「そんなわけでギルの弟君が現れたわけなのですよ」

「そんなわけでって…。なんか急すぎねーか?」

「そうなんだよねぇ。まぁ結局ギルはこのまま私と一緒に今まで通り暮らしていく事になったわけです」

「はぁ!?おかしいだろ!!弟が近くに居るんならそっちで一緒に暮らせばいいだろ!?」


仕事帰りに立ち寄ったケーキ家さんでアーサーに先日起こった事について話をした。
まぁ驚くのも無理はない。
ちなみに本田さんにはきちんと昨日連絡をいれておいた。
安心したように「良かったぁああ!!ここでギルベルトさんが居なくなるなんてなんという最終回フラグ!!まだまだこのストーリーは続いてくれるという事ですね!!キャッホォオオオ!!」とか叫んでたけど気にしない。


「まぁそうなんだけどさ。いいじゃんべつに。今まで通りで」

「今まで通りってお前…。はぁ〜…」

「ため息つくと幸せ逃げるよ」

「むしろ俺がこんな現実から逃げてぇよ…。ああもうお前って奴は…」


頭を抱えて机にうつ伏せになりブツブツと何かを言っているアーサーの脇に置いてあるショートケーキをいただき甘酸っぱい苺を口に含んだ。
うん、美味しい。幸せだ。


「って、何俺のケーキ食ってんだよ馬鹿ぁ!!」

「なにやら悶絶しているので食べないのかと思いまして…。まぁ苺しか食べてないから大丈夫だよ」

「なんで苺を先に食べるんだよ!?普通最後にとっとくだろ!!」

「しょうがないなぁ。私のモンブランのてっぺんの栗あげるからお相子ね。はい、あーんしてー」

「なっ…!?」

「要らないなら食べるけど」

「い、要らないなんて言ってねーだろ…」


遠慮がちに口を開いたアーサーの口に栗を放り込む。
顔を赤くしてもぐもぐと栗を食べたアーサーはなんだか嬉しそうで機嫌もすっかり治ったようだ。
…単純な奴め…。


「あれ〜お二人さんお熱いねぇ…。こんな場所でイチャイチャしてたら一人楽しすぎるナイト様に怒られちゃうよ?」

「フランシスさん!お久しぶりです。海の日ぶりですねー」

「ん〜今日も可愛いね名前ちゃん。そのモンブランお兄さんにもあーんして?」

「その髭むしってやろうかアァン?」

「なんだよアーサー。おっかないなぁ〜。これだから元ヤンは…」

「んだとコラ。昔みたいに立ち直れないぐらいにフルボッコにしてやってもいいんだぞ…?」

「うふふふ。それだけはやめて。お前手加減しないから本気で怪我するもん」


アーサーの黒い微笑みに両手をあげたフランシスさんは古傷を押さえながら手をひらひらと振って降参のポーズをとった。


「そうだ名前ちゃん。ギルに明日の昼遊びに行くからって言っておいて。変態男部で」

「そのグループ名気持ち悪いんですけど。まぁ伝えておきます」

「お前ら事ある事にこいつの家上がり込むのやめろよな」

「そういう事だか、またね〜名前ちゃん!アデュー!」

「って、コラァアア!!無視すんな髭ぇええ!!」

「ヤンキー出てるよヤンキー」


プスプスと頭から湯気の出ているアーサーから残りのケーキを貰って食べ終えたところで店を出た。
本当にアーサーとフランシスさんは仲悪いなぁ…。



「ただいまー」

「おぉ」

「さっきフランシスさんに会ってね〜。明日遊びに来るからってさ」

「マジかよ。めんどくせー」

「友達は大事にしなきゃダメだよ?あ。私は帰りにアルフレッド君と映画見て帰る事になったから晩ご飯は適当に食べてね。まぁ皆来てくれるんだし誰かに夕食作ってもらってください」

「はぁ!?」


先ほどアルフレッド君から入ってきたメールに先日お誘いしていた映画の件について返信が届いた。
早速明日の夜見に行こうって事になっちゃったんだよねぇ。
彼もいま映画を撮ってるとかで昼間は忙しいからって。
夏休みなのに大変だよね、アルフレッド君も。


「お、遅くなるのかよ!?」

「まぁ映画見るしね。なるべく早く帰ってくるけど」

「映画って何の映画だよ!?」

「CMとかでやってる洋画の恋愛もの」

「はぁあああ!?ちょっ、お前何考えてんだよ!?あいつまだ未成年だぜ!?」

「お前が何考えてんだ。お互い映画の趣味が合うんだもん。それにギルも明日は皆が来てくれて楽しい時間を過ごすんだし?お互い様じゃん」

「一緒に居てほしいって言ったかと思えばこれかよ!?言っとくけど俺様にツンデレは通用しないぜ!!ケセセセ!!」

「さぁーて晩ご飯晩ご飯」

「無視かよ!?」


その後もキッチンの前でああだこうだと言っているギルの小言を聞き流して夕飯の準備に取り掛かった。
ったくこいつは年頃の娘を持った父親みたいな事言いやがる。
今時の若い子が「親父うぜー」だとか「お父さんの顔見たくない」って言う気持ちが分かる気がするよ。
まぁ明日は楽しみにしていた映画もみれる事だしここは上手く受け流して我慢するしかないなぁ。
お土産でも買って帰ってあげれば例のごとく機嫌も治っちゃうだろうし。
それでもダメなら頭でも撫でてやれば良いだろう。
単純な子で本当に良かった。
クスクスと笑っていると「話聞いてんのかよ!?」と丸めた新聞紙で頭を叩かれた。
ちくしょう…我慢だ、我慢…。






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