「君、目腫れてるぞ」

「うるせーよバカァ」

「というか…お二人は何故私の家に居るのでしょう…」

「俺は菊にマンガを見せてもらいに来たんだぞ!」

「お、俺はちょっと聞いて欲しい話があってだな…。明日は休みだし…よっ、よければ今夜はゆっくり話でもと思って」

「私今締め切り前なんですよ。今の私を怒らせたら本当に取り返しのつかない事になりますからね。お二人の口の中に筋ケシぶち込みますからね」

「筋ケシってなんだい?」

「あぁ、すみませんお若い方には分からないネタでしたね。そんなわけなので紅茶でも淹れてくれませんかアーサーさん」

「い、いいけど…なんかお前キャラ違ってないか…?」


いくらペンを動かしてもおいつきません。
あぁ、今夜は徹夜決定でしょうか。
最近ただでさえ最近出番が少なく名前さんに会えなくてイライラしているというのにいきなり押しかけてきたこのご兄弟…。
あぁ、なんたる仕打ち。今すぐ現実逃避して名前さんの柔らかい胸の中にダイヴしたいです。えっこらモフパフ!!


「ほら、紅茶入ったぞ」

「ありがとうございます」

「えー紅茶よりコーヒーがいいんだぞ」

「我が侭いうなよバカ」

「それでアーサーさん、お話とはなんでしょうか?先日頼まれた海の時の名前さんの写真でしたらまだ焼き増しに時間が…」

「ばばばば、バカァァアア!!そっちじゃねーよ!!」

「なんだって!?君そんな事してるのかい!!キモい!!気持ち悪いよアーサー!!!あとその写真俺にもくれよ!!」

「全50種類で一枚500円でゲイツ」

「じゃあそれ全部買うよ」

「バカ、その話じゃねーよ。じ、実はだな…名前と喧嘩したっつーか…そんなんじゃねーけど、昨日バカって言って言い逃げしちまって…なんか顔を会わせ辛くて、だな…」


コピックで一寸の狂いも無く色付けをしつつアーサーさんのお話に耳を傾けます。
あぁ、自分が器用な人間で良かった。


「いったい何が原因でそんな事になってしまったのですか」

「そ、それは…だな…ごにょごにょ」

「声が小さくて分からないぞ」

「うるせーよ!!お前は黙ってマンガ読んでろ!!」

「えー。アーサーが名前にふられるとこが見たいのにー」

「どういう意味だコラ!!」

「…」

「お、おい菊。どこに行くんだよ」

「いえ、お二人が煩いものですから少し黙っていただこうと…。確かここに先日名前さんにいただいた例の飴が封印されていたはず…」

「飴だって!?俺にも一つくれよ菊!」

「あぁ、あの黒いやつか?変わった味だったけどなかなか美味かったよな」

「アーサーさんにあの飴は通用しませんか…チッ」


台所の戸棚からポテトチップスを取り出すと嬉しそうに駆け寄ってくるアルフレッドさん。
この方も大人しくしてくれていれば可愛い孫のようなものなのですがねぇ…
ポテトチップスの袋の半分をお皿に入れてアルフレッドさんに与えてあげると「ポチー!あっちで一緒に食べるんだぞー!」とぽちくんをつれて居間に向かっていきました。
先日叱ったばかりなのでポテチを食べた手でマンガを読む行為はしないでくれるでしょう。


「それでアーサーさん、原因はどういった事で?」

「それが…あいつが鈍感すぎて…その」

「あぁ、いつもの事じゃないですか。あの方は他人の事ばかり気にかけて自分の事については無頓着ですからね」

「まぁ、そうなんだけど…。最近あいつ見てると前より楽しそうっていうか…幸せそうに見えてくるんだよな。お前も以前から名前と付き合いがあったのなら分かるだろ?」

「えぇ。ギルベルトさんが来られてから代わりましたからね、名前さんも」

「あいつを幸せにしてるのが俺じゃなくてあいつだって事にいつもむかついて…ほんと子供みたいだって分かってんだけどな。だけどいつか本当にギルベルトにあいつを持っていかれるんじゃないかって、不安なんだよ…」

「…」


それは私も同じですよ、と出かかった言葉を封じ手に取ったポテチで押し流した。
あぁ、複雑なものですね。
彼も私も。


「名前さんはアーサーさんの事をとても大切に思われていますよ。確かに彼女を幸せにしてあげているのはギルベルトさんかもしれません。ですがアーサーさんが居なくなったら名前さんはどうなるでしょう?きっと今と全く同じく幸せな気持ちでいられるなんて事はありませんよ。名前さんにとってアーサーさんは大切な人ですからね。きっと、誰が欠けても彼女の幸せは成り立たないものだと私は思います。名前さんを想うなら、彼女を幸せにしてあげたいと願うのならどうかこのまま…貴方も彼女の幸せの一部だという事を自覚しなさってください」


見開いたアーサーさんの深い碧の目から視線をずらし再びペンを手に取り絵に色をつけていく。
背後で小さく「ありがとう」と消え入りそうなアーサーさんの声が聞こえたのでこちらも小さな声で「どういたしまして」と返しておきました。
まったく、なんてお人よしなんでしょうか…私のバカ。


「俺、今から名前んとこ行ってくるよ」

「そうですか。いってらっしゃい」

「あぁ。ちゃんと謝って、あいつの笑顔が見れたらまたこっちに戻ってくるからな!!他にもお前に相談したい事が沢山あるんだよ!!あー、やっぱり友達っていいよな!!それじゃあ行ってくる!!」

「…お気をつけて」


……もどってこなくていいですよまったくもう!!
全然原稿が進まないじゃないですか!!!


「菊ー。君って色々損してると思うよ」

「アルフレッドさん…聞いておられたのですか?」

「君だって名前が大好きだろう?」

「えぇ、もちろんですよ。可愛くて仕方のない娘のような存在ですから」

「本当にそれだけなのかなぁ。まぁ菊がそれでいいなら俺は別にいいけどさ。あ、もっとお菓子ないのかい?夜食が食べたいんだぞ!!あとそれから君の部屋にあったこのDVD見てもいいかい?」

「ちょっ、勝手に私の部屋に入らないでくださいよまったくもう!!それにこんな時間にそんなに食べるとまた太りますよ?」

「ま、またってなんだよ!!俺は太ってなんかないぞ!!」

「はいはい。そういう事にしておきましょう」

「もぉおおお!!やっぱり君って何考えてるのか全く分からないぞ!!」

「私の脳内は太ももとスク水を中心に回っていますよ」

「なんだいそれ。あ、そこベタはみ出してるぞ」

「………あ」



あぁ…
今日中に終わるでしょうか、この原稿。



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