「本田菊、一生のお願いです」

「本田さんの一生のお願いは何度あるんですか」

「だって私…ダメなんです!!お願いだからこれを、このセーラー服を着てください!!!」


この世界ではありえないようなピンクの色をしたセーラーを取り出した本田さんの目は血走っている。
ぶっちゃけ怖いです、本田さん。


「なんで私がこんなの着なきゃなんないんですか」

「萌を…萌えを私にください!!締め切り前で先日の体育祭や昨日のお引越しパーティーにも行けなかった私に幸を!!どうかお恵みをぉおおお!!!」

「いやですよそんなマンガに出てくるようなセーラー服着るなんて!!っていうか二十歳半ばの女に何痛々しいことやらせようとしてんだ爺!!」

「あ、実際これアニメの衣装でうすから。らき○たの冬服です。それに名前さんは童顔ですし高校生でも全然いけます、むしろ年齢と見た目のギャップ萌え」

「いやちょっと無理あんだろ。っていうか一緒に住んでる俺がなんとも言えない気分になるからやめてくれ」

「そう仰らずに…私まだ原稿が残ってるんですよー…しかもカラー。名前さんのセーラーが無いと仕事できません、私」

「どんな我がままだよこの漫画家。ったく…こんな事やってる暇があるんだったら手ぇ動かした方がいいんじゃないですか…」

「いえ…なんというか、家に居ると息がつまってしまって。それに今はちょっと…」


もごもごと何か言いにくそうに口を動かした本田さん。
何かあるのかな…。


―ピンポーン


「あ、お客さん」

「ヒッ…!!」

「はいはーい、今行きます」


廊下を小走りして玄関へ向かい鍵を開ける。
扉の向こうにはスーツをビシッと着こなしたいかにも誠実そうな青年が立っていた。
誰だろう…。


「どなた様…?」

「こんにちは!!こちらに本田先生はいらっしゃいますでしょうか!?」

「本田先生…?あ、本田さんの事か。ちょっと待っててくださいね。ほーんださーん!!どなたかお見えになってますよー!!」

「ヒィイイイ!!!」


なんだろう、あんな怯えた姿の本田さん初めて見たなぁ…。


「本田先生!!締め切り迫ってますよ!?早く戻って仕事してください!!」

「いや、あの…今はちょっと休憩中と言いますか…」

「何時間休憩してるつもりなんですか〜。自分はノリスケさんじゃないんでお隣で昼寝しながら待たせてもらうなんて事できないんすからね!!さっさと仕事してくださいぃいい!!」


うーん、話の内容からして本田さんの漫画の担当の人、かな…?
それにしても元気があるというか…若いし。


「あ、すみませんお邪魔しちゃって。自分本田先生の担当してます。まぁKYとか空気読めないやつとかウザい奴とか色々呼ばれてますけど適当に呼んで仲良くしてください。ちなみに本名は小笠原です」

「アハハハ…。どうぞよろしく」

「いやぁ、まさか実物に会えるとは!!本当に本田先生の連載の主人公ソックリっすね」

「あー…うん。アハハー…」


ほ、本田さんの担当の人…なんか濃いなぁ…。
アルフレッド君とはまた違った元気がある子というかパワフルというか体育会系と言うか…。ちょっと苦手なタイプかもしれん。


「さぁ本田先生!!帰りますよー!」

「ちょっ、待ってください!!まだセーラー服がぁああ!!」

「帰って自分が着ますから早く行きましょうよ!!」

「嫌です!!嫌ですよ男の生足なんて!!」

「それじゃあお邪魔しましたー」

「名前さぁあああああん!!!!」


首根っこを掴まれてずるずると引き摺られていった本田さん。
今回ばかりは同情します、本田さん…。


「なんか濃いやつだったな…」

「だね…。なんか一緒に居ると疲れそうな…」

「本田に同情するぜ」

「セーラー服…着てあげれば良かったかな…」

「やめろ。俺が複雑すぎるぜ」

「ですよねー」


頑張れ本田さん。
原稿終わったら本田さんの好物作ります。


「さてと…」


明日はギルと一緒にどこかにでかけようかなぁなんて考えてるんだけど…。
前日になってもなかなか決まらないんだよねぇ。
雑誌を見て色んな場所を調べてるんだけどどこも人が多そうだし…。
ギルにも相談してみようかな。


「ねぇギル、今行きたい場所とかある?」

「電気屋。新しいゲーム欲しすぎるぜ」

「いやそんなんじゃなくてさ。どこか遊びに行きたい場所とか…?」

「つかなんでそんな事聞くんだよ」

「いやぁ、明日にでもどこか二人ででかけたいなぁなんて思ってさ。デートデート」

「ででででで、デート…!?」


ゲーム機を握っている手に力を込めたギルは少し頬を赤くして「ケッセセセー!」と笑った。
なにが可笑しいんだ、こいつ。


「ま、まぁ別にどこでもいいけど!!おおお、お前が行きたい場所とかでいいぜ!?」

「それが決まらないからギルに聞いてるんじゃん。遊園地とかは連休で込んでそうだし…。他の場所も同じかなぁ」

「あー…まぁどこ行っても同じなら一番興味があるとこでいいんじゃねえ?」

「一番興味がある、ねぇ…」


うーん…実はちょーっと気になってた場所があるんだけど…。


「ギルって魚嫌い?」

「魚?美味いやつなら好きだぜ」

「食う方じゃなくて見るほうね。水族館とかどうですか」

「ふーん…。まぁいいんじゃねぇ?」

「それじゃあ水族館にしましょうか。実は久しぶりにイルカが見たくてね」

「イルカ好きなのか?」

「うん。それにあの水族館の薄暗くて青い雰囲気が好きなんだよね」


行き場所も決まったしあとは明日が来るのを待つだけだよねー。
天気予報では明日は晴れるって言ってたし、ショートかもやってるかもなぁ。
なんてったって里帰りや社員旅行以外でギルと遠出なんてしたことないから良い機会だよね!
明日が楽しみだなぁ…。





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