「だから、父親役はだれに任せんだよ!?」

「だーかーらー。まだ決めてないってば。しつこい眉毛だなぁ」

「しつこい眉毛ってなんだよバカァ!!」

「昨晩いきなり玄関のドア叩きつけてきたかと思ったら涙目になって謝ってきて不覚にも可愛いとか思ったばかりなんだけどなぁ…」

「かかか、可愛いとか…!!男に言う言葉じゃないだろ!!」


せっかくの休みの日だって言うのに朝からもじもじニャーニャーと騒いでいるアーサーを軽くあしらって新しく買った本に没頭する。


「あー暇。暇すぎるぜ」

「本田さんの家にでも遊びに行けば?」

「菊なら締め切り明けだと思うぞ」

「なんでアーサーが知ってんの?」

「いや、それは…」


―ピンポーン


「お、俺でてきてやるからな」


チャンスと言わんばかりに玄関に向かっていくアーサー。
なーんか怪しいなぁあいつ…


「ボンジュー…って、なんだアーサーかよ」

「あぁん?なんだよオッサン。ここはお前みたいな低俗の来る場所じゃねーぞ」

「おーおー粋がっちゃって可愛いなぁー」

「んだとコラァアアア!!」

「ハァーイお兄さんのだーいすきな名前ちゅわーん!!」

「うるさいですよ髭。パンに挟まれて食われてしまえ」

「え、お兄さんを食べたいだって?そんな…だけど俺名前ちゃんの為ならMにだってなれちゃう」

「ひっこめ」


私の隣に座ってすりすりと擦り寄ってくるフランシスさんの脳天にギルベルトのかかとが落とされた。
ナイス。たまには役に立つじゃないかギル。


「いったぁ〜!!ちょっ、ギルちゃん!!お兄さんの脳細胞死んだ!!100万個ぐらい死んだ!!」

「小学生か!!擦り寄ってんじゃねーぞコラァ!!」

「あー痛い…」

「トニーの蹴りじゃなかっただけラッキーだと思え。あいつのだったら頭かち割れてんぞお前」

「前々から気になってたんだけどさぁ。トニーさんってそんなに凄いの?」

「凄いって…」


フランシスさんを引き剥がして無理矢理間に座るように入ってきたギルは少し黙って遠い目をした。


「なんていうか…トニーさんってちょっと不思議な人なんだよね。三人は付き合い長いんでしょ?」

「んー…トニーはなぁ…」

「俺よりお前らのが付き合い長いんじゃね?」

「俺は知らねーよ。会う度喧嘩してたってだけで」

「お兄さんは確か高校の時に始めて出会って…当時のトニーってすっごい荒れてたからなぁ。お兄さんも何発かくらったよ、あいつの音速の右足」

「おぉ…トニーさんやっぱり強いんだ!」

「あれをまともにくらったら骨折れるよ、マジで」

「不覚だが俺も何回かやった事ある。まぁその分やり返してやったけどな」

「俺様は…なんかよくわかんねーけど酔った勢いであいつ怒らせちまったかと思ったら記憶が飛んで…目が覚めたら右腕折れてた事あったぜ」

「と、トニーさん…すごいんだね。今はあんなに優しいし明るいし…暴力なんてしないと思うんだけど」

「…名前ちゃんが知らないだけだよ…うん」


フランシスさんが僅かに小刻みに震えた。
何されたんだ、あんた。


―ピンポーン


「ん?誰だろう。はいはーい今行きますー」

「おいおい、噂をすれば影ってやつなんじゃねーの?」

「冗談きついってプーちゃん」

「プーちゃんって言うな」

「はん。あんな下種野郎なんてなぁ、英国紳士であるこの俺が本気出せば一瞬で…」

「うわぁー!トニーさんいらっしゃい!!今日はバイトお休み?」

「いいやー。今終わってん。また夜から入ってるさかいそれまで名前ちゃんとお話でもしたいなぁ思ってな」

「「とっ、トニィイイイ!?」」

「なんやねんお前ら。変な顔ー」


現れたトニーさんの姿に顔を青くしたギルベルトとフランシスさん。
トニーさんはそんな二人がおかしかったのか指差してゲラゲラと笑い始めた。


「今ね、トニーさんの話してたんだよ」

「ちょぉおおおお!!バカ!!お前空気読めよ!?日本人のくせに空気よめねーとかありえねぇええええ!!」

「なになに、俺の話!?なんや親分照れてまうわぁ〜」

「トニーさんが昔はすっごく強かったって話だよ」

「あぁー…その話かぁ。さぞかしええ話し方してくれたんやろなぁ、お前ら。名前ちゃんに変な事吹き込んだりしたら許さんよ?」


何時もより低いトニーさんの声に二人の肩がビクリと震えた。
えっ、ちょっ、トニーさんが怖い…?
重々しい空気に少し不安になってトニーさんを見上げると私の視線に気付いたのか、パッといつもの笑顔を向けてくれた。


「そ、そうだトニーさん!!来週の土曜日の…12日って空いてるかな?」

「12日…?確かバイト入ってた気がするなぁ…」

「そっかぁ。実はアーサーの弟のピーター君の運動会なんだけどね、両親が来られないから代わりに親子参加のレースに出場する事になったの。良ければトニーさんに父親役やってもらいたいなぁーなんて思ってたんだけど…ダメ、だよねぇ」

「なんやてぇえええ!?ちょっ、行く!!絶対!!!絶対に行く!!」

「でもバイト入ってるんでしょ?」

「ばっ、バイトは多分午後一にはおわると思うから、それから駆けつけたら間に合わん…!?」

「確かピーター君親子リレーは最後の方って言ってたような…」

「だったら俺が行く!!絶対行くからな!!カークランドの弟ってのは気にくわんけど俺子供めっちゃ好きやね〜ん!!もう子供は天使やで!」

「そっか。だけど一応来られなかった時のために代役やってくれそうな人も考えておかないとなぁ…」

「絶対間に合うように行くからな!!名前ちゃんと夫婦なんてめっちゃ幸せやんなぁ…」

「やだートニーさんってば、照れる!!」

「ぼへぁああああ!!ちょっ、ばっ、かあえぇえええ!!!名前ちゃんかあええええ!!!俺幸せやー!!」

「あの…すみません…」

「なんやフランシス、文句でもあんの?」


貼り付けたような笑顔を向けられたフランシスさんはアーサーの後ろに隠れて小さくなり「………ありません」と呟いた。
同じくアーサーがふるふると震えていたかと思うと、「認めるかあぁああ!!こんなやつに大事な弟の父親役が任せられるかってんだよ!!」と怒りを爆発させ、トニーさんに掴みかかりそうになったところをフランシスさんが必死に抑えた。
「どっちが野蛮人かわからんなぁ」なんて楽しそうに笑っているトニーさんがちょっと怖かったけど…まぁ、どんな彼でもトニーさんは優しくて明るくて言い人だもんね。
運動会…来てくれるといいなぁ、トニーさん。






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