「名前、こっちですよ!!」

「ピーター君。あのね、やっぱりトニーさん間に合わないみたいだからスーさんに参加してもらう事になったんだ」

「パパだったらパパ役にぴったりなのですよ!!」

「ん。頑張るべ」


気合も充分入ったところでリレーの順番を待った。
私達の出番が来るまではしばらく時間があるかな…
ピーター君のご両親の為にもしっかり頑張らないとね!!


「よし、それじゃあそろそろ行こ「ちょぉおおお!!ちょっと待ってやぁああああ!!!」…と、トニーさんんんん!?」


聞きなれた声のする方へ振り返ってみると、そこにはバイト先のスーパーのエプロインをつけたままママチャリに跨ったトニーさんの姿があった。
え、っていうか自転車のまま運動場に入ってきたのこの人!?


「よ、よかっ、ま、間に合ったぁああ…!!!」

「と、トニーさん!?ちょっ、大丈夫ぅうう!?息あがちゃってるよどんだけ自転車漕いできたのぉおお!?」

「ふぁああ〜…。急いで来たもんやから汗だくやわ〜!!なんや途中で何台か道路に走ってる車を追い越した気ぃするけど必死であんまり覚えてへんわ〜」

「どんだけ早いスピードでママチャリ漕いでんの!?」

「ほんまに間に合って良かった。ごめんなぁピーター、遅くなってしもて」

「別にお前が来なくてもパパが出てくれるんですよ!!」

「ほんま生意気やなーこのガキ。でも親分が来たからには絶対優勝させたるさかい安心せぇよ!!ベールもごめんなぁ、ちゃんと名前ちゃんとこのちっこい眉毛リードするさかい安心してや!!」

「ん。間に合ってえがった」


エプロンを外して汗だくになったTシャツを脱いだトニーさんは鞄の中に入っていた新しいTシャツに身を包んだ。
”トマト一発!!”と書かれたTシャツをパンと叩いて「よっしゃー!!いくでー!!」と叫ぶトニーさん。
うん、よくわかんないけどこれが彼の勝負服らしい。
とにかく間に合って良かった〜!!
これであとはこのリレーに勝つだけだよね!!
よーし、頑張ろう!!!


「親子リレーは障害物競走みたいなものなのですよ!!まず最初にパパがスプーンの上に乗った卵を割らないように走って、次にママが吊るされたパンを口で掴んでからパパとママが一本のポッキーの端と端を口に咥えて折らないように走って、最後に三人で三人四脚をしてゴールなのですよ!!」

「うーん、なかなか難しそうだよね…。パン食いにポッキーか…って、あれ?なんかそれって…」


うん、今競技してる保護者さん達を見る限りポッキーあたりがすっごい苦戦してるよね。
というか親子はおろか夫婦でない私とトニーさんがあれをするには少々抵抗が…
なんというか、顔とか色々近すぎる。
大丈夫か、私。
トニーさんにチラリと目線を送るとニカッと笑って「頑張ろな、名前お母さん!」と余裕の笑みを見せてくれた。
まぁ、あんまに気にする事でもないか。

そんなこんなで私達の出番がやって来て、それぞれがスタートラインに立った。


「おいピーター、その二人がお前の父ちゃんと母ちゃんかよ!?」

「今日だけはシー君のパパとママなのですよ!!」

「へぇ〜。言っとくけど俺の父ちゃんと母ちゃんの方が強いんだからな!!」


この子がピーター君が負けられないって言ってた飛馬って子かなぁ…
本田さん曰く「きっと苗字は星なんでしょうね。ちゃぶ台ガッシャーン!」らしい。よくわかんないけど。
ピーター君の為にも負けられないな…!!

ピストルの合図と共に用意されたテーブルへと走ったトニーさんがスプーンの上に乗った卵を絶妙なバランスと他のお父さん達よりも断然早いスピードで運んでいった。


「と、トニーさん凄い!!」

「だってこれ卵やでぇええ!?落とすなんてもったいない事俺にはできへん!!!」

「そっちか!!貧乏性からなる素晴らしい特技!!さすがトニーさぁああん!!」

「すごいのですよぉおおー!!」


勢いに任せて次の障害物地点へ。
ここでは私がパン食い競争なるものをしなくちゃいけないんだよね…!!


