なんだ、またアップルパイ作ってんのかよお前」 髪に寝癖をつけて寝惚けなギルは目を擦りながらキッチンにやってきた。 「昨日アルフレッド君にアップルパイあげたらマシュー君の分まで食べちゃってさぁ。それにもっと食べたいって言うから林檎も余ってるしまた作る事にしたんだよ」 「ふーん…。俺様の分も残しておけよ」 「はいはい」 「ねみぃ…」 「重いんだけど」 林檎を鍋で煮詰めている私の背中に圧し掛かって肩に顎を乗せたギル。 危ないつってんのに分かんないのかなこの子は。 「うまそ…。味見させてくれよ」 「まだ出来上がってないでしょーが」 「そのままでいいから」 というか近いよお前…。 まだ眠いのか全体重を私の背中に乗せていてすっごく重い。 なんなんだこのでかい子供は。 ギルを押し退けてなんとかアップルパイを焼き上げれば時刻はお昼すぎ。 昨日と一昨日、休日返上で仕事したから今日と明日は休みなんだよね。 あとはこれをアルフレッド君の大学まで持って行ってあげるだけだよね。 「ギルも一緒に行く?アルフレッド君の大学」 「めんどくせぇ」 「それじゃあ私行ってくるねー」 アップルパイを箱に入れて崩れてしまわないようにアルフレッド君達の通う大学までやってきた。 確かこの門の近くで待っててくれるって言ってたんだけどなぁ…。 「名前!!こんなとこで何やってんだよこのやろー!」 「あ、ロヴィーノ君。ちょっとアルフレッド君とマシュー君と待ち合わせを、ね」 「またあのデブかよ…。それより今から俺とどこかに出掛けないか?美味しいピッツァの店があるから奢ってやるよ」 「ピザかぁ。そういえばお昼食べてなかったしお腹空いてたんだよね…」 「じゃあ連れてってやるよ」 「あ、でもこのアップルパイアルフレッド君に渡さないと…」 「あ、アップルパイってお前が作ったやつか!?」 「うん。昨日ローデリヒさんにロヴィーノ君たちの分も渡しておいたんだけど貰った?」 「一応受け取ったが…フェリシアーノの奴が俺がシャワー浴びてる間に食っちまった…グスッ…」 ふるふると震えて涙を浮かべるロヴィーノ君。 なんだか不憫に思えて箱の中から一切れを取り出した。 「どうぞ。良かったら食べて」 「い、いいのかよ!?」 「いいのいいの。味は皆の保証付きだぜ」 「なんだよその口調…。ま、まぁ貰ってやるよ…」 アップルパイを受け取りその場で食べ始めたロヴィーノ君は頬っぺたに食べカスをつかながら「ボーノ…」と呟いた。 「おーい名前ーっ!!ごめんごめん遅れちゃったー」 「こんにちは名前さん。わざわざ来てもらってごめんね…」 「やほーアルフレッド君にマシュー君。アップルパイ持って来たよ」 「イッエーイ!!名前のアップルパイすっごく美味しいんだぞ!!全部俺のものだー!」 「アルフレッドは昨日僕の分も食べたじゃないか〜!だから名前さんわざわざ焼きなおしてくれたのに…」 「ちゃんと二人で分けて食べるんだよ?」 「勿論さっ!!」 「おい名前、そろそろ行くぜ」 「あ、うん。それじゃあまたねー二人とも」 「ちょっ、ちょっと待ってくれよ!!」 むすっとした表情のロヴィーノ君に手を引かれ慌ててついて行こうとすると、反対の手をアルフレッド君に掴まれてしまった。 …なにこの状況。 「何すんだよテメェ。その手離せこのやろー」 「君こそなんだい。気安く名前の手に触って欲しくないんだぞ」 「テメェこそ離せデブ。こいつは俺の女だ」 「はぁ?君頭おかしいんじゃないのかい?名前は俺のヒロインって100年前から決まってるんだぞ」 私の頭上に火花が散った気がした。 「おーい二人ともー。お姉さん腕痛いから離してくれないかなー…」 「名前は今から俺とデートなんだよ。ガキは家で母ちゃんのおっぱい吸ってろバーカ!」 「なんだって!?そんなの許さないんだぞ!!名前は今から俺と一緒に映画を見に行くんだ!!」 「え、なんでそうなるの?」 睨み合う二人を何とか抑えようとマシュー君が声をかけているけど二人には聞こえていないようだ。 私って年下に懐かれやすいよなぁ…。 いや、可愛いからいいんだけどね。 だけど限度ってものが…。 「じゃあさ、皆で一緒に行くってのはどう?」 「「それじゃあデートじゃないだろ!?」」 「もうどうでもいいから私帰ってもいいかな。お腹空いてんですよ私」 「じゃあ俺と一緒にハンバーガーだ!!」 「いーやピッツァだ!!」 「いい加減にしろよお前ら…」 その後も喧嘩を続ける二人を近くのお店に連れて行き、一時間にわたる説教をする羽目になってしまった。 最後まで真面目に聞いていたのは全く関係のないマシュー君だけで、ロヴィーノ君は「シエスタの時間だ!」だとか言って昼寝を始めるしアルフレッド君は「もっとハンバーガー食べたいんだぞー」と両手に沢山のハンバーガー。 もう若い子達についていけないよ、私。 マシュー君に「あの…帰ったら紅茶にメイプル入れて飲んでね。落ち着くから」と向けられた笑顔に心が救われた。 今マシュー君がすっごく輝いて見えるよ。 なんていい子なんだ…! 家に帰るなり「腹減った!!お前昼飯作っていかなかっただろ!?っとに無能だな無能!!」と地団駄を踏むギルの胸倉を掴んで「あぁ?」と低い声を出すと「…なにも」と消え入りそうな声が返ってきた。 はぁ…。今日は本当に疲れた…。 仕事から帰ってきたアーサーが「お前大丈夫か?」と頭をぽんぽんと撫でてくれて不覚にもアーサーが愛しくなった。 ついてに紅茶を入れてもらってマシュー君の言うとおりメイプルシロップを入れて飲むと心が和んでとっても癒された。 うーん、マシュー君とアーサーに感謝しないとなぁ。 . ←|→ |