「はぁー…」

「どーしたのルート君、溜息なんかついちゃって。幸せ逃げるよ?」

「少し悩み事があってな…」

「悩みかぁ。まぁ若いうちは色々悩む事も多いよねー。私ぐらいになると多少の事は気にならなくなるよ」

「そうなのか…」

「そんなに悩んでるんだったら友達に相談してみれば?」

「あー…実は、だな…。俺はフェリシアーノ以外に友達がいないんだ…」


…うん、ルート君はあれだもんね…
ちょっと見た目が怖いから皆近寄りがたいんだよ。
性格はちょっと怖いけど優しくていい子だもんね。
滲み出そうになった涙を抑えてルート君の手を両手でぎゅっと包み込んだ。


「ルート君…私でよければなんでも相談に乗るからね…?」

「なっ、手…!!」

「なんなら本当のお姉さんだと思ってくれていいの!!私にとってはギルの弟のルート君も家族みたいなものなんだから!!ね!?」

「う、あ…あの…」

「よし、じゃあ手始めに私の事お姉ちゃんって呼んでみようか。レッスンワーン」

「って、何故そうなるんだ!?」

「私昔から弟か妹欲しかったんだよねー。ギルは生意気だしむかつくから…。まぁアルフレッド君とかフェリシアーノ君みたいな可愛い弟分も居るけどね。だけどルート君はギルの弟だし、私も本当の弟みたいに思えてくる時あるんだー」

「なっ、なん…う…」

「呼んでみてよー。一度でいいから!!」


促すように笑顔でルート君を見つめると、顔を真っ赤にして俯いてしまった。
やっぱりダメかなぁ。


「名前…ねえ、さん…」

「…今なんと」

「いいい、一度という約束だろう!?」

「ダメだよ声小さくて聞こえなかったもん!!もう一回もう一回!!」

「ああもう!!名前姉さん!!どうだこれで文句はないだろう!?」

「うきゃー!!ルッツ君に姉さんって言われちゃったぁあ!!かわいいいいいい!!!」

「なっ!?やめっ、こんな場所で抱きつくな馬鹿!!!」

「ムキムキだー…」


ふふふ、可愛いなぁルッツ君。
店内の中央でピアノを弾いているローデリヒさんが騒いでいる私達に向けて怒りをぶつけるように一層ピアノの音量を上げた。
おっと、いけないいけない。


「で、悩み事って?」

「それが、だな…。たいした事じゃないんだが…最近ローデリヒと一緒に暮らし始めてからあいつが事あるごとに煩く言ってきてな…結婚もしていないのに家に帰りたくない毎日なんだ…。その上フェリシアーノは俺が居ないと何もできんし、兄のロヴィーノもすぐに女を引っ掛けるわ迷子になって泣き喚くわ俺の背中に蹴りを入れてくるわでもううんざりなんだ…。しかも昨日穴の空いてしまった下着を捨てようとしたらローデリヒに怒られて繕われてしまった…。それにこの間近くのコンビにに買物に行かせたら道に迷ったと隣町まで迎えに行かされる羽目になって…」

「…ルート君」


まだ二十歳なのに…まだ二十歳なのにこんなに苦労しちゃって、この子は…。


「ルート君…たまにはゆっくり羽を伸ばした方がいいと思うよ…」

「しかしフェリシアーノ達の世話が…」

「大丈夫、お姉さんが変わってあげるから。平日の昼間とか時間が空いてる時に家に来てもいいんだよ?私は居ないけどギルも居るし兄弟水入らずでゆっくり過ごすってのもいいんじゃないかな」

「いや、できれば兄さんは居ないでいてくれると助かる」

「…疲れるもんね、あいつと居ると」

「あぁ…お前にも苦労かけるな」

「最近はそうでもないよ」


ふかふかのチェアに深く座って大きく溜息を漏らすルート君に手を伸ばし、ポンポンと軽く頭を撫でてあげると唖然とした顔でこちらを見ていた。
あれ、ギルはこれやると元気になるんだけどなぁ…。


「撫でられるの嫌いだった?」

「い、いや…

「ギルはね、これやると機嫌よくなるんだよ」

「そう、なのか…。誰かに頭を撫でられるなんて久しぶりだな…」


懐かしそうに目を細めたルート君は薄っすらと笑顔を浮かべていた。
きっと小さい頃はギルに頭を撫でてもらったりしてたんだろうなぁ…。
一見ルート君ってしっかりしてそうで誰にも頼らなくても大丈夫なイメージがあるんだけど…本当は誰かに甘えたいのかもしれないね。
ギルやフェリ君に甘えるのが照れ臭いなら何時でも私に甘えてくれるといいのになぁ。


「すまないな。話を聞いてもらえただけで楽になった」

「ううん。こんなので良ければいつでも呼んで?甘えてくれても大丈夫だから」

「甘えて…?」

「うん。フェリシアーノ君達がルート君に甘えるようにルート君も誰かに甘えてもいいんじゃないかな。ちょっとぐらいそんな時間があっても良いと思うよ」


最後の一口のコーヒーを飲み干してソーサーに戻す。
少し驚いた表情を見せていたルート君が今度は誰が見ても分かるぐらいの笑顔で「そうだな」と呟いた。



――――



「ギルーただいまー」

「遅かったじゃねーか」

「うん。ちょっとアンダンテでルート君とお喋りしててね」

「ルッツと?」

「うん。ルッツ君可愛かったなー」

「あのルートが!?」

「うん。あんな弟が居ていいねぇギルは。私もルート君の事弟みたいに思ってるけど」

「そ、それは…あれじゃねーの?ルッツを弟にしたいなら…その…」


何やらごにょごにょと言っているギルに「言いたいことがあるならはっきり言え!」と背中を叩いてやると「分かって言ってんのかよ…?」と大きく溜息をつかれた。
だからはっきり言えって。

私に歩幅を合わせながら「あーもう、しょっぺーぜぇええ!!」と夜の住宅街の中で叫ぶギルに、近く家の犬がワンワンと吠えた。

男心は女の私には理解しがたいねぇ…






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