「よーし…!!うっ、ぁ…ふおっ…!!!」


な、なかなか上手く口で掴めない…!!
苦戦している中、視界の隅の方で見えない速さでカメラをきっている本田さんと前のめりになって見入っているアーサーとギルの姿が見えた。
あいつらあとでぶっ飛ばす。
なんとかパンを掴む事がえできて次は難関のポッキーを使った障害物…


「んじゃこっち俺が咥えるからそっちがわ名前ちゃんが咥えてな」

「う、うん」

「早くするのですよ!!後に迫ってきてますよ!!」


長さ約20センチほどのポッキーの端と端を咥えてみるとその距離わずか10センチほど。
やばい、本当に恥ずかしいのですが…!!
だけどそんな事言っている場合じゃない!!
慎重にポッキーを折らないように最後の障害物地点まで走りきった。


「はいトニーさん、そっちの足ピーター君と結んで!!」

「ほいきた!!」

「それじゃあ私とトニーさんは左足から、ピーター君は右足から出してね!!1、2の掛け声で行っくよー!!」

「レッツゴーなのですよー!!!」


三人でテンポ良く掛け声をかけて横に並んでいた他の家族を追い抜いてゆく。
1位でゴールテープをきれば心地のよいピストルの音がパンと鳴って、ピーター君が「1位ですよー!!!」と歓喜の声をあげた。


「や、やったー!!すごい、凄いよ二人とも!!」

「ほんま俺ら凄いなぁ〜!!最後めっちゃ意気合ってたやん!!」

「最高なのですよ!!ありがとうなのですよ二人ともー!!」

「うわっ、ちょっと待ってピーター君!!足結んだままだから今暴れたら…ってぎゃぁああああ!!!」

「ぴぎゃぁあああ!!」

「うひょぉおおお!!」


まんまと三人してバランスを崩して私はトニーさんの胸に押し倒すような形で倒れ、ピーター君は私の背中にしがみついたまま私の上に乗っかった。
ははは、恥ずかしい…


「あかん、俺今めっちゃ幸せ…」

「将棋倒しですよー!!」

「お前ら何やってんだコラァアアア!!!」

「げっ、眉毛が来た。親子愛を邪魔すんなやー」

「テメェさっきから見てりゃ競技だからってベタベタしやがって…!!殺す、マジでぶっ殺す…!!」

「アーサーさーん。その前に足のロープ外してくんない?動けないんですけど」


目が据わって指をボキボキと鳴らしているいるアーサーに代わって少し遅れていつにない威圧感オーラを出しまくっているスーさんにより足を結んでいた紐が解かれ体も起こしてもらった。
ふぅー…疲れた〜。
本田さん達の元へ戻ると、やたらと機嫌の悪そうなギルがそっぽを向いていて、テカテカとした顔の本田さんが「ご馳走様でした」と本田さんがグッと親指を立てた。
体力を使い切って言い返してやる気力もないよ。
「どうぞ。お疲れ様でした!」とティノ君から水筒のお茶を受け取り一気に飲み干すと自然と安堵のため息が零れた。
うん、頑張ったよね、私。
遠くで喧嘩をはじめるトニーさんとアーサーを先生方が必死で止めようとしている姿が見えたけどいつものように仲裁に入る元気もないよ。
あとやたらスーさんが怖かった。

そんなこんなで色々とハプニングもあったけど午後の部も無事終了し運動会は幕を閉じた。
沢山の1位のメダルを首から下げスーさんに肩車してもらったピーター君は始終嬉しそうに「やったのですよ!!やっぱりシー君は最強なのですよ!!」と嬉しそうに笑っていた。
ピーター君が喜んでくれて本当に良かった。
トニーさんもすっごく嬉しそうで、「今日の事は一生忘れんで、俺!!」と笑って本田さんに写真の焼き増しの注文をしていた。
トニーさん、まんまと本田さんの餌食にされてると思うよ、それ。
夕食はアーサーの奢りで特上寿司を出前し皆で一緒にたらふく食べた。
寿司を食べて機嫌の悪かったギルも機嫌を直していたし、なんだかんだ言ってアーサーも楽しそうに笑っていたので今日のところは良しとしようじゃないか。
明日は一日休みだしゆっくり休む事にしよう!





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