「大きいねーこの水槽!!あ、鮫だ鮫。でっけぇ」

「こんなのに襲われたらひとたまりもないぜ…」

「うわ、でもあそこに飼育員の人居るよ!!怖くないのかなぁ」

「ジョーズだよな、ジョーズ」


二人並んで巨大な水槽の前でぽかんと口を開けて首を上げる。
多分魚達から見たら俺たち今すげー馬鹿面してると思う。


「大きい水族館だから水槽もダイナミックだよね。これって厚さ何ミリぐらいあるんだろう…割れて水が出てきたりしないのかな」

「ちょっ、やめろよそういうの!!」

「鮫とか出てきてさ、ガブッと!!」

「ヒィイイ!!想像しただけで恐ろしいぜ…!!」


最初にこいつが俺様と二人で出かけたいって行った時は色々とドギマギしたがこれぐらいどうって事無いよな。
デートだとか言うから柄にも無く緊張してたけどいつもとそう変わんねーし。


「それにしても人多いね」

「だな」

「なんか色々イベントもやってるみたいだしね。迷子にならないように手ぇ繋いでおこうか?」

「んなガキじゃねーよ俺は!!」


手を差し伸べる名前に若干なるときめきを感じつつも手を振り払う。
あれ、なんか今かなりもったいない事してしまったような…。


「迷子になっても知らないからねー」


不機嫌そうに口を尖らせる名前。
うわ…やっぱり素直に繋いどけば良かった…。
誰にも邪魔されない且つ手なんて自然に繋げる機会なんて滅多にないぜ!?
…ちくしょう!


「あ、ラッコだラッコ。いやー可愛いねぇー」

「あぁー…なんだっけこいつ、えら呼吸?」

「いや、哺乳類だからこの子達」

「なんで水の上で浮いてんだよ」

「さぁ。軽からじゃない?」

「お前無茶苦茶だよな」

「テメェにだけは言われたくなかったよ」


なんだこの会話。もうちょっとムードのある話できねーのかよ…!!
隣でイチャイチャくっついてるカップルがやけに眩しいぜ…。


「あ、マグロだ。なんだか水族館行くとお寿司食べたくなるなぁ」

「こんなやつ相手にいいムードになるわけねーか…」

「んー、なんか言った?」

「なんでもねー」


諦めてたっぷり水族館を堪能するとするか。

だらだらと館内を見回って、名前が見たいとか言ってたイルカのショーも堪能した。
シャチかっこよすぎるぜ!!


「ちょっともう一回あっちの水槽見てきていい?気になる魚がいたんだよね」

「んじゃ一緒に行く」

「いいよいいよ。その辺座って水槽でも眺めててー」


片手をヒラヒラと振って小走りで元来た道を引き返してく名前。
しょうがねぇ、ここで座ってクラゲでも見ておくか。


「おー。動きがキモいな」


ぷにぷにゆらゆらしてやがるぜ!!
なんかこう、見てたら癒されるよなこいつらって。

それからしばらく一心にクラゲを見つめていたが、流石に単調な動きをみつめているのにも飽きてきた。
っていうかなんかあいつ遅くねーか?
さっきから20分はたってるぜ…。
不審に思いあいつが走っていった道を辿っていくと、水槽の一角で名前と知らない男が向かい会っている姿が見えた。

何やってんだ、あいつ


「あ、ギル」

「何やってんだよお前!?」

「それが…ちょっとね」


苦笑いを浮かべる名前の足元を見ると、何かが名前の足にしがみ着いていた。


「迷子になっちゃったんだって。それでこの辺りで子供を捜している人が居ないか聞いていたんだけど…」

「なんだそういう事かよ…。っていうかこういう事は係員に言って呼び出しした方がいいんじゃねえ?」

「それが…」


名前の服を握ってふるふると首をよこに振ったガキは口元をぎゅっとつむんで俯いた。
ガキと視線を合わせて「あれちょっと恥ずかしいもんねー」と頭を撫でる。
いや、まぁ確かにこんなでっかい館内で名前を呼ばれるのは恥ずかしいよな。


「近くに居るかもしれないし、しばらくこの辺りを探してみようか」

「…」

「おいこらお前、返事できねーのかよ」

「子供苛めるな。さ、お父さんとお母さん探しへレッツゴー!」


ガキの手を引いて歩き始める名前。
それからしばらく近くを歩いて回ってはみたものの、一向に両親の姿が見つかることはなかった。
流石にそろそろ係員にでも呼び出しをしてもらわないといけないか、なんて思っているところでタイミング良く現れた両親の姿に二人して胸を撫で下ろした。
事情を説明した名前に深々と頭を下げた両親は、「もう離れるんじゃないぞ?」と子供の手を強く握りしめていた。


「良かったね、見つかって」

「あぁ。あいつ最後にちゃんとありがとうって言ってたな」

「だね」


そういえばさっきの母親、かなりお腹が大きくなってたよな…。
もしかしたらあいつはもうすぐ産まれて来るであろう弟か妹の為に、自分はもっと強くなって両親に迷惑をかけないようにしようとしていたんじゃないだろうか。
だとしたらあの放送で呼び出されるのをあんなにも拒んでいた理由が分かる。

お兄ちゃんだから強く、か…。
俺もルッツが産まれて来る時はそんな事思ってたっけな。


「どうしたの?ギル」

「なんでもねえ」

「ふーん」


意味ありげに頬を緩ませて歩き始める名前の左手をそっと掴む。


「やっぱ、手ぇ繋ぐ。お前が迷子になるといけねーからな」


ぽかんと口を開けて驚いた表情を浮かべたのちに「なにそれ」と笑った名前はぎゅっと手を握り返した。

他所から見たら今の俺達は恋人に見えるのか、だとか
さっきのガキと三人の姿はもしかすると親子にでもみられていたのかもしれないなんて考えて緩む頬を必死に抑えた。


「なににまにま笑ってんの。やらしー」

「うっせぇこのクラゲ女!!」

「なにクラゲって」

「ぷにぷにフラフラしてっからだぜ!!」

「おいこら、ぷにぷには余計だろうが。テメェの頭水槽に埋めるぞ」

「俺が悪かった」



抓られた頬は痛かったけど、繋がれた手は暖かかった。





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