「デンさーん。これこの間の企画書です」

「ん〜。おめぇ最近なんか調子いいみてぇだけんど何か良い事でもあったのげ?」

「え…。そう見えますか?」

「ノルもおめぇが機嫌いいからおっがねって言ってたっぺ」

「何ですかソレ。自分では変わったようには思いませんけど…」

「なじょった?どったごどあったんげ?」

「何も無いですよ」

「へづまんねー奴だっぺー」

「人を玩具か何かと思ってませんかアンタ…」

「うん」

「コラァアアア!!!」

「ガハハハハ!!」


ったく、あの上司は…!!
こっちが下手に回ってりゃいい気になりやがってぇええ!!


「ちょっとノルさーん!聞いてくださいよ、またデンさんにからかわれましたよー」

「…」

「どうにかなんないですかねあの人」

「うん」

「うんって…」


小さく微笑んだノルさんは私の頭をポンポンと撫でた。
そして私の手のひらに何かを握らせる


「これって…。キャンディー…」

「うん」


この人完全に私の事子ども扱いしてるよなぁ…
見た目か?見た目で判断してんのか?

それから何も無い空中をじっと見つめたノルさんは何かを追いかけるように去ってしまった。
貴方には何が見えるんですか。
なんかすげー怖いですよ。


―――



「エーリザ!!」

「名前っ!!来てくれたのね、嬉しいわ!」

「ちょっギブギブギブ!!苦しいって胸胸ぇええ!!」

「やだっ!ごめんなさい!」


胸の豊かな美人店員さん、基エリザベータさんと私はすっかり意気投合し、今では名前を呼び合う仲になった。


「また来てくれて嬉しいわ。私日本に来てからあんまり友達ができなくて寂しかったの」

「きっと美人だし近寄りがたいんだろうねー。男はホイホイ寄ってくるんじゃない?」

「えぇ…まぁしつこい男はニ、三発やっちゃえばどうって事無いわ」


にっこり笑うエリザに鳥肌が立った。
見かけによらず恐ろしい人だ。

彼女はハンガリー出身で、日本に憧れて来たらしい。
ここのマスターに良くしてもらい、ここで雇わせてもらっているとの事。

なんか凄いよなぁ〜。
私にはそんな事絶対できないよ


「今ちょうど休憩中なの。お喋りしましょう?」


無邪気に笑う彼女が眩しいです。


「それでね、ローデリヒさんったら本当に素敵なの!上品で言葉遣いも丁寧だしすっごく優しくしてくれるのよ!」

「いいなぁ〜。恋してるって感じだよねぇ。あー羨ましい!」


ローデリヒさんというのは例のピアニストらしい。
あんなに熱い眼差しで見てたもんなぁ
こんな一途な人に好かれてるなんて幸せものだぜ、ローデリヒさんとやら。


「名前は好きな人は居ないの?それともこんなに可愛いからもう恋人が居るのかしら」

「恋もしてないし恋人もいませんー。エリザみたいに美人だったら一人や二人恋人も居るんだろうけどさぁ」

「あら、名前は可愛いわよ?もっと自信持たなきゃ。私が男だったら絶対に名前を好きになってるわ」

「あれだよ、女の子の可愛いと男の可愛い感覚は違うっしょ?だからそんな「男共の目が腐ってるのよ」・・・はい」

「ああもう本当に可愛い!!初めて会った時からずっと狙ってたのよ!!」


狙ってたって、ハンターですかあなた…
再びビックサイズの胸に締め付けられた。
やわらか…!


「何やってるんですかエリザベータ。彼女が苦しがっていますよ」

「あっ!ごめんなさいね名前。つい」

「けほっ。ううん、大丈夫だよ。」

「まったく、貴方はもう少しおしとやかになった方がいいみたいですね」

「ふふふ。ごめんなさーい」


うお…!
噂のローデリヒさんだよ。
かっこいいなー。エリザの言った通りにお上品で優しそうな人だ。


「その方はお友達ですか?」

「えぇ。名前ですよ。すっごく可愛いでしょう?」

「貴方がエリザの話のよく出てくる方ですか。思ったより歳が離れているのですね」

「あの、私エリザさんと同じ歳です」

「あら、そうでしたか」


どこの貴族だこの人…。
上品と言うより貴族染みてるぞオイ。


「今日もピアノ弾くんですか?」

「えぇ。何かリクエストがあれば何でも弾きますよ?」

「え、いいんですか?じゃあ氷川き●しのズンドコ節でも」

「弾きませんよそんなの」

「ね、ローデリヒさん。名前ってすっごく面白いでしょう?」

「面白いと言うかお馬鹿というか…」


うわ、ストレートだなこの眼鏡。
でもなんとなく憎めない人だなぁ


「しょうがないですね。代わりに私のお気に入りのショパンのピアノソナタ、ポロネーズを貴方に捧げましょう」

「マヨネー「お黙りなさいこのお馬鹿さんが!!」

「ふふふふ」



―――



「もうこんな時間かー」


ローデリヒさんのピアノに聞き入っちゃって時間たつのわすれてたなぁ
早く帰ってギルにご飯作ってやんないと…


「ボンソワール可愛いお嬢さん。もし良かったら俺と一緒にディナーでもどう?」

「はぁ?」


何なんだこの男、いきなり声かけやがって…
外国人特有の綺麗な顔してるけど軽そうだな…


「すんません、帰り急いでるんで」

「そんな事言わずに、ね?こんな可愛い子に出会えたんだからもっとお話したいな〜お兄さん」

「ちょっ近いです」

「はぁはぁ可愛いなー日本の女の子可愛いよ〜」

「ぎゃぁぁあああ!!!」


こっこっ腰!!腰に手を当てるなぁあああ!!
鳥肌たったよブワーって!!


「離せ変態!!」

「ちょっ変態って…傷ついちゃうなー」

「勝手についてろよ!!離せっつってんだろこの髭ェェエエエ!!!」

「ごふぉっ!!!」


しつこい男はニ、三発…でしたよね、エリザさん


「私軽い男って大嫌いなんです。一昨日来やがれってんだ」

「ふははは…余計に燃えちゃうよ俺ーーー!!!」

「ぎゃぁああ復活したぁああ!!気持ちワルっ!!」

「待てぇええーー!!」

「うぎゃぁあああ!!」


ああもうなんで変態に追い掛け回されなきゃなんないんだよぉおお!!
誰か、誰か助けてぇええ!!!


「僕が助けてあげようか?」

「へ?」


すれ違いざまに小さく声をかけられた
慌てて足を止めて振り返ってみると、そこには真っ赤なマフラーをした、体格のいい男の人が立っている


「えっと…」

「ふふふ。僕に任せて」

「え、ちょっと…」


手に持ってるの、蛇口に見えるのは気のせいですか…?


「ふふ。フランシス君、あんまりおいたはしちゃダメだよ〜」

「えぇええええ!?ちょっイヴァン!?なんでこんな所に!?」

「ちょっと黙っててよ」

「ぎっぎゃぁあああああああ!!!」


真っ赤なマフラーの男の人は手に持っていた棒(蛇口だとは信じたくありません)で変態を殴った。
それも、フルスウィングで。

変態男は地面に頭を突っ込んで動かなくなった。


「あの…」

「それじゃあ、またね」


そうふんわりと言った男の人は、変態の首根っこを引っ張って夜の闇の中へと消えて行った



「いったい何だったんだ…?」



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