「それで、変な人に追いかけられたってどういう事ですか?名前さん」 「それが、やたら顔の良い髭面にいきなり追い回されて…」 「それはまた…!!それでどうなったんです?そのまま捕まって色んな事されちゃいましたか!?」 「あんた楽しんでるでしょ。ったくこっちは本気で怖かったって言うのに…」 二日前、気持ち悪い変態に追いかけられた私は内心ビクビクしていた。 いや、変態が怖いんじゃなくて…。 会社で冗談交じりに「変態に追いかけられたよ〜アッハッハ!」と言ったのが間違いだったのだろう。普段何事にも動じないスーさんが手に持っていたペンを音をたてて握りつぶした。挙句の果てには上司にまで呼び出されて色々と聞き出された。 極めつけに、昨日の帰りはマンションの下までスーさんが送ってくれてしまったのだ。 夜道の電灯に照らされた彼の顔は変態より恐ろしかった。 「アハハ。すみません。でも私だって心配しましたよ?ギルベルトさんに聞いて直ぐに飛んできたんですから」 「だからってわざわざ会社まで迎えに来なくてもいいと思うんですが…」 「いやぁ、会社の中ってどうなってるのか気になってたんですよ。いい資料集めになりました」 「そっちが本当の目的かコラ。本田さんが写真とりまくるから私まで怪しい目で見られたじゃないですか」 「名前さん、ネタ集めに周りの目なんて気にしていたらいけませんよ。恥じかいてなんぼです」 「迷惑の塊みたいな人ですね本田さん」 「光栄です」 何はともあれ、今日は本田さんが居るから恐怖のスーさんとの帰り道地獄は味あわずにすんで良かった〜! 「今日はオラが送ってやっぺ!!」と指をボキボキ鳴らせ、変態に遭遇した時躊躇わずに殺ってしまえそうな勢いの上司はあえて無視した。 「あ、帰りに本屋に寄っても構いませんか?私の連載漫画の最終巻が今日発売したので売れ具合を確認したいんです」 「いいですよー。ついでにギルに料理の本でも買って帰ろうかな」 「え。ギルベルトさん料理されるんですか?」 「ううん。全く出来ないですよ。だから本でも買って覚えさせようと思いまして」 「なるほど…。すっかり母親っぷりが板につきまいしたね名前さん。グッジョブです!!」 だからそれやめろって。 ――― 「うげ!!もう売り切れですか本田さんの漫画!!」 「アニメ効果でしょうね。初回限定もありましたから初日で売り切れるのは想定内でしたよ!フハハハ!!」 「本屋で高笑いしないでくださいよー」 「新連載の方も来月からスタートしますし順調ですよ。やっぱりモデルがいるとちが…ゲフンゲフン」 「なんか言いましたか?」 「いえ何も」 ほんとキャラ変わったよなぁこの人…。 「そうだ、本田さん今日の晩御飯食べていきますか?」 「え…でもご迷惑じゃ…」 「今日アーサーが出張から帰ってきたので奴も一緒ですよ」 「是非行かせていただきます」 「ツンデレ好きめ…。あ、そうだ。ギルの本どれにしようかな…」 「これなんてどうです?」 ”はじめてのおりょうり”とメルヘンな字で書かれた絵本を本田さんが手に取った。 「いいですね。まずはそこからスタートです」 「ちょっコレ見てくださいよ!!”ほうちょうをもつ反対のおててはニャンコの手”ですってぇえええ!!ちょっ、萌ええぇえええええ!!!!」 本田さんの奇声じみた声が店内に響いた。 もうこの本屋には来れないな…。 ――― 「ただいまー」 「おじゃまします」 ドドドドド ん?この足音って… 「名前!!!」 「アーサー。もう来てたんだ」 「今帰ってきて土産渡しに来てたんだよ!!そしたらお前、変態に追いかけられたって聞いて…!!」 スーツ姿のままのアーサーは私の両肩をがっしり掴んで詰め寄ってきた。 近いよ、アーサー君。 「いや、大丈夫だから。助けてもらって平気だったし」 「へっ変なことされてねーだろな!?どこか触られたり…!!」 「あぁ〜。腰?さわさわーって」 「なっ…!!」 アーサーの顔が真っ青になっていく。 「どんな野郎だ…」 「へ?」 「どんな野郎だったか特徴を教えろ」 「え…どうしてですか…?」 うわ…なんか笑顔になったよ…。 逆に怖いんですけどぉおお!! 「ん。俺がぶっ殺してきてやるから安心しろ」 いや、そんな爽やかな笑顔で言われても。 「ふぉぁああ!!素敵じゃないですか名前さん!!!こんな素晴しいナイトがいるなんてっ!!憎いですよコノコノ!!」 「本田さん、フラッシュが眩しいです」 ああもう、なにこのカオス。 アーサーは背後に真っ黒いオーラ出しながら笑ってるし、本田さんはハァハァ息を荒らしながら何処からか取り出した一眼レフで写真を撮るし。 「ギャハハハ!!!お前ら馬鹿だろー!!ぶふっ!!」 笑ってんじゃねーぞプー太郎。 後でベランダから釣り下ろしてやろうと心に決めました。 . ←|→ |