「うわぁ〜!綺麗な薔薇の花ですね!!」

「でしょー?昨日アーサーに沢山貰ったから会社にも持ってきちゃった」

「アーサーさんにですか?うわぁ…アーサーさんも隅におけないなぁ…。ねっスーさ、ってギャァアアア!!こわっ、ひょえぇええええ!!」

「ひゃぁああ!!ちょっとスーさんその顔や
めて!!顔に影作るのやめて怖いよ!!」

「…薔薇」


花瓶に飾った薔薇の花をじっと睨んだスーさんは大きな手で私の頭をがしっと掴んだ。


「スーさん…?」

「あんま男からホイホイもの貰うんでね」

「いや、でもお隣さんだし…」

「貰うんでね」

「はい…」


怖いです。いつに無くスーさん怖いです。
大人しく頷くとホッとした表情を浮かべたスーさんは私の髪をガシガシと撫でました。
心配してくれるのは嬉しいけどやっぱり怖いです。
ティノ君なんて恐ろしさのあまり涙でいっぱいになってます。


「こ、この薔薇どこに飾ろうかなぁ〜!やっぱり一応上司なんだしデンさんのデスクの近くとかがいいよね!?私行ってくるよ!」

「ああっ!!なんで逃げるように走り去るんですか名前さん!!卑怯者ーーっ!!!」


遠くでティノ君の泣き叫ぶ声が聞えたけど気にしない。
空っぽになったデンさんのデスクの近くに花瓶を飾り、安息のため息をついた。


「何してんだ」

「ノルさん。薔薇の花持って来たんで一応上司のデスクにでも飾っておこうかと思いまして」

「あんこにんなもん必要ね。こっち持ってこい」

「いいんですか?」

「あいつは花より団子だっぺ」

「ですよねー」


指示されたとおり花瓶を広々としたノルさんのデスクの上に置くと、いつもはあまり変化しないノルさんの表情が笑顔になった。
いつも笑っていればいいのになぁ、ノルさんも。




―――



「こんばんはー」

「あいやー!!よく来たあるな〜。何かテイクアウトするあるか?」

「いえ、今日はちょっと王耀さんに渡したいものがありまして」

「ん?」


夕方で客入りもまちまちな亜細亜飯店に顔を出すと厨房から王耀さんが姿を現せた。
手に持っていた薔薇を差し出すと少し驚いた顔をされてしまった。


「昨日アーサーに沢山薔薇の花を貰っちゃって…。なので王耀さんにも少しおすそ分けしようかと思って」

「あいやー。あいつそんなクッセー事してるあるか?」

「まぁ…。良ければ受け取ってください」

「勿論あるよ。我も華は大好きあるからな!!感謝するあるよ」


王耀さんの満面の笑みに釣られて私まで笑顔になってしまった。
あとはエリザとトニーさんの所に行って残りの薔薇を渡してから帰ろう。
きっと喜んでくれるだろうなぁ…。

駅に向かう途中、微かに見覚えのある後姿に遭遇した。
あれってもしかして…。


「ルート、ヴィッヒ君?」

「ん…?なっ、お前か…」

「やっぱりルート君だ。偶然だね〜。よくこの駅使うの?」

「あぁ」

「へぇ。じゃあもしかしたら今までに何度かここですれ違ってたりしてたかもね。ふふふ、なんだか不思議」


私より遥かに背の高いルート君を見上げて微笑むと、彼もしかめていた表情を笑顔に変えてくれた。
笑うとギルによく似てるよなぁ、ルート君は。


「そうだ。ルート君にも一本おすそ分けしちゃおっかな」

「ん?何だ」

「はいこれ。ルート君に」

「なっ……!?」


綺麗に咲いた真っ赤な薔薇を一本ルート君に差し出すと、驚いた表情を浮かべた彼はその薔薇と同じぐらい真っ赤に頬を染めた。


「こっ、これは…その、あの…」

「昨日知り合いに沢山貰ってさ。だからルート君にも一本あげるね」

「あ、あぁ…。ありがとう…」


女性から花を貰うのは初めてだったのだろうか。
少し震えた手で薔薇を受け取ったルート君は「それじゃあ、また…また近いうちに伺わせてもらう」と言ってフラフラした足取りで去ってしまった。
大丈夫か、あの子。

エリザのお店に向かいエリザとローデリヒさんに花を差し出し近所のスーパーに立ち寄ってトニーさんにも花を差し出した。
三人ともすっごく喜んでくれてトニーさんに至っては涙を流しながらハァハァと息を荒くしていた。
いや、そんなに喜ばなくても…。
すっかり家に帰るのが遅くなってしまい、玄関で仁王立ちしているギルに軽く頭を下げてすぐにキッチンに向かった。
夕食時に駅でばったりルート君に出会った事と、彼に薔薇をあげると顔を真っ赤にしていた事を教えてあげると食べ物を喉に詰まらせて咽ていた。
それからガミガミ説教をされたけど面倒くさいので聞き流す事にした。


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