「おや、名前さんは今日もお仕事ですか」 「あぁ。昨日も仕事に行ってたぜ」 「日曜だというのにご苦労ですねぇ…。林檎のお礼にと思って柿を持ってきたのですが…」 「あいついねーし食っちまおうぜ!!あと冷蔵庫に昨日あいつが作ったアップルパイの残りが…」 「なんと。名前さん手作りですか。オークションで顔写真付きで出せばいい値が付きそうな代物ですね」 「珍しく美味くできててビックリだぜ!」 名前さんの料理はいつも美味しいですけどねぇ…。 特に最近は腕を上げられて苦手だと仰っていた煮物なんかも上手に味付けできるようになってきたと思います。 やはり毎日食べてくれる誰かがいると料理の腕も上がるものなのでしょう。 ―ピンポーン 「お客さん、のようですね」 「ったくめんどくせーな…。本田、柿剥いといてくれよ」 「分かりました」 冷蔵庫のアップルパイをキッチンカウンターに置いたギルベルトさんはパタパタとスリッパの音を立てて玄関へと走って行かれました。 先日新調したらしいギルベルトさんの新しいスリッパは、熊さんのぬいぐるみがあしらわれています。 名前さんの趣味丸出しで実に素晴しいですね。 「おぉルッツ!!俺に会いに来たのか!?」 「いや、名前に会いに来たんだ」 「…そんなにハッキリ言わなくても…」 「名前にこれを渡したくて来たんだが…」 「なんだよ、それ」 「ひよこ饅頭だ」 「ひ、ひよこ…!?」 「あぁ、ルートヴィッヒさん。こんにちは」 「ん…本田、だったな。一緒にどうだ?」 「ひよこ饅頭ですか。ありがとうございます。大好物なんです、私」 「本田おまっ…!!ひよこ食うのかよ!?もしかしてお前もピヨちゃんの命を狙って…!!!」 「すまん本田。兄さんは頭が可哀想なやつなんだ」 「ええ、存じております」 きっとギルベルトさんはわんこそばにも素敵な勘違いをしてくれるんでしょうねぇ。 「しかし今日名前さんはお仕事で出掛けていまして…」 「そうだったのか…。あいつも色々と大変だな。それじゃあこれを渡しておいてくれないか?」 「はい、承知いたしました」 「ルッツもアップルパイ食ってけよ。うめぇぜ」 「アップルパイか…しかし名前が居ないのに勝手に家に上がるわけには…」 「名前さんには私からメールでお伝えしておきますよ。柿もありますので一緒にお茶にいたしましょう」 「あぁ…すまないな」 ルートヴィッヒさんに上がっていただき、まだ途中だった柿に包丁を入れていくつかに切り分けてお皿に乗せます。 美味しそうな柿ですね…。 「ん、美味いな」 「だろ?珍しくあいつにしては上出来だぜ」 「ではルートヴィッヒさんにいただいたひよこ饅頭をいただきましょうか…」 「ひ、ひよこ饅頭…。ピヨちゃんは見ないほうがいいぜ。俺の後ろに隠れてろ」 「ピイ」 「ただのお饅頭ですよ。ひよこの形に模られているんです」 「ちょっ、そんな可愛い物を食べるのかよお前…!?」 「はい、美味しいですよ」 頭からがぶりとひよこ饅頭に齧り付くとギルベルトさんが「ぎゃぁあああ!!」と叫び声をあげられました。 美味しいんですけどねぇ…ひよこ饅頭。 ルートヴィッヒさんもあきれ返ったご様子で「煩いぞ兄さん」とギルベルトさんを叱っておられます。 どちらが兄か分かりせんねぇ…。 しかしそれがまたイイです。 三人で他愛のない会話に花を咲かせ、気がつけば空には一番星が見え始めていました。 「名前は遅いんだな…」 「あぁ、今日はエリザんとこ寄るつってたから遅くなるってよ」 「そうか。しかしこんな暗い中女性を一人歩かせるというのは…」 「あー。その変は大丈夫。俺迎に行ってるし」 「な、なんですってぇええええ!?」 「どうした本田!?」 「ぎぎぎぎ、ギルベルトさん、今なんと…!?」 「いや、なんかあいつこの間変な足音に後つけられてた気がするとか言うから…帰りは駅まで迎えに行くことになってだな…」 「グッジョブ!!グッジョブですよギルベルトさぁああああん!!!私が何も裏工作をしないでもこの美味しい展開!!寒い中二人で歩いて手を繋ぎポケットに手を突っ込む素敵なフラグゥウウウウ!!!」 「どうした本田!!だ、大丈夫なのか!?」 「心配するなルッツ。いつもの病気だ」 「病気なのか!?」 「あぁ。オタク病」 なんという事!!まさかそんな急展開が私の知らない場所で起こっていただなんてぇええええ!!! これは早速次のネタに使わせていただきましょうか…。 あぁ、今から担当さんに電話をして打ち合わせを…それから次のカラーも変更してポップなデザインからシンプルかつキュンなものに…。 ああああ!!私の中にある作者魂が抑えきれないっ…!!! 「すみません、私そろそろお暇させていただきます」 「なんだよ急に。晩飯食っていかねーのか?」 「はい。もうお腹いっぱい…げふんげふん。これから少し用がありますので家に帰ってネタ合わせを…じゃなくて仕事の続きをしなくてはいけませんので」 「そうなのか…お前も色々と大変なんだな…」 「えぇ。ルートヴィッヒさん、また今度フェリシアーノ君ロヴィーノ君と一緒に遊びに来てくださいね。美味しいお茶菓子を用意しておきますので」 「ああ。あいつ達もお前に会いたがっていたからな」 「はい。それではギルベルトさん、名前さんによろしくお伝えください」 「おー」 玄関を出て早足で自宅に戻り、担当の小笠原さんに電話をかけて次の原稿の打ち合わせを行い早速原稿に取り掛かりました。 今回はスラスラと描けて締め切りに悩まされることもなさそうですね…。 あぁ、なんて素敵な事なのでしょうか!! もっとあの方達を観察して沢山の萌えをファンの皆様に提供しなくては…!! ふふふ…。今夜は眠れない夜になりそうです。 . ←|→ |