「いっでぇえええ!!」

「あ、ごめん」

「ちょっ、気をつけろよマジで!!いてーんだよこれ!!」

「ごめんってばー」


昨日の乱闘で左腕をやられてしまったらしいギル。
ソファーで本を読みながら足を組み替えた拍子に足が腕に当たってしまったらしく大げさに叫び声をあげるギルに若干なる苛立ちを感じた。
いや、私の責任でもあるしね…


「なんか私邪魔だよね。自分の部屋で読んでくるよ」

「なっ…別に邪魔とか言ってねーだろうが…」

「でも二人座ってたら窮屈だし。ギルも怪我してんだし広々と使った方がいいでしょ?」


読みかけだったページにしおりを挟んで立ち上がる。
慌てたような素振りで痛めている反対の手で私の腕を掴んだギルは少し眉を顰めた。


「いいから居ろ。俺様の命令だ!」

「…なにそれ」

「いいから座れアホ女!!」

「わけわかんないよーお前」


腕を引っ張られて若干バランスを崩して再びソファーに引き戻される。
なんだかなぁ…
母さんギルの考えてる事よくわかんないよ。
小さくため息をついてまた本を読み始めると、アニメのDVDを見ていたギルがチラチラとこちらに目線を送ってきた。
面倒だから無視しておこう。

ギルから送られる視線。
私が気付いていないと思っているのかじっと横目でこっちを見つめている。


「ねーギル」

「なんだよ」

「なんでこっち見てんの?」

「は!?み、見てねーし!!俺はガンダムのDVDをだなぁ…」

「それ終わってるよ、もう。メニュー画面見て何が楽しいの」

「う…あ…」


私の顔に何かついてたのかな。
そういえばさっきから肩にピヨちゃんが乗ってた気がするけど…
そうか、ピヨちゃんか。


「ピヨちゃーん。ギルが寂しがってるから構ってやってー」

「ピィ」

「え…あ、そうだな。ピヨちゃんだよな、うん。よーし一緒に遊ぶぜ!!」

「はしゃいで怪我増やさないでねー」


なんとなくわざとらしくピヨちゃんと追いかけっこを始めたギルはその後足元を絡ませて盛大にずっこけた。
何やってんだろこの馬鹿は…。


「ったく言ってる傍からこの子は!!あーもう、怪我してない?」

「うー…」


地面にうつ伏せになったまま唸るギル。
しょうがないなぁ…。


「よしよーし」

「何やってんだよお前…」

「小さい頃よくやってもらっててさぁ。転んだ時になんかはお婆ちゃんが撫でてくれて…そしたら自然と痛みも消えちゃうんだよね」


転んだ拍子にぶつけたであろう赤くなっている額を撫でる。
不思議そうに私を見上げていたギルが心地良さそうに目を閉じた。


「どう?痛くなくなった?」

「まぁな」

「もう危ないから座ってなさい。怪我人は大人しくする!!」

「はいはい」

「返事は一回でいいの」

「うっせーな…ったく」


眠そうに欠伸をしたギルは再びソファーに戻る。
時計を見れば時刻は午後三時。
お昼寝するにはいい時間だなぁ…


「ギルー。ここおいで」

「…は?」


膝をポンポンと叩くとわけが分からないといった風に口をあんぐりと開けられた。


「お昼寝。ギルが煩いから全然本に集中できない。寝てもらったほうが静かでいいや。膝貸してあげるから寝なさい」

「はぁああ!?なっ、そ、それって…」

「眠くないの?」

「いや、確かに眠い事は眠いが…。でもそれは…お、お前の膝なんか借りるかよ!!」

「そうか。じゃあ床で寝ろや」

「すみません貸してください」

「最初から素直になればいいのに。ほら、おいでー」


再び膝を叩くと、少し戸惑いつつ膝に頭を乗せたギルは私から顔を背けてぎゅっと目を閉じた。
これでしばらくは大人しくなるかな…。
さーて、ゆっくり本の続きでも読むか。


「ん…」


もぞもぞと膝の上でギルが動く。


「何、寝れないの?居心地悪い?」

「いや、悪くねーけど…」

「じゃあ静かに寝ときなさーい」


ふわふわと揺れるギルの色素の薄い髪を撫でる。
しばらくなで続けていると、落ち着いたのか心地よかったのか規則正しい寝息をたてるギルにホッとため息が漏れた。

まったく、世話のやける子だよねぇ…。

小さく苦笑いを浮かべて再び本を開いて読書再開。
少し冷たい空気とぽかぽかと暖かい陽気になんだか私も眠くなってきた。
しおりを挟んで本を閉じ、ギルの寝顔を見つめながら空いた手で再びギルの髪を撫でていると私まで眠気が襲ってきてしまった。
うーん…まぁ折角のお休みなんだし、昼寝ぐらいしてもいいよね。
いつもは寝ちゃうと時間が勿体ないような気がするんだけど…。
今日はギルと一緒にお昼寝だからそんな気持ちも幸せな気持ちに変わってしまう気がする。


「おやすみー、ギル」


目を閉じれば眠気の並に襲われ思考はシャットダウン。

たまにはこんな日も、いいよね。


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