「アルフレッドくーん!」

「名前!遅かったじゃないか〜」

「ごめんごめん、着替えてたら遅くなっちゃって…」

「みたいだな。髪乱れてるぞ?」

「え、嘘ォ!?」

「嘘だよー」

「ふふふ、年上をからかうとはいい根性してるじゃねーかボーズ」

「なんだいそのキャラ!!いいから早く行こうよ!コーラとポップコーン沢山買うんだぞ!」

「了解でーす」


仕事の後近くの映画館の前でアルフレッド君と待ち合わせをした。
前々から見たいと思ってたんだよねぇこの映画!
さっそく中に入ってバケツサイズのポップコーンとLサイズのジュースを買って指定された席に座った。
平日の夕方という事もあってか私達以外のお客さんも少ない。
これならゆっくり見られそうだよね。


「ふぁっ…眠い…」

「今から映画なのに大丈夫〜?」

「これぐらい平気さ!だけど最近撮影のほうが忙しくってなかなか休む暇が無くてさぁ。文化祭で発表するからあんまり時間も無いしな」

「そっか…大変だね。でも無理しすぎちゃダメだよ?」

「平気だって。なんたって俺はヒーローだからな!」


なんだか無理してるように見えるけど大丈夫だろうか…。
前髪の分け目からぴょこんと生えている彼のチャームポイントもなんだか萎れている気がする。
そうしている間に辺りは真っ暗になり大きなスクリーンに映像が映し出された。
まもなく始まった映画にポップコーンを食べながら見入っていると、ぼすんと肩に何かが乗っかった。
横目で確認してみるとすやすやと規則正しい寝息をたてているアルフレッド君が私の肩に頭を乗せて眠っていた。
やっぱりよほど疲れてたんだね…。
可哀想だけどこのままそっとしておいてあげよう。
映画ならまたいつでも見に来られるんだもんね。
ちゃんと体を休めないとダメだよ、アルフレッド君。

寝苦しそうに顔をしかめたアルフレッド君の眼鏡をそっと外し自分の膝元に置いた。




「アルフレッド君、アルフレッド君。起きてー」


映画も終わって場内に電気が灯った。
結局最後まで起きなかったなぁアルフレッド君。
彼の体を揺らして起こしてあげると、薄っすら目を開いて私の顔をじっと見つめた。


「ん…どこだい、ここ…」

「映画館です」

「えいがかん…って、うわぁああああ!!!ちょっ、俺、もぉおお!!なんで起こしてくれなかったんだい!!」

「だってぐっすり眠ってたみたいだったから。また今度見に来ればいいじゃん」

「そういう問題じゃないんだよ!!ああもう映画の途中でいい雰囲気の時に手を握ろうとしていた計画が台無しじゃないか!!折角菊から借りたマンガでイメトレしてたのにぃいい!!」

「そんな事考えてたのか大学生!」

「ああもう…最悪だよ、映画の途中で寝ちゃうなんて…。しかも君の肩を借りて寝ちゃうなんてヒーロー失格じゃないか…」


額に手の甲をあててぎゅっと目を閉じるアルフレッド君。
膝の上に置いていた眼鏡をかけて頭を撫でてあげると少し頬を赤く染めて口を尖がらせた。


「…やっぱり年齢の差があるっていやだな」

「なんで?」

「やっぱり子供扱いされてるみたいで嫌だよ。見た目は幼く見えるのに名前は大人だし。俺はまだまだ子供で…いつも名前に子ども扱いされてる気がするんだぞ」


そう言われてもなぁ。
確かにアルフレッド君の事弟みたいに思ってるとこはあるけど…。
やっぱり男の子なのかなぁ。同等の立場に居たいのだろうか。


「そうでもないよ。私だってアーサーと同じ歳なのにいつもアーサーに甘えっぱなしだし。年齢なんて関係ないじゃない」

「だけどアーサーだって名前に甘えてるじゃないか…。ずるいよ。俺だって名前に甘えたいし甘えられたいぞ」

「そう言われましても…」

「ちゃんと俺の事一人の男として見てくれよ。弟なんかじゃなくて、俺はちゃんとした男なんだぞ?」


その真剣なブルーの瞳に捕らえられ一瞬息が止まったかと思った。
いけいないいけない…。
赤く火照りそうになった頬を見られないようにもう一度アルフレッド君の髪をわしゃわしゃと撫でて立ち上がると、「またリベンジしたいからもう一回見に来よう」と
ぎゅっと手を握られた。
「アルフレッド君の映画製作が終わったらね」と答えると可笑しそうに「それまで待ってたら映画が終わっちゃうよ」と笑うアルフレッド君に不覚にも胸がドクンと高鳴った。


家に帰ると、酒に酔った変態四人組+アーサーが玄関まで出迎えてくれた。
まとわり着いてくる四人に少々苛立ちを覚えつつ夕食を作っていると、酒の瓶を片手に持ちベろベろに酔っ払ったアーサーが「今日どんなパンツ履いてんだよバカァ」と私の腰を撫でてきたのでまな板の角を脳天に振り落とすとそのまま地面に倒れて起き上がる事は無かった。
それを見た四人は酔いが覚めたのかやけに静かになってリビングの床の上で正座をしていた。
いや、別に何もしないからね私。
っていうかどんだけ恐れられてんの私は。
まぁこの人たちの日頃の行いが悪いせいだよね。
ったく、こうなるんだったらアルフレッド君と一緒に晩ご飯食べて帰ってくるんだったなぁ…。

年の差っていうものは一つの壁かもしれないけど、それが逆に良い方向へ向かう事だってあるんだよ、アルフレッド君。
こんな酔っ払いのオッサン共に囲まれている今は君の無邪気な声がとっても恋しいよ。
なんて事を伝えたら彼はどんな顔をするんだろう。
今度会った時にでも教えてあげようかなぁ。


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