「むかつく」

「も〜アルフレッド!授業サボったな!」

「うるさいなぁマシューは…ちょっとぐらいいいだろ」

「ったくもー…あとで泣きついてきたって知らないからな!?」

「むー」


自分と同じ顔をしながらも全く正反対のマシューがプスプスと湯気をたてて怒った。
なんだかんだ言ってマシューはいつでも俺を助けてくれるからな!流石は俺の兄弟さ!

そんな事よりここ最近の俺はアンハッピーなのさ。
ただでさえ普段から名前に会える時間が少ないって言うのになんだか最近はアーサーやギルベルトにリードされている気がする。
この間だって名前が痴漢に襲われたって聞いて、心臓が爆発するかと思ったんだ。
アーサーが助けにきてくれたって名前から聞いて、ホッとしたと同時に悔しさが込み上げてきた。
名前を助けるヒーローは俺のはずだったのに。


「あーもう、面白くない」

「また名前さん?珍しいよね、アルフレッドが一人の女の人に入れ込むなんて…。名前さんなら分かるけど」

「うーん…俺もちょっとビックリなんだぞ。運命の相手って一目見たときからビビビっと感じるものだって思ってたから…」


珍しくアーサーから女の話を聞いて、あのアーサーが入れ込む女の子ってどんな子なんだろうって興味本位で会ってみたんだっけ…。
飾り気もなく気さくに話せるし、趣味も合うから一緒に遊びに行ったり家に遊びに行ったりしてたんだけど…
いつの間にか”好き”って感情が大きくなって。
下心丸見えなあいつらに負けたくなくて、もっと名前に俺の事を見てほしくて色んな手を使ったけど彼女は何時もひらひらとかわしてしまう。
ああいうの、大人の余裕って言うのかな…
それともただの鈍感か…

あーもう、考えるのは性に合わないんだぞ!!
とにかく俺は彼女のヒーローになるって決めたんだからもっともっと強くなってあんなオッサン共は蹴散らせられるようにならないと!!


「よし!!名前に会いに行こう!!」

「もー…今から名前さんの家に行ってもまだ帰ってきてないよ?名前さんもお仕事あるんだし…」

「じゃあ会社まで迎えに行くんだぞ!!えーっと、名前ってどこで働いてるんだい?」

「僕も知らないよ〜!アーサーさんに聞けば?」

「えーやだよ。アーサーに聞くと色々と面倒くさい事になりそうだし。フランシスに聞こーっと」


発信履歴から探してフランシスの番号に電話をかけてみると何度かコールが鳴った後に「アロー…」と眠そうなフランシスの声が聞こえた。


「やぁフランシス!俺俺!」

『俺なんて子は知りません…』

「HAHAHA!やだなー俺だよ俺!!」

『お前は詐欺師か!!ったくお兄さん疲れてんだからあんまり振り回さないでくれよー…折角寝てたのに』

「ったく、これだからオッサンは困るよ。もう昼間だぞ?」

『オッサンじゃなくてお兄さんね。大人には色々あるんだよ〜。現に今俺の横には可愛い女の子が寝ている…』

「ところで君名前の会社がどこにあるか知ってるかい?」

『ちょっ、最後まで話聞こうな!?ったくお前は…。名前ちゃんの会社ねー…確かアーサーの会社の近くだったような…。大手家具メーカーの会社だろ?お前のパパの会社の近くに行けば分かるだろ』

「そっか!サンキューフランシス!!」

『はいはい。可愛いアルフレッドの役に立てて嬉しいよ』

「あ、そうだ。この間のケーキまた作ってくれよ!すっごく美味しかったんだぞ!」

『また太るぞお前…。この間名前ちゃんにレシピ教えたら作ってみるって行ってたからそっちでおよばれすれば?教えたとき”アルフレッド君が喜んでくれるなら頑張ってみようかなぁ”って言ってたし』

「それ本当かい!?」

『あぁ。頑張れよー青少年』


電話の向こうでニヨニヨと頬を緩ませるフランシスの姿が手に取るように分かった。

さて、それじゃあ愛しのヒロインを迎えに行くとするか!!


「それじゃあなマシュー!!あと夕食は名前の家で食べてくるから入らないって言っておいてくれ!バーイ!」

「あぁっ!次の授業どうするのー!?もーっ!!」



――――



「えーっと、ここがダディーの会社だろう?近いって言ってたけどこの辺りビルばかりで分からないじゃないか!!」


うーん、やっぱりアーサーに電話しようかなぁ。
だけどまた説教言われちゃたまったもんじゃないし…
うーん…


「あれ、お前アルフレッドじゃねーあるか?」

「ん?そう言う君は確か名前の知り合いの…えーっと」

「王耀あるよ。一度で覚えるよろし」

「あーそうそう!!今思い出したよ!ところで君、名前の会社ってどこにあるか知らないかい?」

「それならあそこに見えてるあのビルあるよ。でもまだ仕事が終わるには時間があるある」

「何だってー!?ちょっと早すぎちゃったなぁ…。そうだ!!きみのとこで何か食べさせてくれよ!!お腹ぺこぺこなんだぞ!!」

「いいけどちゃんと金払えあるよ」

「このカード使えるかい?」

「ブラック!!あいやー上客ゲットあるよ!!さぁさぁ我についてくるよろし!」

「HAHAHA!!現金なやつだな!!」


耀につれられて彼のお店でたらふく中華を食べさせてもらった。
あとお店の置くから変な着ぐるみを被ったオッサンが出てきてちょっとビックリしたんだぞ!!
なんだいあのオッサンは!!
耀にそろそろ名前の仕事が終わる時間だって聞いて、慌てて名前の会社まで向かった。

