体に圧し掛かる圧迫感に目が覚めた。
薄っすらと目を開くと、まだ眠いのか目をこすりながら私の体の上に圧し掛かるアルフレッド君の姿があった。


「…アルフレッド君…何してるのかな」

「あー…うん。おはよう名前」

「おはようじゃないよ…。重いのですが…」

「名前ー、川遊びー…」

「寝惚けてんの?」


どんだけ川遊びを楽しみにしているんだこのお子様は。
なんとか上半身を起こして眠気眼のアルフレッド君の頬をペチペチと叩くと「痛いよ」と眉根を寄せられた。


「ほら、着替えて顔洗って。朝ご飯食べたら川に遊びに行こうじゃないか」

「名前も一緒に行ってくれるのかい?」

「うん。今日は久しぶりにはしゃいじゃあおうかなぁと」

「やった!!じゃあ俺早く着替えてくるぞ!!」

「はいはーい」


嬉しそうに笑って私の上から跳び退いたアルフレッド君は隣の部屋へ駆け込んだ。
隣の部屋からアーサーの「ぐえっ!」という声が聞えた事からして、アルフレッド君にふんずけられたものだとと思う。
ハイテンションなアルフレッド君は”鍋将軍”と書かれたTシャツを着ながら「忘れてた!」と布団を畳んでいる私の傍に来て膝を折り、頬にキスを落とした。


「おはようのキスを忘れてたんだぞ!」


あぁ、この子はまったくもう…





「おや、川に行くのかい?流れの早い場所に気をつけるんだよ〜」

「うん。すぐそこの川だから大丈夫だよ」

「名前!早くしないと置いて行くぞっ!!」

「お前道分かってんのかよ」

「昨日置いてけぼりくらった君に言われたくないんだぞ」

「んだと!!」

「喧嘩すんなよ。これだからガキは…」

「俺はお前と歳同じだっつーの!!」

「はいはい喧嘩しない。それじゃあ行ってきまーす」

「気をつけてねー」


網と大き目の虫かごを持って家の近くの川に向かう。
川につくなり川にじゃぶじゃぶと入っていったアルフレッド君はいきなりすっ転んで全身ずぶ濡れとなってしまった。


「もー何やってんのぉおお!!」

「ぶえっ!だってここもの凄く滑るよ〜」

「苔が生えてんだから当たり前でしょ。三人も気をつけてね」

「ぎゃぁあ!!」


ばっしゃーん


「って言ってるそばからギルゥウウウ!!!」

「ぶふっ!!ギルだっさー!!めっちゃかっこ悪いやん!!」

「マジ最悪!!パンツの中まで濡れたぜ!?」

「HAHAHA!!俺も俺も!!お揃いなんだぞギルベルト!!」

「自慢すんなよ!?ったく、タオルなんて持ってきてねーぞ?」

「二人とも上だけ脱いでなよ。この暑さだしすぐ乾くさ」


アルフレッド君とギルのTシャツを剥いで近くの岩の上に広げる。


「なぁ名前ちゃん、ここどんな魚捕れるん?」

「んー、夏は鮎とか…あんまり詳しくないなぁ」

「よーし、この網で沢山捕まえてやるぞ!!」

「網じゃ無理だと思うけど…」

「お、おい名前…お前足になにかくっついてるぞ…」

「ん?って、ぎゃぁああ!!ヒルぅうう!!」

「ヒルゥウウウ!?」


アーサーの指差した足元を見ると、そこには黒くてぬめりとした虫が食いついていた。


「ちょっ、いやっ、うげぇえええ!!」

「名前ちゃんじっとしててやー!!ていっ!!!」

「と、とれた…!?」

「大丈夫大丈夫。まだ血は吸われてないみたいやなぁ。多分くっついたとこやったんやろ。危ない危ない」

「と、トニーさっ…!!私今トニーさんが本物のヒーローに見えたよ…!!」

「ほ、ほんまに〜?照れるわぁ」


弾くようにしてヒルを撃退したトニーさんは照れくさそうに笑った。
良かった、ちょっと涙目になっちゃったよ。
ホッとため息をつくと数メートル離れた場所でアーサーがずぶ濡れになって尻餅をついていた。


