「うー…もうすぐ夏休みが終わっちゃうんだぞ…」

「うわぁ…その台詞すっごく羨ましい。いいよねー大学生は休みも長くて」

「長くたってあっという間に終わっちゃうじゃないか!!シルバーウィーク明けはもう学校始まっちゃうしー…。映画の編集も早くすませなきゃいけないし大変なんだぞ、俺も」


そう言って机の上にうな垂れたアルフレッド君。いつも彼の前髪の間からぴょこんと立っているアホ毛もしなりと垂れ下がってしまっていた。


「っていうか夏休みも終わりっつーんならこんな場所でうだうだやってる時間勿体無くねぇ?」

「いいんだよ。最近忙しくて名前に構ってもらえなかったからたまにはエネルギーを補充しておかないとな!!」


勢いよく立ち上がったかと思えば洗濯物を畳んでいる私の膝に飛びつくアルフレッド君に小さく溜息をつきながらその綺麗な金髪を撫でた。


「あー。やっぱり名前が一番だよな。すっごく癒されるんだぞ!」

「私はちょっと重くて困ってるんだけどねー。これ終わったら夕食にするからもう少し待っててね」

「あぁ!!お腹ぺこぺこなんだぞ!!ごはんーごはん!!」

「はいはいもうちょっと待っててねー」


なんだか小学生の子供を持つお母さんの気分になりました。


「ん?そういえばそろそろ体育祭の日か〜。懐かしいなぁ」

「あぁ、今度私アルフレッド君の母校の体育祭行くよー。アイス君の応援にね!」

「なんだって!?アイスって誰だい!!」

「ほら、文化祭で会ったの覚えてない?可愛い男の子でメイド服着てた…」

「あぁ…あの君にキスしたガキかい」

「ガキって…あんまりアルフレッド君と年齢変わらないけど…」

「へぇー。ふーん。そうかいそうかい、名前は俺の体育祭は見に来てくれなかったのにそいつのは見に行くんだな」

「ちょっ、無理なこと言うんじゃありません!!私とアルフレッド君が知り合ったの君が卒業する前だったでしょうが」

「だけどずるいんだぞ!!俺だって君にかっこいい姿を見せてあげたいのに…!!」

「あぁ、だったらアーサーの部屋にあるアルフレッド君の体育祭のビデオで…」

「what!?どうしてそんなものアーサーが持ってるんだい!!俺一度もアーサーを体育祭に誘った事無いのに!!」

「なんかコソコソ見に行ってたらしいよ。ほんっとにブラコンだよねー」

「気持ち悪すぎるよ!!」

「俺もけっこう弟は大事にしてる方だけどあそこまでくると異常だよな」


私は知っている。アーサーの部屋のクローゼットの中にはアルフレッド君やマシュー君の成長記録の映像が隠されて居る事を。
本気で気持ち悪がっているアルフレッド君を見てアーサーに同情した。
いつか報われるといいね、アーサー。


「話は元に戻すけどさ。名前が行くんだったら俺も行くよ、体育祭!!母校のお祭りだし俺が参加しても問題ないよな!!」

「生徒の種目に参加するのはやめようねー。あそこの学校は地域交流盛んなんだよね?やっぱり一般のお客さんも多いのかなー」

「うちの学校はやたらと目立つからね。父兄だけじゃなくって他校のやつらも見に来てて色々抗争が起きたりしたっけな〜。それをヒーローのこの俺が追っ払ってやったんだぞ!!」

「…なにやってんのこの不良は…」


そういえばアルフレッド君は高校時代色んな意味で問題児だったってアーサーが言ってたっけ…。
元気がありすぎるからいけないんだろうなぁ。
苦笑いを浮かべてアルフレッド君の頬をやんわり抓ってみると「にひー」と嬉しそうに笑った。
こうやってる姿は無邪気で可愛いよね。

その夜、いつものように夕食を食べにきたアーサーはアルフレッド君の姿を確認して「なんだよお前また来てたのかよ」と憎まれ口を叩きながらも顔はニヤニヤ笑っていた。
そんなアーサーに「キモイ」だの「変態」だのと言葉の暴力を投げるギルとアルフレッド君。
あいつらガキだから容赦ないんだよねぇ…。
涙を必死に抑えたアーサーが私のエプロンの裾を掴んで「あいつらが…あいつらが苛める…」と鼻をすすった。
私は母親か…!!
いっその事母親になったつもりでこいつらの根性を叩きなおしてやろうかと思いつつ瞳に涙を浮かべたアーサーの目を袖口でごしごし拭いてあげるとまた笑顔になって「夕食の準備手伝ってやろうか?」と笑った。
間髪入れず断るとまたしょんぼり眉毛を垂れ下げたアーサーは部屋の隅っこで膝を抱えていた。
まったく面倒くさいやつだ。
まぁ今度の体育祭一緒に行く?なんて誘ってあげれば機嫌も良くなるだろう。
アルフレッド君には申し訳ないけどアーサーだけのけ者にするのも可哀想だしねぇ…
許してくれよ、アルフレッド君…!





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