タイミング良く会社の入り口辺りから歩いて来る名前の姿を見つけて全速力で駆け寄った。


「あれ、アルフレッド君!?」

「名前!!待ってたんだぞー!!」

「ごふぁっ!!ちょっ、くるじっ死ぬ!!死ぬ!!」

「おひゃぁあああ名前さぁあああん!!!」


力いっぱい抱きしめると腕の中で名前がじたばたと暴れてたけど細かい事は気にしないんだぞ!!
やっぱり名前は小さくて柔らかくて可愛いなぁ!!
毎日こうやって名前をぎゅっと抱きしめられたら幸せなのに!!


「ぷはっ!!ど、どうしたのアルフレッド君!?いきなり会社まで来たりして…」

「君を迎えに来たんじゃないか!!」

「迎えに!?ど、どうして!?」

「すっごく名前に会いたくなったからさ!!」

「ぐえっ」


顔を見合わせてからもう一度ぎゅっと抱き込むと蛙が潰れたみたいな声が聞こえた。
ったく、もっと可愛い声は出ないのかなぁ。
だけどそんな所も名前らしくて、すっごく好きだ。




「もー、来るなら連絡してくれればいいのに」

「いきなり現れてビックリさせたかったんだよ。驚いただろう?」

「うん、いきなり締め付けられて色々ビックリした。ついでに昼食が戻ってきそうになったよ」

「HAHAHA!!」

「ハハハじゃないよー…」


名前の手をぎゅっと握ればため息をつきながらもきゅっと握り返してくれた。
呆れたように笑う横顔を見ていると、ドクンドクンと心臓が煩く鳴り響いた。

あぁ、やっぱり好きだな…


「そうだ。帰りにスーパー寄らないとね」

「夕飯の買い物かい?」

「うん。それとね、ケーキの材料買いに行きたいんだ」

「ケーキって…まさかフランシスに教わったやつかい?」

「そうだよー。なんで知ってるの?」

「うん…ちょっとね…。それってさ、俺の為に作ってくれるんだろう?」

「自惚れやさんめ」


知ってるんだぞ。
君が俺の為に頑張って作ってみようって言ってたってフランシスから聞いたからな!!


「アルフレッド君は一番美味しそうに食べてくれるから作り甲斐があるなぁ」

「名前の作ったものならなんでも食べるよ」

「たまにはアーサーの料理も食べてあげてよー。あれでもけっこう寂しがってるんだよ?」

「えーなんだいその死亡フラグ。やだよ。ギルベルトに食べさせればいいじゃないか」

「あいつすっごい警戒してるからダメだね」

「なーんだ。チェッ」


電車から降りれば駅の入り口辺りでギルベルトが壁にもたれ掛かっていた。
こっちに気がついたと同時に目を見開いて「ぬぉおおおお!!」と叫びながら手を繋いでいる俺と名前の手の間にチョップを入れて引き裂いた。


「何するんだい!!」

「お前こそ何してんだよメタボ!!」

「OH!!メタボじゃないぞ!!まだスリムさ!!」

「この腹のどこがスリムなんだよ!?プニプニじゃねーか!!」

「アウチッ!!触らないでくれよー!」

「こらこら喧嘩しないの。一緒に買い物して帰るよー」

「ったくしょうがねーなこのガキは…」

「俺は子供じゃないぞ!!」

「子供って言われてムキになるやつはまだまだ子供なんだよ、ぶぁーか」


三人で一緒にスーパーに買い物に行けばバイト中のアントーニョに後ろから膝カックンをされた。
地味に傷つくよ!!
それから名前の家で夕食を食べて、できたてのケーキを食べるとなんだかすっごく幸せな気分になれた。
ギルベルトは毎日こんな幸せな気分を味わってるんだなぁ…
やっぱりむかつくんだぞ。
だけど彼は素直じゃないし、俺みたいに行動力もないからきっとまだまだ俺の方が名前をぎゅっとしたり手を繋いだりする回数も多いはずさ!

子供だっていいじゃないか!!だって名前に甘えられるのって年下の特権みたいなものだろう?

ケーキを食べている名前の膝に「大好きなんだぞ!」と飛びつくと照れくさそうに笑って頭を撫でてくれた。
両足をギルベルトとアーサーに引っ張られて引き剥がされそうになったけど俺はヒーローだからそれぐらいじゃびくともしないさ!
いつかこんなオッサン共は俺の若さとパワーで蹴散らして名前の本当のヒーローになってみせるんだからな!!!


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