「トニーさん、何かしたい事とかある?」

「そやなぁ。名前ちゃんの通ってた学校とか見てみたいわぁ俺」

「学校かぁ。この近くなら中学校が一番近いかな…。行ってみる?」

「行く行くーっ!!」

「じゃ、じゃあ俺も…」

「あらダメよ〜アーサー君は!お隣のトメさんがアーサー君に会いたいって言ってるのよぉ〜。だから今日は婆ちゃんに付き合ってちょうだい!」

「え!?いや、でもあの二人を二人っきりには…」

「婆ちゃんだってたまには若い男の子連れて自慢したいもんなんだよぉ〜。早く孫婿が欲しいわぁ」

「またそれか!!アーサー連れてっていいから早く行け!」

「ちょっ、おい名前!!!覚えてろよお前!!」


ヤンキーかあの男は…いや、そういえば元ヤンだったか。
家の裏から使い古した自転車を引っ張り出してサドルにまたがる。


「トニーさん、しっかり掴まっててね!!」

「よっしゃ!!って、これなんか逆じゃない?普通男が漕ぐもんちゃうんチャリンコって」

「どっちでもいいんじゃない?ほら、ちゃんと掴まってないと落ちちゃうよ」


振り落とされないようにトニーさんの腕を掴み無理矢理私のお腹に回すようにすると、「名前ちゃん…。めっちゃ男らしくてかっこえぇわぁ…親分抱かれたい」と頬をピンクに染めてうっとりとした顔をした。
うん、気にしないでおこう。



「ついたよー。ここが私の母校!」

「へぇー。ここが名前ちゃんの通ってた学校かぁ…」

「やっぱり昔と変わってないなぁ…。もう10年も前なのに」

「10年前の名前ちゃんも可愛かったんやろなぁ〜」

「どこにでも居る平凡な中学生だったよ」


近所のおじさんのとこで小遣い稼ぎにバイトさせてもらいながらダラダラ勉強して。
友達と夜遅くまで遊んでお爺ちゃんやお婆ちゃんに怒られたりと本当にどこにでも居る中学生だった。


「校内とかは入れんのかなぁ」

「今夏休みだしねー。それにしても暑い…」

「せやなぁ。どっか休める場所とかある?」

「んー。どうだろう。その辺り歩いてみようか」


日陰を辿ってフラフラと学校の周りを歩いてみる。
こうやってると色んな記憶が蘇ってくるよなぁ…。
当時見てた風景とまったく同じはずなのに、どこか視点が変わってしまったような気がしたりして。
なんとなくセンチな気分。


「どないしたん名前ちゃん。しんどぉなった?」

「ううん、大丈夫だよ」

「そぉか?しんどかったら言ってな。今度は親分が男らしく自転車漕いたるさかい!」

「うん!それじゃあ帰りは宜しく頼むよ」

「任せとけっ!」


うん、トニーさんと一緒だと明るい気持ちになれるから良いよね。
たまにつまらない事で悩んでてもトニーさん見てたらどうでもよくなっちゃう時あるもんなぁ私。

そのままなんとなく二人で世間話をしながら学校の回りをうろうろと歩き回った。
何をするわけでもないけど、昔ここでどうしただとかあの教室で何があったとか、色んなことを思い出しながら話しているだけで時間もあっという間に過ぎて行った気がする。

帰りはトニーさんの後ろに乗せてもらって、今度は逆に「しっかり掴まっててやー」とトニーさんのお腹に腕を回させられた。
うお、なんかこれ恥ずかしいなぁ…。
家に帰るともの凄く機嫌の悪いギルが畳みの上でゴロゴロ転がりながらふて腐れていた。
どうやら自分だけ置いてけぼりにされたのが悔しかったらしい。
起きなかったお前が悪いんだろうが。
その後げっそりとした表情をしたアーサーがお婆ちゃんから開放されて戻ってきた時はさすがに同情の眼差しを送った。
きっといい玩具にされちゃったんだろうなぁ…。
夕方になりいい色にこんがり日焼けをして戻ってきたアルフレッド君は籠いっぱいに虫を捕まえて私の前に自慢げに突き出した。
虫は苦手じゃないけど流石にあの量の虫を突き出されると気持ち悪い。
ちゃんと山に返してあげるようにアルフレッド君に言うと渋々籠の蓋を空けて蝉や色々な昆虫を空に逃がしてあげていた。
明日は川に釣りに行くんだぞ!と大喜びしているアルフレッド君を微笑ましそうに見ているお爺ちゃんは気持ち悪いぐらいに生き生きしていた。
ギルの他にも競争相手ができて嬉しいのか…それとも孫ができたようで嬉しいのか…。
明日は私も一緒に行ってみようかなぁ。
今日はギルも何もできなかったわけだし明日は皆で川遊びをするのも悪くないかもしれない。
里帰り二日目。昨日に比べて今日はゆっくりとした時間を過ごせて本当に良かったなぁ。



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