「アーサーまで何やってんの…」

「えっと、いや…駆けつけようとしたら滑って…」

「これやから都会のもやしっ子はあかんよなぁ名前ちゃん。川嘗めたらあかんでー」

「うっせぇカリエド…川に沈めんぞお前」

「はぁ?無様な格好した奴がなにほざいてんねん。沈められるんはお前の方やろ」

「んだと…?」


川原に響く激しい水音と怒声。
その傍らでザリガニを捕まえて喜んでいるお子様2名。
結局トニーさんも喧嘩でずぶ濡れになっちゃってるし…。


「はいはい、喧嘩は終わり。トニーさんもアーサーも服脱いで。乾かすから」

「ごめんなぁ名前ちゃん」

「わ、悪い…」

「二人ともアルフレッド君とギルみたいにザリガニとかカニでも捕まえてなさい。川を戦場にすんじゃねぇ」

「「すみませんでした」」


計4枚のシャツを干してある所を見た通行人はどう思うだろう。
あそこの娘さんがいい年して川ではいしゃいでるなんで噂になったら嫌だよなぁ…


「何しかめっ面してんだよ」

「ギル。何か捕まえた?」

「すんげぇちっせぇカニ!」

「ほんとだ。ちっちゃーい。可愛いねぇ」

「食えるのか?」

「食べられないことも無いけど…。まだ子供だし返してあげよう」

「おう」


ギルの手の平に乗った一際小さいカニは手の平から川の流れに任せて流れて行った。


「なんでお前だけ濡れてねーんだよ」

「私は馬鹿じゃないもん」

「あぁ?俺様だって馬鹿じゃないぜ!!つーか川に遊びにきたのに濡れない奴の方が馬鹿じゃねぇ?」

「うっさいなぁ。あっちでメダカでも捕まえてろよ」

「んだと…テメェなんてこうしてやるぜーっ!!」

「ぎゃぁあああ!!ちょっ、冷たっ!!何水かけてんのお前ぇええええ!?」

「ケセセセセ!!お前もずぶ濡れになれよ!!」

「なるかーっ!!ちょっ、マジで濡れるから止めろよアホォオオ!!」


しゃがんでバシャバシャと川の水を私にかけるギル。
何やっちゃってんのこいつ…!!


「ケセセ、これでお前もずぶ濡れ……ってうおおおおお!?」

「あーもう最悪…って、何叫んでんの。さっき転んだの打ち所悪かった?」

「ちがっ、おまっ、服!!すけてっ!!」

「はぁ?」

「なんだよ二人ともー。二人だけでイチャイチャするなんて許さないんだぞ!!」

「ばばばばかこっち来んな!!お前も何びしょ濡れになってんだよ!?」

「水ぶっかけた奴お前だろうが…」

「いいから前隠せ!!その貧相なの!!」

「はぁ?前って……あ。」


ペタペタと張り付く自分のTシャツを見てみると、濡れた服に薄っすら透ける自分の下着。
うっわぁ…もう最悪…。
前を隠して身動きのできない私にギルは無理矢理自分のTシャツを頭から被せた。
半乾きで気持ち悪い…。

その日は結局ザリガニ5匹とカニ3匹というなんとも言えない収穫を得て川遊びを終了した。
皆相当疲れたのか、家に帰るなり畳の上に寝転がって規則正しい寝息をたてた。
私も例外ではなく「ビール…」と寝言を呟いているギルの腹を枕がわりにして寝転がると睡魔に襲われ、そのまま眠りについてしまった。
里帰り三日目。自分の持てる体力を全力で使いきったような一日だった。
天国から帰ってきているであろうお父さん、娘は今日も苦労ながらも楽しく過ごしております。


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