ここの所仕事が忙しくてろくに休む暇もなかった…。
ちくしょう!!この間の祭りだってが浴衣着てたっていうのに見られなかったしいつもあいつらだけいい思いしやがって!!
いいよな、浴衣。
日本の女性はやっぱり着物が似合う。
あいつだって浴衣を着れば奥ゆかしくてそれはもう花のように美しいに違いない。
あ、別にこれはデレたとかそんなんじゃないからな…
ともかく、だ。昨日は休日返上で仕事をしてしまったわけだが今日は日曜。
せっかくの休みにゆっくり休みたい気も山々だが、朝早く起きて朝食もとらずに隣のチャイムを鳴らす。
あいつの笑顔でも見ておけば疲れも吹っ飛ぶ…


「んだよ眉毛かよ…。帰れ。眉毛の星に今すぐ帰れ」


朝一番に会った奴がこんなプー太郎だなんて、最悪にも程があるよな、うん。


「あぁ?お前こそどっか行けよ!!お前の大好きな変態と貧乏人の家でも行ってろ。そして二度と帰ってくんじゃねーぞ!!」

「ったく朝からうるせーな…。あいつまだ寝てんだから静かにしろよ」

「え…名前まだ寝てのか?珍しいな…」

「遅くまで起きて映画見てたからな。ベターなあっまあまのやつ」

「お、お前も一緒に、かよ」

「当たり前だろ。半強制的に一緒に見させられたぜ」

「そ、そうか…」


甘い映画って…夜中にそんなもん二人で見てて変な雰囲気になったりしないのか…!?
このプーが厭らしい気分になって名前の肩や足やあらぬところをベタベタと触ったり、ってあぁああああ!!!


「お、お前あいつに変な事してねーだろうな…。マジで埋めるぞ」

「しっしてねーっての!!というわけだからとっとと帰れ。俺もねみーんだよ」

「名前、どこで寝てんだ?」

「リビング。のソファーの上」

「って、じゃあお前はどこで寝てんだよ?」

「え、あ…それは、だな…。察しろ!!」

「殺す殺す殺す殺す殺す殺す…!!!」

「ぎゃぁああああ!!首!!首しめんなっ、ぐぇえええ!!」


ちくしょう…なんでいつもこいつばっかいい思いしてんだよ!!
俺だってまだ添い寝なんてした事ねーのに!!!


「とにかく入るからな!!」

「勝手に上がるなよ!?」

「これ以上名前とお前を二人っきりにさせておけるか!!」

「お前居たら俺寝れねーだろ!?」

「じゃあ外で寝てろよバカァ!!」


ずかずかと上がりこんでリビングに置かれているソファーの名前の姿を覗き見してみると、やたら露出の高いキャミソールの裾がめくれて腹の一部が丸出しになり、丈の短いショートパンツからスラリと伸びる足が、太ももまでもが丸見えになっていた。
なんてサービスだ、これ


「ぶわぁあああ!!!!見るな!!やらしい目で見てんじゃねぇええ!!」

「だ、誰が厭らしい目だ!!ったくだらしない格好で寝やがって!!」

「どぁあああ!!何触ろうとしてんだよ!?」

「しっしてねーよ!!タオルケットかけてやろうとしただけだろ!?なーに勘違いしてんだ!!ずっとエロい事ばっか考えてるからそんなになるんだよバカ!」

「露出魔のお前に言われたくねーんだよ!!」

「だれが露出魔だ!!」

「んー…。何〜?朝っぱらから煩いなぁ…」

「わ、悪い…起こしたか?」

「アーサーじゃん…。おはよ」


まだ眠気の残る目を擦りながら体を起こした名前。
寝癖で前髪立ってるし。うっ…可愛いな…。


「って、アホ!!んな格好してんなよ!!服着ろ!!」

「ぶわっ!!何!?なんで服被せんのギル!!」

「自分の今の服装考えろアホ!!アホ女ーっ!」

「…うわぁ…。うん、なんかごめん。大変お見苦しい物を…」


自分の着ていたTシャツを脱いで名前の頭から被せるギルベルト。
名前のやつも今更ながらに自分の格好を自覚してほんのり頬を赤く染めた。
着替えてくると急ぎ足で自室に向かった名前はものの数分でいつもの部屋着に着替えて戻ってきた。


