”ちょっとフランシスとアントーニョと本田と飲みに行ってくるから帰りは遅くなる”


夕食の買出しから帰ってくると机の上に殴り書きされたメモ用紙があった。
メモを手にとって小さく溜息をつき丸めてゴミ箱へと投げる。
今日の夕食は焼肉にしようと思ってたのになぁ…。
本田さんも誘ってわいわい騒ぎたかったのに。
アーサーも最近忙しくて帰りが遅いし…。
ちくしょう、私もどこかに遊びに行こうかな。

そうだ、良い事思いついた!


「あ、もしもしエリザ?今日お休みだっあよねぇ?もし良かったら家に来ない?今日ギルも居なくてさぁ。…うん、うん。あと他の子も一緒かもしれないんだけど大丈夫?女の子だから大丈夫だよ!うん、それじゃあ待ってるね」


あとはライナさんとナターリヤちゃんも呼んで…湾ちゃんも来てくれるかなぁ…。
うん、女の子だけで夕食なんて最高じゃないか!!
王耀さん伝いに湾ちゃんに連絡を取ると二つ返事で「今すぐ行くね!」と返事が返ってきた。
ライナさんは電話の向こうで「い、いいの…?嬉しい、ありがとぉ名前ちゃん…!」と涙交じりの声で返事をくれた。
何も泣かなくても…!

一時間後に集まった皆はお互い初対面にも関わらず直ぐに打ち解けて、なんとも女の子らしい会話に花を咲かせた。


「えー!?ナターリヤちゃんってお兄さんの事が好きなの!?」

「好きじゃないわ…!愛しているのよ」

「近親相姦なんて二次元だけの事だと思ってたわ」

「ですよねー。って、そういうエリザベータさんはもしかして二次元の住人ですか…!?」

「ふふふふ」

「あ、ライナさんお肉もっと食べますか?」

「ありがとぉ名前ちゃん…」

「いえいえ。お酒も沢山ありますから飲んでくださいね」

「あ、私も飲みたーい!」

「私も…」

「って、ナターリヤちゃんは未成年でしょ!」

「チッ…」

「ふふふ。女の子達だけで騒ぐのって楽しいわね」

「うん、そうだね…」


皆楽しんでくれてるみたいで良かった〜。
女の子だけでご飯食べるなんて私も久しぶりだもんね。いつもはギルが居てアーサーが居て本田さんやアルフレッド君が居て…。
うん、やっぱり女の子同士って楽しいよね!


―ピンポーン


「あら、こんな時間に誰かしら」

「私ちょっと出てくるね」

「ダメだよ名前ちゃん!危ない奴だったらどうするの?名前ちゃんは可愛いんだからとって食われちゃうんだからね。名前ちゃんの貞操が…!」

「…貞操が何だって…?」

「私が行くわ」

「だ、ダメだよナタちゃ〜ん!」

「大丈夫だよ。こんな時間にチャイム鳴らす奴はあいつぐらいしか居ないだろうし」


不安な表情を浮かべる湾ちゃんとエリザとライナさん。ナターリヤちゃんは「そのまま誘拐されなさい。それが私と兄さんの為になるのよ」と呟いた。
うん、まだ私の事恨んでるんだねナターリヤちゃん…。
腰を上げて玄関に向かい鍵を開けるといつもと同じ眉毛がそこにあった。


