「いっぺん死になさいよあんた」

「HAHAHAHAHAHA」

「ギルベルト君、これあげるよ。シベリア行きのチケット。片路しかないけど」

「お馬鹿ですまされる問題ではありませんよ」

「可愛いお兄さんの名前ちゃんがあんなことやこんなことになるだなんて…」

「ひっく…やだよぅ…名前が知らない男に触られるなんて俺…ヴぇっ…」

「泣くなよちくしょー…ぐずっ…俺が傍に居ればこんな事には…」

「………なぁ、ギルベルト」

「…はい」

「俺を本気で怒らせたらどないな目に合うか、知らんわけじゃないよなぁ?」

「ヒッ…!!」

「ええい!!落ち着け貴様ら!!気持ちは分かるがまずは名前無事を祝うべきだろう!?それに全て兄貴の責任というわけではないだろう」

「る、ルートヴィッヒ…」

「とりあえず一人一回、致命傷になるような事や流血は控えてもらおう。それ以外なら煮るなり焼くなり好きにするがいい!!!」

「「「「よっしゃぁああああ!!!」」」」

「ぎゃぁあああああああ!!!」


人の噂というものは実に恐ろしい。
アーサーからアルフレッド君へ、アルフレッド君からフェリシアーノ君へ。フェリシアーノ君からトニーさんとフランシスさんとルート君にローデさんとエリザに伝わり…。
居場所を聞きつけて、あっという間にアンダンテに集まったお馴染みのメンバーに重い溜息が出た。


「名前…大丈夫だった?」

「アイス君…もう大丈夫だよ。だけどなんでアイス君も知ってるの?」

「バカから聞いた」

「あぁ、デンさんね。噂って怖いなぁ…」

「っていうか店の中であんなに暴れて大丈夫なのか…?暴れるというよりリンチだろ、あれ」

「いいんじゃない?他にお客さん居ないみたいだし」

「ギルベルトさん…大丈夫ですかねぇ…」

「いや、死ぬな」

「右に同じく」

「当然…」


乱闘が起こっている場所から少し離れたテーブルで優雅にコーヒーと紅茶を飲みながらケーキに舌鼓を打つ。


「ヴぇえ〜!!名前ー!!」

「痛いぞちくしょう…!!」


ボロボロになったフェリシアーノ君とロヴィーノ君が泣きながら背中に飛びついてきた。
なんで逆にボロボロにされてるの…。


「あの中でもみくちゃにされてアントーニョに蹴られた…痛いぞこのやろー…」

「ロヴィーノ君を蹴っても気付かないなんて…トニーさんやばいんじゃないの!?」

「アルフレッドとエリザさんもすごかった…フランシス兄ちゃんはぼこぼこにされてたけど」

「それより名前…お前本当に大丈夫なのかよ」

「うん、大丈夫だよ。心配かけてごめんね」

「…本当に…話聞いた時心臓止まるかと…ちくしょー!!」

「ロヴィーノ君…」


瞳に涙をいっぱい浮かべてぎゅっと抱きついてくるロヴィーノ君の背中をポンポンと撫でる。


「本当に寿命が10年は縮みましたよこのお馬鹿!!」

「あ、ローデリヒさん…って、めがね割れてますよ眼鏡」

「貴方のペットにやられたんですよ!!まったく…スペアを持っていて本当に良かったです」

「うーん…素晴しい眼鏡キャラですね…。グッジョブですローデリヒさん」

「それはどうも」

「っていうかあれ店側として止めなくていいのか?なんか椅子とか壊れてる気が…」

「私は知りません」


うーん…そろそろ止めに入ったほうがいいのかな…。
なんかトニーさんとか笑い声上げながら殴ってるし…変なスイッチ入ってるよ、皆。


「あのー…その辺にして皆でコーヒーでも飲まない?」

「あ、僕飲むー。まだ足りないけどこの辺にしておかないと本当に死んじゃうもんね、ギルベルト君」

「エリザもアルフレッド君もルート君もトニーさんもその辺にして…今回の事はギルだけに非があるわけじゃないんだしさ…。っていうか私の注意不足でしょ」

「何言ってるんだい!?ギルベルトさえ一緒に居れば君はあんな目に合わなかったかもしれないんだぞ!!」


アルフレッド君の泣き叫ぶような声が店内に響いた。


「ごめん名前ちゃん…俺も今回ばっかりは見逃せん」

「ああもう!!私が良いって言ってんだからそれでいいの!!」

「でもね、名前…」

「くどい!!私の事を心配してくれるのは嬉しいけどもうこれは過ぎ去った事!!!被害にあってる本人がそう言ってんだからそれでいいの!!はいこれで終わり!!!以上!!」


