「名前、さっ…いったい何が!?アーサーさんが急に呼び出すなんて…しかもあんなに深刻そうな声で…!!心配でそのまま家を飛び出しましたよ!!」

「本田さん…私は今の本田さんの方が心配です。近所の人に見られたらどうするんですか」

「大丈夫です、瞬歩で来ましたから誰にも見られていません。それはそうと何故平日なのに名前さんはご自宅に…それにギルベルトさんは?アーサーさんもご一緒ではないのですが?」

「それが、その…」


要点だけ纏めて完結に事情を説明すると、固まったまま動かなくなった本田さんはそれから約5分後に再起動された。


「名前さっ、そんな…!!な、なにか変な事はされていませんか!?ああ、どうしてこんな事に…名前さん…!!」

「ちょっ、本田さん!?」

「心臓が止まるかと思いましたよ…!!いいえ、寿命が縮みました。貴方の花嫁姿を見るまでは死ねないと言うのに…」

「本田さん…」

「名前さん…無事で良かった…!!」


ふわりと包み込むように私の背中に手を回した本田さん。
本田さんも、すっごく心配してくれて…。
申し訳ない気持ちとこんなにも自分の事を思ってくれる人がここにも一人居るんだという事を再確認させられた。
心配かけてごめんなさい、本田さん…。


「大丈夫ですよ。なんともありませんでしたから」

「名前さん…」

「本田さん、湿布臭い」

「爺の必須アイテムです。っていうか貴方空気読みなさい」

「読める空気なんてしりません」


いつもの調子で話すと小さくため息をついた本田さんは「何も無くて本当に良かったです」と安息の笑顔を浮かべた。


「それで…ギルベルトさんは?」

「それが…アーサーが部屋に連れて行ってしまって…」

「そう、ですか…。まぁアーサーさんに任せておけば大丈夫でしょう…。名前さんはゆっくりお休みください。お二人が戻ってくるまで私が傍に居ますから」

「いや、本田さん仕事中だったんですよね!?いいですよそんな…なんともありませんし」

「仕事なんて何時でもできます。それに名前さんの方が何倍も何十倍も、大事なのですから…」

「…ありがとうございます」


やっぱり、本田さんは優しい。
いつも助けてくれるアーサーに、優しいお母さんみたいな存在の本田さん。
色んな人に助けられて生きてるんだなぁ、私は…。
いつの間にか皆の存在が自分の中でこんなにも大きくなっていただなんて…。


それから約1時間後。
右頬を真っ赤に腫らしたギルとアーサーが戻ってきた。


「ギル!?うわっ、何!?アーサーにやられたの!?」

「いや…」

「俺はもう帰るから、後はお前が話しつけろよ。変な事したら今度こそ地中に埋めるからな」

「それでは私もお暇させていただきます。ギルベルトさん、また明日うかがわせていただきますので私とのお話はその時にでも」

「…あぁ」

「二人とも、ありがとうございました」

「また様子見にくるからな…」

「うん。ありがとね、アーサー」


二人を玄関まで見送って、キッチンで冷凍庫から保冷剤を取り出してハンドタオルに包んだ。


「ほらギル、頬っぺた冷やして」

「…」

「痛い?」

「…名前」


腫れている頬を覆うように右手を添えると、ギルの震えた手が私の手首を掴んだ。


「俺…マジで最悪…その痴漢ぶん殴ってやりてぇ…でも、一番殴りたいのは、俺自信だ…」

「…なに言ってんの。もう殴られてるじゃん。それにギルはなにも悪くないでしょ」

「悪いのは俺だ。あの時、あんな事で怒ってお前から離れなきゃ、あんな事には…」


ぎゅっと、手首に込められた力が強くなった。
俯き肩を震わせるギル。
きっと、自分自信のいろんな後悔の念に立たされているんだろう。


「ギル…あのね…」

「俺の名前呼んでたって、痴漢に捕まった時、俺の名前を必死に呼んでたって…」

「…アーサーに、聞いたの?」

「俺があんな事しなけりゃお前は…」

「ギル…」

「いくら後悔したって悔やみきれねぇ…なんで俺、最低にも程があんだろ…なんでお前が…」

「ギル…」


震えるギルの頭をぎゅっと包み込むようにして抱きしめると、痛いぐらいに抱きしめ返された。
篭った声で何度も、「ごめん、ごめん」って。


「守るって決めたのに…」

「もう、いいから。大丈夫」

「名前…」

「大丈夫だよ。ギルが、ギルがこうやって居てくれればもう大丈夫。私ね、あの時怖かった時も安心して泣いちゃった時も…ずっとギルに会いたかったんだ。会って、謝りたくって。それでいつものように馬鹿言って口喧嘩して…いつもと同じギルに、すっごく会いたかったんだ」


だからもう大丈夫だよ。

そう耳元で呟くと、また強く強く抱きしめられた。










「いいんですか、アーサーさん」

「あぁ」

「アーサーさんも不器用な方ですね…。あのまま名前さんからギルベルトさんを突き放してしまう事もできたでしょうに…」

「そんな事したって名前は幸せになれないだろ…。俺は名前を幸せにしてやりたいんだ」

「お人よし、ですねぇ…」

「お前に言われるとはな…。だけどあんな芋男に譲ってやる気なんて更々ねーよ。絶対、誰にも譲らない。あいつを守るのは俺なんだからな」

「そうですか…」

「あいつのためなら、どんな犠牲でも払う覚悟はできてるんだ」

「貴方になら、安心して名前さんを任せられるかもしれませんね…」

「あのプー太郎…。あいつだけには、絶対負けねえ…」

「健闘を祈っています」

「…ったく、お前すぐ見え透いた嘘つくよな…」

「さぁ、どうでしょう。私は名前さんが幸せであらばそれでいいのですよ。たとえそれが誰であろうとも」

「それが自分じゃなくても、か?」

「…ええ。では私はこの辺りで帰らせていただきますね。原稿が残っていますので」

「あぁ、呼び出して悪かったな…」

「いえ。ギルベルトさんには明日たっぷり私からの制裁を受けていただきます。でないとむしゃくしゃした気が収まりませんので」

「あぁ、再起不能になるまでやってやれ」

「ギルベルトさんが今後何人の方に制裁を食らわされるのかが見ものですね…」

「全員だろ…」

「不憫ですねぇ、彼も」







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