8月16日。
今日も鬱陶しいほど地上を照らしている太陽に「お前休暇とってこいよ」よ文句の一つでもつけてやりたい程の暑さだ。
俺の同居人…というか家主は男の俺が居るのもお構いなく薄地のキャミソールに太もも丈のパンツというなんとも露出の高い格好でDVDを見ながらくつろいでいる。
いい加減俺が男だという事を理解してほしいぜ。
もうこの暑さは休暇をとらず働き続ける太陽のせいなのか、俺の体が欲情してる熱さなのかも判断できねぇ。


「なんか休みも今日で最後かと思うとダラダラしてていいのかなぁーって思っちゃうよね」

「あ?あぁ、そうだな」

「ギルは24時間365日休みだからいいじゃん。あーもう、体だるいー」


見ていた映画を一時停止させて俺の座っているソファーにごろんと圧し掛かった名前は足を伸ばしたかったのか手摺に頭を乗せ俺の膝の上にその露出された足を乗せた。
っておいおい!!何やってんだよこいつ!?


「降ろせ。俺様は足置きじゃねーぞ」


平然を装って名前の足を退かそうとするものの、本人は「嫌ー」とだらけた声でクスクス笑った。
可愛すぎるんだよちくしょう。
俺様も相当末期だよな。こんなペチャパイ暴力女に…


「暇だなー。サディクさんに会いたいなー」

「なんでサディクなんだよ」

「だってかっこいいじゃん。サディクさんラブ」

「あんなオッサンより俺様の方がかっこいいぜ!」

「ほざけ。お前あれだからな、サディクさんの仮面の下めっちゃかっこいいんだからな」

「お前絶対目ぇおかしい」

「んだとこら。潰すぞ」

「ごめんなさい」


足を上げてかかとを俺の股間に狙いを定めた。
こいつは本気でやりかねないからとりあえず謝っておく。
素直な俺様かっこよすぎるぜ。


「夕食何にしようかなぁ。アーサーに何が食べたいか聞いてこようかな」

「って、なんで眉毛なんだよ。お前なんか最近あいつの事構いすぎじゃねえ?」

「うーん、まぁ海行ったときとか運転手やってくれたし労わってあげたいってのもあるんだけど……。実家でお祭り行った時アーサーとはぐれちゃってさ。その時変なやつらに絡まれちゃったの、私。アーサーが助けに来てくれて半ごろ…殴ってくれたからなんともなかったんだけどね。まぁそういう事もあって改めてアーサーに感謝しないとと思いまして…」


いや、ちょっと待て。
俺らが馬鹿みたいに射撃で遊んでる間にお前そんな目に…
悔しい。そんな時にのん気に遊んでた自分に腹が立つと同時に、助けてやったやつがどうしてあの眉毛なんだとか
嫉妬と後悔がぐるぐると頭の中で渦巻いた。


「まぁそういうわけだから。ちょっとアーサーのとこ行ってくるよ、ってうおおおおお!?」


立ち上がろうとする名前の腕を引っ張って無理矢理膝の上に乗せて逃げられないようにしっかりガードした。


「ちょっ、ギルさんんんん!?ちち近いから!!暑苦しい!!」

「うるせー」


胸板に背中を押し付けてぎゅっと抱き込んでやると珍しく顔を赤くして拒んでいた。
しばらくそのままでいると、「甘えっ子モードですか…」と呟き諦めたのか暴れるのをやめた。
ああもう、柔らけぇなこいつ。
海で俺の背中に隠れてた時も腕とか僅かな胸とかが微かに当たって気持ち良かった。
あの水着は犯則だったよな…。この俺様がこんなまな板女の水着見たぐらいでああなるなんて夢にまで思ってなかったけど。


「暑苦しいよーギルさん。ギル子供体温だもんねぇ。冬は暖かそうだけど夏は暑いよ」


お前だって同じだろ。
それに体の温度だって今は特別熱いわけであって…
ああもう、心臓の音が煩すぎてわけわかんなくなってきた。
絶対この音こいつにも伝わってる。
もういっその事、このままやっちまおうか…なんて


「そろそろ離せー。明日から仕事なんだから休ませろ。それにもう夕食の支度しないといけないし」


あらぬ妄想にふけようとした矢先に現実に引き戻された。
力の緩んだ腕から介抱された名前は立ち上がってキッチンに足を運ぶ。
ちくしょう、また俺は何もできずに逃がしてしまった…
いい加減学習しようぜ俺…。
本田やアルフレッドみたいに素直に自分の思ったことを伝えられたらどんなにいい事だろうか。


「よし、今夜はカレーにしよう。簡単で美味しいし。アーサーの好物だし」

「芋入れろよ。ゴロゴロしたでっかいやつ」

「はいはい分かりましたよ王子様ー」


にやりと笑う名前に僅かな胸の高鳴りを感じて近く似合ったクッションを抱きしめソファーに寝転がった。
あの眉毛の好物だというのは癪だがあいつの作ったカレーそこそこ美味いし。まぁじゃが芋沢山入れてくれるっつーなら許してやらない事もないぜ。
とにかく俺はあんな眉毛にあいつを譲ってやる気もリードされる気も更々ねーんだからな。
まぁこんな女俺様がちょっと本気出せば…


「ギルー。お皿出しておいてね。あと洗濯物も入れてきてー。綺麗に畳むんだよ。あぁーやっぱこき使える奴が居ると楽だよねぇ。あとそれから明日お風呂の掃除丁寧にしておいてね。よろしくー、プー太郎君」

「はぁ!?待てよ、なんで俺がお前にそんなに使われなきゃなんねーんだよ!!」

「ああん?誰のお蔭で生活できてると思ってんだよ。調子に乗ってるとまた寝てる時耳にビールぶちこむぞ。分かったら返事はーギルベルト君」

「………ちくしょぉおお!!やりゃあいいんだろやりゃあ!!」

「そうそう。いやぁーやっぱりギルがいてくれてよかったー」


やっぱ今の無し。
この女は一筋縄じゃいかねーぜ!!
まぁ時間をかけてゆっくりやって行きゃあいいか。
なんてったって俺様はこの女と一緒に暮らしてんだぜ?
時間ならまだまだ沢山あるだろうしな。
最初はこんな場所すぐ出てってやろうなんて考えてたけど今ではそんな考えは浅はかだったと思い知らされてるぜ。
できる事ならずっと、こいつの傍で、名前と一緒に同じ時間を過ごせたらいいと思う。



「ねぇギル、知ってた?ギルがここに来てからもう半年がったってるんだよ。早いよねぇ…だけどこの先はまだまだ長いと思うし…。だからこれからも宜しくね、ギル」


このままずっと、こいつと二人で居られるようにと心から願った。


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