「すみません名前さん。今晩ポチくんを預かってはいただけないでしょうか」


お昼の食事中にかかっつてきた電話の本田さんはいつになく慌てた様子だった。
理由を尋ねてみると、今夜どうしても外せない大切な用事ができてしまったらしく、明日の朝まで家に帰れないとの事らしい。


「いいですよ」

「ありがとうございます!申し訳ございませんが私今外出しておりまして、家には帰れそうにないのです。裏口の植木鉢の下に鍵を隠してありますのでそれを使ってポチ君を迎えに行ってはいただけないでしょうか?」

「分かりました、ギルに行かせてきますね。ポチ君はしっかりお世話させていただきますので安心してください」

「お言葉に甘えさせていただきます」


急な用事ってなんだろう。お仕事関係かな。
ギルに電話をかけて本田さんから言われたとおりに伝えると「今から行ってくる」と返事が返ってきた。
あいつ動物好きだもんねー



―――



「ただいまー」

「わん!」

「ポチくーん!ふふふ、お出迎えしてくれたんだねー」

「わん!」


玄関を開くと足元に飛びつく小さくてフワフワしたポチくん。
尻尾をバタバタ振っててすっごく可愛いぞ!


「ギルただいまー。ポチくんのお迎えご苦労!」

「おう」

「さぁポチくん!私と一緒に遊ぼうか〜。実は帰りにポチくんの為に犬用ビスケット買ってきちゃったんだよね」

「マジかよ!俺のお土産は?」

「ないよー。ほらポチくんおいでー」

「わんわん!」

「ふふふ、可愛いなぁー」


床の上に膝をつき両手を広げればパタパタと尻尾を振って走り寄ってくるポチくん。
ソファーにだらしなく寝転んだギルは面白く無さそうに口を尖がらせた。

夕食を作っている最中に現れたアーサーを玄関で出迎えたポチくん。
なにやら玄関からアーサーのはしゃぐ声が響いている。
あいつも可愛いもの大好きだもんなぁ…。「すっげぇかわいいぃい〜」って甘い声出しちゃってあの子ってば…。
その後もギルとぽちくんの奪い合いをしつつも夕食が出来上がると目をキラキラと輝かせて争いを止めた。
今晩の料理はアーサーもギルも大好きなハンバーグだもんね。
ポチくんにもご飯をあげると嬉しそうに尻尾を振っていた。


「今思えばお前のとこって動物が集まりやすいんじゃないか?」

「どういう事?」

「鳥に犬にヒモとかさ」

「俺は人間だ!!」

「いや、お前はせいぜい虚勢を受けてない犬だぜ。さっさと虚勢手術してこい」

「んだと?じゃあお前は一人じゃ寂しすぎて泣いちゃうウサギさんだろ」

「それはお前だろ!!いや、お前は一人楽しすぎるんだったよなぁ…。寂しいやつめ!」

「友達居ねぇお前に言われたくねーぜ!!」

「うっ…」

「ギル、アーサー苛めちゃダメだよ」

「つっかかってきたのこいつだろ!」


少し涙目になっているアーサーの頭をポンポンと撫でて端を進める。
「キューン」と鳴いてアーサーを心配するかのように寄り添ったぽちくんに私達三人は悶えた。
可愛すぎる…!!

アーサーが帰った後、ギルがお風呂から出てきたのを確認して自分もお風呂の準備をしていると、足元にぽちくんがちょこんと座っていた。


「ぽちくんも一緒にお風呂入る?」

「わん!」

「よし、じゃあ一緒に入ろうか!!」

「はぁああああ!?ななな、何言ってんだよ!?」

「いいじゃん。本田さんもよくぽちくんと一緒にお風呂入るって言ってたし」

「だけどお前、ぽちはオスだぜ!?」

「ギル…それは流石に引くわ…うん」

「んだよその目は!!」

「さぁーぽちくん一緒にお風呂に行こう!」

「わん!」


ぬるくなった湯船にぽちくんを入れてあげると気持ち良さそうにしていた。
犬って水とかお風呂が苦手なイメージがあるんだけどぽちくんはそうでもないんだね。
本田さんもお風呂大好きな人だしよく一緒に入ってるんだろうなぁ…。
お風呂からあがってさっぱりしたところでリビングに戻ってみると、あからさまに機嫌の悪そうなギルがクッションに顔を埋めて拗ねていた。
なんというか、わざとらしすぎてむしろ構ってほしいですと言っているようなものじゃないのだろうか。
まだ濡れたままのギルの髪にドライヤーをかけてやると「んー」と篭ったうめき声をあげられた。
なんだこいつ、ぽちくんより手のかかるワンコだなぁ。
なんだかんだ言って甘やかしてしまう私も私なんだけどね。
髪を乾かしてもらうのが気持ちよかったのか、いつのまにか寝息をたてていたギルにそっとタオルケットをかけてやった。


「それじゃあぽちくん、一緒に寝ようか」

「わん!」


ぽちくんを抱いて部屋のあかりを消し、ベッドに入る。
私の横で丸くなったぽちくんはふわふわしたわた飴みたいに見えた。
今夜はいい夢が見られそうだなぁ…。


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