「ギルー、本田さん家に行くならついでにこれ返してきて」

「なんだよこれ」

「タッパー。よろしく頼むね」

「おー。行くぜーピヨちゃん」

「ピィ」


ピヨちゃんが頭に乗ったことを確認したギルは本田さんに返す大量の漫画とタッパーを抱えて玄関を出た。
さてと。邪魔なのがいなくなったしゆっくり本でも読もうかな。


―ピンポーン


んー?誰だろう。


「はいはい、どなたー」

「親分をお届けにきたでー」

「トニーさんだ!珍しいね。今日はお休み?」

「せやねん。だから名前ちゃんとこ遊びにいこかなぁと思ってな〜」

「嬉しいな。どうぞ上がってー」

「お邪魔しますー。名前ちゃん家来たらなんや帰って来たって感じがするわぁ」

「実際一ヶ月近くここで一緒に暮らしてたもんね。あ、コーヒーでいい?」

「俺が淹れるわ。名前ちゃんはゆっくり休んでてー」

「トニーさんっ…!!トニーさんがここに居てくれたときはこうやって楽させてもらったもんだよねぇ…。もう一回戻ってきてくれないかなぁトニーさん」

「そうしたいのは山々なんやけどなぁ…。俺は俺がもっと金稼げるようになったら名前ちゃんと一緒に暮らしてほしいねん」

「今のトニーさんでも充分なんだけどなぁ」


私の言葉に一瞬驚いたような顔をしたトニーさんは頬を赤く染めて「やっぱり好きやなぁ。名前ちゃん」と呟いた。


「せや!!お土産持ってきたで!」

「なになにー?」

「トマトやでー!」

「うわぁ〜!」

「俺のアパート屋根飛んでってもたやん?その時裏の庭のトマト畑も結構被害くらっててなぁ。なんとかもち直してやっと収穫できるようになってん」

「美味しそう!!それにすっごく綺麗…!」


スーパーのビニール袋に詰められたトマトも一つを取り出して掌に乗せてみた。
丸くて張りもいいしすっごく美味しそう…!


「一番最初に名前ちゃんに食べて欲しくてもってきてん」

「嬉しいなぁ…。早速いただいちゃっていい?」

「もちろん!食べて食べてー」

「それじゃあいっただきまーす!」


トマトにかぶりつくと、口の中にトマトの汁と種のとろみががじゅわっと広がった。
甘味と酸味がちょうどよくって…すっごく美味しいよこれ…!!


「美味しい〜!!これすっごく美味しいよトニーさん!!」

「ほんまに!?良かった〜!!今年上手いこと育てられたか自身なかったから名前ちゃんにそう言ってもらえるとめっちゃ嬉しいわ!」

「うちのお爺ちゃんもトマトはよく作ってたけどそれとはまた違った味だなぁ…。お爺ちゃんのはもっと果肉が厚いかんじなんだよね」

「育てる人によってトマトも違ってくるんやろなぁ。俺も名前ちゃんの実家でトマト食べさせてもらったけどあれもめっちゃ美味しかったわ〜」


照れくさそうに笑うトニーさんの笑顔を見ていると自然と頬がほころんだ。
その後は一緒に残りのトマトを湯向きにして瓶に詰めたり、トマトゼリーを作って三時のおやつにしたりとたっぷりトマトを堪能した。


「そういや名前ちゃん、ギルの弟に会ったらしいなぁ」

「ルート君?。この間フェリ君とロヴィーノ君をおむかえこの家に来たんだよね。すっごい偶然」

「ロヴィーノがいつも言ってたじゃが芋野郎ってギルの弟やったんやなぁ。俺全然知らんかったわぁ」

「ほんと世間は狭いよねー」

「なぁ、名前ちゃん」

「んー?なぁに」

「もしも、の話なんやけどな。聞いてくれる?」


冗談交じりのような声とは裏腹に、真剣な面持ちで問いかけるトニーさんに心臓がドクリと脈打って逆回転を始めたかのような感覚に襲われた。


「なに…?」

「もし、ギルがいきなりおらんくなってもたらどうする?」

「なんだ…その事かぁ。それなら大丈夫だよ。私も弟くんのところに行っちゃうんじゃないかって思ってたんだけどね…。ギルがここに居たいって言ってくれたから」

「ちょっとちゃうねん。うーん、なんて言ったらええんかなぁ」


苦笑いを浮かべるトニーさんはいつものトニーさんじゃないように見えた。


「もしギルがおらんくなってもて、名前ちゃんには手の届かんような場所に行ってもたらどうする?」

「うーん…」

「そんなに考え込まんでもええで〜。もしもの話なんやし」

「それってギルは自分の意思でこの場所を離れるって事なのかな?もしそれがギルの決めた意志で、それがギルにとって幸せになれる事なら止めないと思う。だけど私は寂しくて泣いちゃうかもね」


実際この間も泣きそうだったもんなぁ、私。


「そっかぁ」

「そうだよー」

「ほんまギルのやつ腹立つ程大切にされてんなぁ…。…後で一発蹴り入れたろかなぁ…」

「何か言った?」

「何にもあらへんよー。そろそろ夕方やしトマト使って夕食作ろか!親分の秘密のトマトレシピ教えちゃうでー!」

「マジですか…!!やったー!トニーさんの料理久しぶりだなぁ〜」


エプロンをつけてキッチンにたつトニーさんの後に次いでキッチンに立った。
うーん、さっきのは何だったんだろうか…。
もしもの話って言ってたけど。あんな真剣な顔したトニーさん始めて見たかもしれない。
まぁ今はいつものトニーさんだし…あんまり気にする事もないか。

その夜はトニーさんの秘密のトマトレシピでとっても美味しいトマトパスタを作った。
ロヴィーノ君も大好きでよく作らされてるらしいんだよね。
それだけの事はあって、シンプルな味わいにトマトの味が凝縮されていてとっても美味しいパスタだった。さすがは親分!
レシピもしっかり教えてもらったからまた今度作ってみようかな。





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