「よ、よぉ…」

「おっす。今日は早いんだね」

「まぁな…。って、何だよこの靴の数!女物…?」

「あ、うん。今日ギルが居なくてさ。エリザとかナターリヤちゃんがご飯食べに来てるんだー。アーサーも一緒に食べる?」

「いや!!いい!!レディーだけの場所に男が入るのはまずいだろ!?」

「そんなことないよ。アーサーだし。ねぇ皆、アーサーも一緒に晩ご飯食べてもいーいー?」

「ちょっ、待て!!」

「あら、アーサーさんこんばんは!」

「始めましてー。えっ、もしかして名前さんの恋人さんですか?」

「ふふふ、違うわよ湾ちゃん。あの人は名前のお隣さん」

「出たな眉毛…」

「ナタちゃん知り合いなの〜?こ、こんばんは…」

「ほら、皆もこういってる事だしさ。一緒に焼肉食べようよー!」

「お前…酔ってんのか?」

「うん、ちょっと飲んでる」

「ったく…。そ、それじゃあお邪魔する、か」

「どうぞどうぞー」


ふふふ、アーサーの奴ハーレムじゃん!!
女の子選び放題だぜー!
あ、でもエリザとナターリヤちゃんはダメだよね。一応相手が居るんだし…


「アーサーさんいつもこんな時間にお帰りなんですか?」

「ん、まぁ最近は少し忙しくてな…」

「もしかしてエリートサラリーマンって感じですか!?かっこいいなぁ〜」

「こいつ次期社長だからね」

「す、すごーい…」

「何言ってんの、イヴァンだって社長でしょ?ライナさんもナターリヤちゃんも結構いい暮らししてるんだよね。羨ましいなぁ」

「え?あ、うん。そうだね…」


少し居心地悪そうに私の隣に座ったアーサーは手に持っていた紙袋を取り出して机の上に置いた。


「悪い、皆が居るって知ってたらもっと沢山買ってきたんだけどさ…」

「あ!私の好きなお店のマカロンー!!」

「わぁ、美味しそうね!」

「悪い、少なかったよな」

「充分だよ。アーサーいつも沢山買いすぎなんだよね。うん、でもいつもありがとう!すっごく嬉しいよ、アーサー!」

「そ、そうか…。べ、べつにお前の為じゃなくて俺の為なんだからな!!!」

「私にお土産を渡すことによってアーサーになんの利益があるんだい。まぁいいや、ありがたくいただきまーす!ナターリヤちゃんはどれがいい?」

「赤いのがいいわ」

「どうぞー」

「高そうなお菓子!名前ちゃんのお隣さん優しいですね」

「まぁこいつには何時も飯食わせてもらってるから…」

「えー?名前ちゃんといつも一緒に?なんて羨ましい…!!」


湾ちゃんってなんとなく本田さんに似てる気がするなぁ。
発言とかノリとか色々と…
女の子の中で一人ハーレム状態なアーサーは少し緊張しているのかちょっとずつ私の方に体を寄せてきた。
レディーの扱いに慣れているとは言え女の子の中に男一人ってのは居心地悪いよねぇ…


「ご馳走様でした。名前、後片付けしちゃってもいいかしら?」

「いいよいいよ、後でやっておくから」

「あら、そんなのダメよ!皆で分担して片付けましょう?」

「そうだよね。じゃあ私は食器洗うね。バイトで慣れてるから!」

「あ、じゃあ私はゴミを片付けるね…」

「じゃあ私は残り物を冷蔵庫に入れておくわね」

「それじゃあ私のやる事なくなっちゃうよー」

「貴方はここで私の尋問を受けなさい」

「え…尋問って何ナターリヤちゃん…」

「兄さんと出会った経緯から現在までの事を詳しく話しなさい。じゃないと枕にバナナの皮を詰めるわよ」

「なにその嫌がらせ!!ちょっ、その顔怖いってナターリヤちゃん!!」

「いいから話せ!!!」


それぞれ分担して後片付けを始める三人を他所に私はナターリヤちゃんからの尋問を受けた。
私の首元に両手を伸ばしながら迫ってくるナターリヤちゃんは本当に怖かった。
本当にイヴァンの事愛してるんだね…。
その間アーサーは一人でビールを飲みながら「うへへへ」と怪しい呻き声をあげはじめたので早急に部屋に送り返した。
女の子だけの場所で服でも脱がれたら大変どころの騒ぎではすまない。
後片付けを済ませて女の子だけの夕食会もお開きとなり、帰りはライナさんとナターリヤちゃんを迎えに来たトーリス君がエリザと湾ちゃんを家まで送り届けてくれた。
女のだけの夕食会、楽しかったなぁ!
ギルが居ない時はまた皆を誘ってご飯を食べよう。
今度は皆で一緒に料理してみるってのも楽しそうだよね!
たまにはこんな楽しみがあるってのも良いものだ。
日付が変わるか変わらないかの時刻に帰って来たギルは部屋に入るなり「女の匂いがする!」と声を荒げた。
今日は女の子達で集まってたんだよ、と説明すると「ちくしょおおお!!」を床に膝をついてうな垂れた。
お前は昨晩のアーサーか。っていうか女の子の匂いがするって…いつも私は女の子の匂いがしないって言うのかこやつ…!!
じゃあ何、私はオバサンの匂い?加齢臭?
ちょっとショック受けちゃうんですけど…。
腹を出して床の上で鼾をかきながら眠るギルにいささか殺意が芽生えたが、まぁ今日の所は許してやる事にしよう。
なんてったって、今日はとっても良い一日だったんだもんね!



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