「はいアーサー。お土産」

「ん?どこか行ってたのか?」

「うん。昨日ギルと一緒に水族館にね」

「は…?あ、あいつと二人で、か…?」

「うん、二人で。楽しかったよ、イルカとかラッコとか」

「……ば、バカァアアア!!」

「何、なんでバカ!?何もしてないよね私!?」


うるうると涙を浮かばせたアーサーは「バカバカバカ!!」と私の肩をポカポカ殴った。
当然肩叩き程度の強さなので全く痛くはないけど…どうしたの、この子…。


「お、俺が休み返上で仕事してるときに何やってんだよ!!」

「家族サービスだからね!?たまにはどこかに連れて行ってあげないとギルがグレるじゃん」

「息子か!?なんだよ二人で水族館って…あんなの男女のテンションとムードを盛り上げる為だけに作られたようなもんだろ!!暗い場所でイチャイチャするんだろバカァアア!!!」

「お前の頭どんだけ不純なんだよ水族館に謝れぇえええ!!」


水族館のお土産の”バンドウイルカゆで卵”をアーサーの顔面に叩き付けると卵の殻が割れてアーサーの頭に散らばった。
もうなんなんだこいつ。


「グスッ…なんだよ湯で卵って…」

「うん、多分普通のゆで卵。アーサーを誘わなかったのは悪かったって…。だけど仕事が入ってたんだししょうがないじゃん」

「だけど…。水族館とか…あんなの観覧車と一緒だ。キスする為に作られたんだ」

「ほんとお前全世界に謝れ」

「うっ…」


玄関先で膝を抱えて足の間に顔を埋めるアーサー。
ほんとにこいつどうにかしないと。
自分も同じようにしゃがんみ金色に埋まったゆで卵の殻を払ってあげると、服の裾をギュッと握られた。
これじゃあまるで昨日の男の子と同じじゃないか。


「やぁ名前!遊びに来たぞ!玄関先で何やってるんだい?」

「アルフレッド君…。ちょっと色々とね…ハハハ」

「目が荒んでるぞ。っていうかなんだいアーサー、なんか卵くさい」

「ばっ、別になんでもねーよ!!!」


弟の前では涙を見せたくないのか袖口でごしごしと涙を拭き取るアーサー。


「それより名前、今日はこれを持ってきたんだよ!」

「なにそれ。DVD…?」

「あぁ!この間の体育祭のさ!後輩がわざわざ持って来てくれたんだよ。せっかくだから皆で見ようと思ってね!」

「うわー見たい!あ、そうだ。写真もちょうど出来上がったんだよ」

「OH!ナイスタイミングじゃないか!それじゃあ名前手作りのホットサンドでも食べながら皆で見よう!!」

「遠まわしに作れってか?ったくもう…」

「お腹ぺこぺこなんだぞーっ!!」


早く早くとアルフレッド君に肩を押され自宅へと入っていく。
まぁ仕方がないから作ってやるとするか。


「やぁG!!元気かい!?筋肉痛で走れなくなればいいのになぁ〜HAHAHA!!」

「おまっ、あの時の事やっぱり根に持って矢がるな…」

「俺はそんな女々しい男じゃないぞ!!次は絶対に勝ってみせるから覚悟してるといいさ!」

「生憎俺様は足の速さじゃ誰にも負けたことないぜ?」

「ブー。だけど次は絶対負けないんだからな」

「言ってろ。ケセセセ!!」


慣れた手つきでデッキにDVDをセットしたアルフレッド君は「名前も早く!!」と私を促した。
誰の為にホットサンド作ってると思ってんだろうあの子は…。
それなりのオープニング編集まで行われているDVDは何時どこで撮っていたのか、色んな角度からの撮影が行われていた。
さすがお金持ち学校…。レベルが違うよ。


「俺卵くせぇ…」

「あぁアーサー。アーサーも食べる?」

「あぁ…俺も何か手伝おうか?」

「アーサーは何もしないのが一番のお手伝いだっていつも言ってるでしょ」

「料理でも何でもいいから手伝わせてくれよ」

「んー…じゃあ作るの手伝ってもらおうか」


目をキラキラと輝かせたアーサーは腕まくりをしてパンに色んな物を挟んでいく。
うん、あきらかに変なものも混入してるみたいだけど別にいいよね。
アーサーも機嫌良くなったみたいだし。


「あ、名前だ!!」

「おー、アイスに運ばれた時のか。っていうかアイスのやつスゲェな、あいつ持ち上げるとかマジでスゲェよ」

「俺だったら片手で持ち上げられちゃうぞ!!だけど重かっただろうになぁ。きっと我慢してたと思うよ、彼」

「おいコラそこのガキ二人。いい加減にしないとサンドの中に異物混入するからね」

「いや、あんな鬼女連れて行くとかマジ勇者だぜアイス」

「きっとお題は”ドS”か”鬼”だと思うぞ」

「違いねえ」


アーサー手作りのできたて熱々ホットサンドを二人の顔面にめり込ませると、その衝撃で叫び声さえ出てこなかった。


「お、おい…ちょっとやりすぎじゃ…」

「何か言った?」

「いや…なんでもない…」

「こんな二人は放っておいて私の部屋で一緒にこのDVD見ようか。アーサー酔っ払ってたからあんまり覚えてないでしょ?」

「う…あ、あの時は、その…」

「はいはい、顔赤くしなくていいから。あ、冷蔵庫のお茶も一緒に持ってきてー」

「あ、赤くなんかしてねーよバカァア!!」

「耳元で叫ばないでよー。っていうかアーサー卵臭い」

「お前のせいだろ!?」

「そういえばそうだった。ごめんごめん」

「お前なぁ…!!」

「アハハハ」


その後は二人でDVDを見ながら談笑したり楽しく会話に花を咲かせたりと充実した時間を過ごした。
今日でシルバーウィークも終わりだったし、けっこうゆっくり体を休める事ができたよね。
明日からまた仕事に頑張らなきゃだ!!

夕方になってリビングに戻ってみると、ゾンビのような顔をした二人が地面をはって近づいてきたので背中を踏みつけてやるとまたしばらく動かなくなった。
アーサー、ホットサンドの中になに入れたんだろう。
まぁお仕置きにもなったし、別にいいか。






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