。 「ったく…仕方ねーなぁ…」 重い腰を上げてテーブルの上にある肉まんを皿ごと手に取り名前の部屋の前へと運ぶ。 「おいこら、俺様に暴力ふるっておいて逃げる気かよ!!」 ドンドンとドアを叩いてみるも中から返事は返ってこない。 ならばとドアを開くと部屋の端にあるベッドに一つの山ができていた。 「拗ねてんじゃねーよ」 「黙れ不憫」 「今のお前の方がよっぽど不憫だぜ」 「うっせぇ…」 ベッドの淵に座って頭から被っている布団の端をぺらりと捲ってみると不細工な顔で口を尖らす名前の姿があった。 「食えよ。うめーから」 「さっきデブるとか言ったの誰だよ」 「冗談だっつーの。こんなもん食ったぐらいですぐ太るか」 「……だよ」 「は?」 「ああもう!!本当に体重増えたんだよ!!気にしないようにしてたのにギルがデブとか言うから…!!」 「ちょっと太ったぐらいで変わんねーっつの!!」 「ぎゃぁあああ!!」 布団を想いっきり引っ張って名前の体を持ち上げて肩に担ぐ。 ちょっとぐらついたけどこれぐらい軽いもんだぜ。 「…何これ…。米俵担ぐみたいな…」 「俺様ムキムキだからこれぐらい軽いぜ!!」 「いや、足元震えてんですけど。普通に無理だから、漫画じゃあるまいし」 「だけどルッツはフェリちゃん肩に担げるぜ!?」 「それはルート君がムキムキなんだよ。っていうかここはお姫様抱っこだろ、なんであえて肩?」 「誰がお前みたいなのお姫様抱っこだよ!!」 「…蹴ろうか?」 「すみません」 再び名前をベッドの上に降ろすと足にかかっていた負担が無くなった。 やっぱり漫画でよくあるシーンは現実じゃ無理だよな…俺がもうちょっとルッツみたいにムキムキだったら… 「あーもう、なんかへこんだ。立ち直れない」 ごろんとベッドに横になる名前。 再びベッドの淵に座っていつも名前が俺にしているように頭を撫でてやると頭を撫でてやると気持ち良さそうに目を閉じた。 …なんだこれ。なんか幸せだ…。 「アレだ、男にしてみればちょっと太ってるぐらいが好みだったりするんだぜ?」 「男にとっては、でしょうが。女性本人にしてみれば太いのはやっぱり嫌だよ」 「つか気にするほどでもねーだろ。そんなに嫌なら本田の箪笥の肥やしになってるなんとかキャンプ借りで運動するか?」 「あー…ああいうの長続きしないんだよねー…。きついし」 「じゃあジョギング」 「今って外寒いしなぁ…。ジムはお金かかっちゃうし…」 「どうせ長続きしねーんだからやめとけって」 「…ちくしょう」 持って来た肉まんを顔の前に持っていって「いいから食えよ。俺気は気にならねーし」と呟くと、じっと肉まんを見つめた後にかぷりと齧り付いた。 犬か何かに餌やってる気分だぜ。 「美味しい…」 「だろ?」 「…夕食は控えます」 「とか言いながらデザートとか言って冷蔵庫のプリン食うんだろ」 「……悪いか!?」 「開き直りやがった…!!」 もぐもぐと美味そうに肉まんを平らげた名前は機嫌を取り戻して「さーて映画のDVDでも見ようかなー」とベッドを出た。 なんだよ…ほんとに気まぐれなやつだな…!! その夜は結局何時もどおりの量の夕食を食べた名前は予想通り食後に冷蔵庫のプリンを取り出した。 だけど「半分あげる。あーん」と俺の口元にスプーンですくったプリンを突き出してきたあたり意識はしているらしい。 さて、今回はいつまで続くか…。 やきもちを妬いてキーキー鳴いてる眉毛あたりと賭けをしてみるのもいいかもしんねぇ。 . ←|→ |