静まり返った店内にアイス君と本田さんとフェリシアーノ君の小さな拍手が響いた。


「せ、せやけど俺…」

「トニーさん…まだ何か?」

「い、いえ…なんでもありません…」

「だけど名前〜!!すっごく心配したんだぞ!?本当に君が無事で良かったよ!!」

「お、重いよアルフレッド君…」

「ちょっ、何抱きつてんねん!!けとばすでそのでっかい尻!!」

「なんだと!!全然でかくなんてないさ!!キュートなヒップなんだぞ!!」

「っていうかお前らどさくさ紛れにお兄さん殴ったろ!?俺の美しい体に傷が入ったらどうすんだ!?」

「あれ、おったんかいなフランシス」

「気付かなかったよ」

「お前らなぁああああ!!」

「はいはいその辺にして皆でお茶でも飲みましょうねー。エリザ、後片付けは後でやらせるからね」

「えぇ。だけど名前が無事で本当に良かったわ…」

「うん!」


皆が再びテーブルにつきなんとか店内は落ち着いた雰囲気を取り戻した。
ローデリヒさんがいつも弾いているピアノの近くで捨てられたボロ雑巾のように横たわっているギルの傍に寄ってしゃがみ、つんつんと指先で突くと小さく「うっ…」と唸った。


「ギル、大丈夫?」

「…だいじょぶじゃ、ね…救急車…」

「唸る元気があるなら大丈夫だよ。あ、服破れてる…折角買ったのになぁ」

「俺より服…?」

「よーしよし痛かったねー。帰ったら労わってあげるから」

「…ちくしょう…」

「名前、そんなの構ってないでこっちで皆でお喋りしましょ!せっかく皆集まってるんだから」

「うわっ!!俺の分のケーキまで食うんじゃねーよアルフレッド!!」

「いいじゃないかー少しぐらい」

「ったくお前は相変わらず食うよなぁ…お兄さんビックリだよ」

「だからデブなんじゃない?」

「ゴリラに言われたくないな☆」

「なぁなぁロヴィーノ、さっきから何怒ってるん?」

「お前が悪いんだぞちくしょー!!もうお前なんか知るか!!」

「ヴぇー。ルート、その苺もらっていい?」

「しょうがないな…」

「甘やかせるんじゃありませんよお馬鹿!」

「アイス君、コーヒーのおかわりいただいてきましょうか?」

「うん。お願いします」


その後皆でわいわいと楽しくお喋りに花を咲かせ、今日の全員分のお代と椅子の修理費はイヴァン社長が全て支払ってくれる事になった。
い、イヴァンかっこいいよ…!!
ブラックカードを取り出して「カードでいい?」とマスターに尋ねるイヴァンにトニーさんが「ハハハ。カードなんか持ったことないわー。お札もあんま持った事ないけど」と笑って、なんとなく皆が黙り込んだ。
笑えないよ、トニーさん。
ボロボロになったギルはアーサーに肩を借りてなんとか無事家まで帰ってこれた。
お疲れ様、ギル。
帰り際にイヴァンが「18年後に呪いがふりかかるかも知れないから気をつけてね☆」と言っていたのがちょっと怖い。


「今日は色々と大変だったねーギル」

「まぁ当然の報いだろ…覚悟はしてたしな」

「まだそんな事言って…。まだ自分の責任だとか思って背負ってるって言うんならマジで殴るからね」

「うっ…わ、悪かったです…」

「分かればいいの。さーて、今晩はグラタンでも作ろうかなぁー。ギル大好きだよね、グラタン」

「おお!!久しぶりだぜグラタン!!」

「寒くなってきたらこれだよねー。じゃが芋も入れてあげるねー」

「なんか手伝う事あるか?」

「そのボロボロの体じゃできないでしょーが」

「皮むきぐらいならできるぜ」

「じゃあ芋の皮むき、お願いね」

「おう!!」


一緒に夕食を作って、アーサーと三人で食べて他愛のないお喋りをしたり口喧嘩をしたり。
私の為に集まってくれた皆の優しさだとかが身に染みる一日だったなぁ…。
ギルには可哀想な思いをさせちゃったけどね。
傷が早く治るように撫でておいてやるか!


.


「#幼馴染」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -