「本田さんと連絡が取れないってどういう事?」 「今日の昼間に電話してみたんだけど全然でなくてよ」 「また締め切り前なんじゃない?」 「でもあいつ締め切り前でもメールとかで返事くらいは返すぜ?じゃないと作品に集中できねーとかで」 「そういえば…そうだよねぇ…」 私の隣でじゃが芋の皮を剥いているギルが少し心配そうに「様子見に行ってみねぇ?」と首をかしげた。 うん、私もちょっと心配だから行ってみようかな。 あれでも自称爺さんの一人暮らしだし…。 夕食の準備を済ませて夕飯のおかずをタッパーに詰めて本田さんの家を訪ねてみる事にした。 「本田さーん。本田さーん!おっかしいなぁ。いくら呼んでも出てこないなんて…」 「裏口から入ってみようぜ」 「いいのかなぁ勝手に入っちゃって…」 「俺様はいつも勝手に裏から入ってるぜ!」 「そのうち訴えられるよお前」 恐る恐る裏口から本田さんの家にお邪魔すると、中は電気の灯りはおろか物音の一つもしなかった。 留守なのかなぁ…。 「おーい本田ぁー!居るのかー!?」 「キャワン!!」 「うおっ!!ぽちじゃねーか。本田はどこだよ?」 「わん!!わふっ!!」 「うおおお!?なんだよ!俺様のズボン引っ張るな!!」 「なんか様子がおかしいね、ぽちくん…。もしかして本田さんに何かあったのかも…」 「マジかよ!?おいぽち!!本田の居場所教えろよ!!」 「って、おいおい。ぽちくんにそんな事言っても…」 「キュン!!」 「よし、仕事部屋だな!!」 「って分かるのかよ!?お前スゲェな!!」 動物好きなやつだとは思ってたけどまさかここまでとは…。 これからギルの事ムツゴロウさんならぬギルゴロウと呼ぼうか。 「本田さん!!」 本田さんの仕事部屋に駆けつけるとそこには床に横たわってピクリとも動かない本田さんの姿があった。 「ほ、本田ァアアア!!!しっかりしろよ本田!!誰だ、誰にやられたんだよ!?」 「えええ!?誰かに殺られたの!?ほっ、本田さぁあああん!!!!」 「ちくしょう…こんな事ならもっと本田に優しくしてやれば良かったぜ…名前の着替えシーンを隠し撮りしてこいって頼まれた時素直に頷いてりゃぁ…」 「え、何それ。本田さんそんなこと言ってんの?マジで気持ち悪いんですけど」 「おまっ、それが死者に対する言葉かよ!?」 「うん、っていうか死んでないからね本田さん。息してますから」 「んだよつまんねぇ!!」 「おい!!」 うつ伏せになっている本田さんの体をそっと起こして頭をギルの膝の上に乗せた。 どうしちゃったんだろう本田さん… ”食い込みマニア”と書かれたTシャツに眼鏡姿という事はきっと仕事中だったんだよね…。 とうとう疲労でぶっ倒れちゃったのかな 「うっ…」 「本田さん!!気がつきましたか!?」 「名前、さん…あぁ、貴方の姿が見えるなんて…ここは天国でしょうかね…」 「何言ってるんですか本田さん。ここは貴方の仕事部屋です」 「ん…?こ、この頭に感じる感触は……。ま、まさかこれが夢にまで見た膝枕…!?ひゃっふぅううう!!名前さんの膝もふもふパフパフ!!!!」 「いや、それギルの膝ですから」 「ぼげぇえええ!!男!!男の膝!?いぎゃぁあああ硬いゴツイNOモフモフパフパフゥウウ!!!」 「相当錯乱してますねぇ本田さん…」 「え、別にいつもと同じじゃね?」 「グスッ…酷いです!!酷いです!!男の固い膝に爺の頭を乗せるなんて…!!」 ギルの膝に頭を乗せたまま両手で顔を覆い泣き崩れている本田さん。 もふもふパフパフって…膝を使って何がしたいんだろうこのオッサンは。 青い顔をしている本田さんに台所から水を持ってきてあげるとそれを一気に飲み干した。 「あぁ、まだ胸焼けがする…」 「何があったんですか本田さん…」 「締め切り後で体がだるくて甘いものでも食べようと思っていたんですよ。ちょうど名前さんにいただいた飴があったのでそれを口に含んだら、意識が…」 「って犯人お前かよ!?本田に何食わせたんだよお前!」 「さ、サルミアッキ…」 ま、まさかティノ君のサルミアッキがこんなに凄い威力だっただなんて…。 ティノ君やスーさんは美味しそうに食べてたけどこっちの人には合わない味なのかなぁ…。 サルミアッキを食べようとした私をスーさんが必死に止めてくれた理由が今はっきりと分かったよ… 「疲労が溜まった体だったので衝撃が強かったのですかねぇ…。いやはや、老体にはなかなかショッキングな味でした」 「そんなに不味いのかよ」 「最初はゴムみたいな味でしたね。それからなんとも言えない味が口の中に広がって…その後の記憶はありませんが」 「サルミアッキ…こえーな」 「本田さんごめんなさい…好奇心とは言えこんなブツを差し上げてしまって」 「お前知ってて本田に渡したんだろ!!」 「いえいえ、大丈夫ですよ。まぁどうしてもお詫びがしたいと言うのなら名前さんの膝枕で許して差し上げます」 「さーて。夕食もまだだったしそろそろ帰ろうか」 「あれ?無視ですか?やだなぁ、冗談ですよ名前さん」 「冗談に聞こえませんでしたが」 そういえばあの飴…アーサーにもあげたんだったよねぇ…。 大丈夫かなぁアーサーのやつ…。 家に帰って夕食を温めなおしているといつものようにアーサーが夕食を食べにやってきた。 サルミアッキの事を聞いてみると、「あぁ、不思議な味だよなあれ。でも結構いける味だったよ」と平然とした顔で言い放った。 ……味覚音痴ってのもたまには役に立つんだね。 その後ティノ君から貰ったサルミアッキが戸棚の奥深くに封印されたのは言うまでもない。 . ←|→ |