なんたる事だ。


「だから、前から君の事気になってて!!よ、良ければ今夜一緒に食事でも…」


ホワッツ?今なんと?前から気になってたって何が、いやいやいやまさかそんな…
あ、ありえませんよねぇHAHAHA
上手く回転しない頭をフルに使ってこの状況を理解しようと試行錯誤する。
えーっと、確か会社で息抜きがてら休憩所でジュースを飲んでて…
そしたら気の良さそうな人がカチコチになって私の目の前に…


「えっと、失礼ですがどこかでお会いした事って…」

「えっと、入社式の時に一度だけお話した事があるんですけど…。名前も名乗らなかったので覚えていませんよね」

「す、すみません…」


そんな随分も前の事覚えてないよ…!!
しかしほぼ初対面の人と二人っきりで食事に行くのもなぁ…。


「い、一度だけで良いんです。ご迷惑とは承知ですが、一度お食事していただければそれで…」


断るに、断れない。


「あの…連れも一緒じゃ、ダメですか!?」

「え?」

「じ、実は今日友達と食事の約束してて…!!いきなり断るわけにもいかないので…」

「あ、そうですか…。勿論大丈夫ですよ!そちらさえ宜しければご友人もご一緒に…」

「ありがとうございます」

「それじゃあ仕事が終わったら…ここで待ってます」

「はい。それじゃあ…」


うわぁあああ!!どうしよう!!
苦し紛れとは言え嘘ついちゃったぜぇえええ!?
す、スーさんとティノ君に頼み込んで一緒に来てもらうしかないなぁ…
こんなに急で二人とも承諾してくれるだろうか…



「そ、そんなわけで断るわけにもいかず苦し紛れに…。お願い!!二人とも私を助けると思って一緒に来て下さい!!」

「うわぁああ…!!名前さんがそんな…。つ、ついて行ってあげたいのは山々なんですけど僕今日はちょっと友達と約束があって…」

「そうだよねぇ…」

「スーさんはどうです?」

「行ぐ」

「え、来てくれるの!?予定とかないの!?」

「ねぇ」

「あれ、スーさん今晩は見たいテレビがあるって言ってませんでしt「さすけね。俺も一緒に行ぐから…」

「やったー!!ありがとうスーさん!!この恩は必ず返すよ!!」

「気にすんなぃ」

「す、スーさん…顔怖いです…」


やたら目の血走ったスーさんに了解を得てホッと一息つけた。
後はギルに連絡して…。本田さんに頼んでギル晩ご飯食べさせてもらえないか聞いてみようかなぁ。
締め切り前じゃなきゃいいけど…



―――



「ギルベルトさーん。ギルベルト・オブ・ジョイトイさーん」

「変な名前で呼ぶなよ!?」

「こんばんはギルベルトさん。夕食をお持ちしましたので一緒に食べましょう。おでんでよろしかったでしょうか…?」

「なんでこのクソ暑い日に…」

「暑い日にこそ熱いもの、ですよ」

「どいつもこいつも…!!」


俺は今とっても機嫌が悪い。
名前のやついきなり「今晩食事に行ってくるから帰りが遅くなる」とか言いやがって…


「不機嫌ですぇギルベルトさん。名前さんがご心配ですか?」

「べっつに。知るかよあんな女!!どこのどいつと飯食いに行ってるかしんねーけどいきなり電話してきやがって…」

「そうですねぇ。ご友人、と仰っていたところを見るといつものお二人と思っておりましたが…。電話した時少し様子が変だったようにも思いましたね」


それは俺も感じた。どことなくおどおどしいと言うか…。とにかくいつもと様子が違ってたんだ。
どこで誰と何やってんだよあいつは…!!


「あぁ、ギルベルトさん。これ男物の浴衣です。名前さんと先日お約束していたので…。浴衣とは言え私と体格差があるのでサイズが合うか少し不安なのですが」


本田の差し出した紙袋の中には薄く濁った紺色の浴衣が入っていた。
そういえば明日は縁日があるとか言ってたよな…。


「名前さんの浴衣はどんな物でしょうかねぇ…。私としては丈の短い浴衣を来てニーハイを…ゲフンゲフン。少しマニアックすぎましたかね。ハハハハ」

「あいつの生足なんて見たくねぇぜ」

「そうですか?しかし浴衣なんてものを着ていたら嫌でも足やら太ももがチラリなんてしてしまいますからねぇ…。乱れた浴衣の隙間から白く伸びる太もも…。堪りません」

「鼻血拭け、鼻血」

「これは失敬」


いや、まぁ浴衣姿は楽しみではあるけど…。
あいつはどんな浴衣着んのかな…。
赤とか黄色とか、そんな派手な色よりもっと落ち着いた色が似合うよな。
浴衣の柄はシンプル且つ浴衣の良さを惹き立てるような…
や、やっぱり浴衣って乱れるもんなのか?
だとしたら本田の言うとおり足やら太ももやら胸元やらが…


「け、ケセセセ!!ま、まぁ浴衣も悪くないよな!!」

「浴衣のチラリズムは夏の醍醐味ですからねぇ。明日が楽しみです」


隣の眉毛が厭らしい目でみてねーか注意しておかないとだな…。
本田の作った激うまうまのおでんを食って一服していると、疲れきった様子の名前が帰ってきた。
理由を尋ねると「一緒に食事の約束してた人が急に帰っちゃってさー…。スーさんとその人と三人で食事する予定だったんだけど、相手の人がスーさんの顔見るなり逃げ出しちゃって…。それから二人でラーメン食べて帰ってきたよー」と力のない声を出してソファーの上に倒れこんだ。
その食事の相手ってのがなんとなく予想がついたぜ…。
ベール、ナイスだぜ。お前に任せておけば会社で変な虫がつく事はねーだろうよ。
ソファーの上で丸くなっている名前を本田が小型ビデオカメラで撮影しているのを無視して、ポンポンと名前の頭を撫でてやると力なくへにゃりと笑いやがった。
後で叫んでる本田が煩せぇ。
とにかくなんだ、無事に帰ってきて良かったぜ。
あとこれから会社の帰りに何処かに行く時は何処に誰と行くのか伝えろよマジで。
心配で気が気じゃねぇ…なんて、言えるはずもねーんだけど…。


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