「よし!!朝ごはんにするか!!」

「お、俺も手伝おうか?」

「黙れぇえええ!!いいからアーサーは座って待ってろ!!」

「テメェはキッチンに立つんじゃねぇえええ!!」


んだよ…気ぃ使ってくれてんのか?
やっぱり俺に優しくしてくれるのはこいつだけだよな…


「朝ごはん目玉焼きで良いよね?すぐ作るから待っててね」

「あぁ」

「俺は芋とビールがいいぜ」

「ほざけ。夜まで我慢しなさい」

「ちぇちぇっちぇーのチェー」

「何それ…」


思い体をソファーの上に下ろすと疲れも一緒に俺の体に圧し掛かったような気がした。
ちくしょー…やっぱり疲れてるよな、俺…。
目と目の間に疲れが堪っていくような気がして眉間に人差し指をぎゅっと押さえた。


「アーサー、ちょっと疲れてるんじゃない?」

「ん?あぁ…」


片手に目玉焼きとカリカリのベーコンが乗った皿を持った名前は俺の目の前に皿を下ろして、下から覗くような形で俺の表情を見た。


「おでこ出して」

「ん」

「んー…ちょっと熱っぽいような気がするなぁ。体だるい?」

「ちょっとな」

「じゃあゆっくり休んだ方がいいよ。栄養のあるもの食べてさ。お粥でも作って持っていくから部屋に戻って寝てなさい」

「でも目玉焼き」

「いいから。戻れ。ゴーホーム」

「ううっ…」


せっかくの休みだってのに…。
思い体を持ち上げて自室に戻り、体をベッドの上に倒す。
着替えんのもだるい…。
そっと目を閉じると頭がぐるぐるとする感覚に襲われて、薄っすらと意識が遠のいていった。



―――



「アーサー。お粥できたよー」


できたてのお粥をお盆の上に乗せてアーサーの部屋に上がりこむと、いかにも高そうなアンティークのベッドの上に丸くなって眠るアーサーの姿があった。
あちゃー…やっぱり相当疲れてたんだよなぁ。
起こすのも忍びない…。お粥だけ置いて帰るべきだろうか。


「ったく…働きすぎなんだよ」


ベッドの淵に腰かかけて、眠っているアーサーの頬をふにふにと人差し指で突いてみた。
やっぱり起きないよねー…。
しょうがない、お粥はまた作り直すか。
これは無理矢理ギルに食べさせて……って、


「…アーサー?」


ぎゅっと掴まれた手に絡められたアーサーの手。
薄っすら開いた目は虚ろに私の姿を映したらしく、少し微笑みを浮かべて手をぎゅっと握りなおした。


「大丈夫?アーサー」

「ん…」

「働きすぎだよね。最近忙しいって言ってたのは知ってたけどさ、ちょっとはガス抜きしていかないとパンクしちゃうんだよ?」

「あぁ」

「皆アーサーが頑張ってるって事ちゃんと知ってると思うしね」

「うん」

「まぁ今はゆっくり休みなさい。お粥あるけど食べられそう?」

「いや、今はいい…」

「そっか。他には?冷却シートでもおでこに貼ってあげようか?スッキリするよー。家にあるからとってきてあげる」

「いや、行くな」


握る手に力を込められた。


「いいから、このままで、いいからさ…」


まるでうわ言のように言葉を繰り返したアーサーはそっと目を閉じて眠りについた。
このままで良いって…私は手ぇ繋がられたままですか。
トイレにも行けないじゃないか!!
まぁ、アーサーの頼みとあらば無理矢理振りほどけないのも事実なんだけどね。
今日一日ぐらいは眠ってるアーサーでも眺めながらのんびり過ごすのもいいかもしれない。
30分後、流石に心配になったのかアーサーの家にずかずかと上がりこみ様子を見に来たギルは状況を把握して少し渋い顔をしたけど、何も言わず大量の漫画を私の家からこちらまで運びアーサーの家のソファーの上でくつろぎながら漫画を読んだ。
心配してんだかしてないんだかイマイチ分からない奴だなぁ…。
それにしてもアーサーの寝顔、すっごく幸せそうだよなぁ。
妖精さんでも追いかけてる夢みてるのかな?
お花畑でユニコーン、とか言う動物と戯れているのかもしれない。
うん、夢の中ならどんな妄想や幻覚でも叶っちゃうもんね!
今日のところはゆっくり休んで、明日からいつものエロ眉毛紳士のアーサーに戻ってくれればそれでいいか。
うん。お疲れ様、アーサー。



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