今日は朝からどんよりとした曇り空だった。 おまけにこの蒸し蒸しとした空気… この悪条件ってあれだよね、例のアレが鳴りやすかったり… 「ゴロゴロゴロドッカーン!!」 「…何やってんですかデンさん」 「んお?驚かねぇ。おめぇ雷苦手じゃねがったっぺ?」 「苦手ですけど誰もデンさんの声真似じゃ驚きませんよ」 「つまんね」 ったくこの上司は…。 だけど嫌だなぁ、この曇り空。 せめて家に帰るまでは鳴ってくれるでないぞ、雷さんよ。 仕事の最中合間を見ては「ゴロゴロゴロー!!」と叫ぶ上司を無視して仕事に熱中した。 あの人はどんだけ私を怯えさせたいんだ。 お向かいに座っているスーさんがしきりにデンさんを睨んでいる姿が目に入って雷よりそっちの方が怖かった気がする。 ティノ君なんてもう涙が零れ落ちちゃいそうだったもんね、うん。 切なる願いが叶ってか、無事雨に降られる事もなく自宅に帰ってこれた。 「ただいま〜」 「んおー。雨降りそうだったから早めに洗濯物中に入れておいたぜ」 「ういー。まぁこんな気温じゃじめじめしたままでちゃんと乾くわけないんだけどねー…」 「おう。ピヨちゃんもふわっふわの羽がじめっとしちゃってるぜ」 「蒸しタオルか何かで拭いてあげた方がいいかもね。嫌がっちゃうかなぁ…」 「ピヨちゃんは普通の小鳥と違って頭いいし大丈夫だぜ。絶対犬より賢と思うし」 「その小さな体のどこに犬よりでかい脳みそが詰まってるっつーんだよ」 洗濯物は部屋干ししておくか…。 明日から三連休だしちょっとは晴れてくれるといいんだけど… 「ギルー、今日はジョギング休みね。アーサーも仕事で遅くなるって言ってたし」 「んー。飯まだか?」 「できたよー。運ぶの手伝って〜」 「おー」 今日は帰りに買い物をして帰らなかったから有り合わせで作ったパスタとサラダが晩ご飯だ。 まぁギルはビールを与えてやれば文句は言うまい。 「そういや今日田舎のお婆ちゃんから電話があってさぁ。お盆には帰ってきなさいって」 「お盆…?あぁ、先祖の魂が〜ってやつか」 「うちの会社もけっこう盆休み長いんだよね。確か8日間ぐらいあったと思う」 「マジかよ!!なげーな」 「まぁ海外部隊がおおいからねぇ。それぐらい長くないと皆国に帰れないし」 「ベールとかティノも国に帰んのか?」 「みたいだよ。年に一度しか帰られないからって二人とも嬉しそうにしてたもん」 「ふーん。で、俺らも田舎帰んのか?」 「そうだね。お墓参りとかもしなきゃいけないし…。そうだ、お祭りや花火大会なんかもあるんだよね。ちょうど家の窓から綺麗に見えるんだよ〜」 「じゃあその時はまた爺さんと飲み比べしてやるぜ。今度は絶対に負けないからな!」 「やめときなって…。まぁお爺ちゃんもギルが帰ってくるの楽しみにしてるみたいだしね。電話越しに”ポチも連れて帰って来い”って言ってたから」 「だから俺はポチじゃねーっつの!!」 今年のお盆はギルが居るし賑やかになりそうだなぁ。 浴衣着てお祭りとかも行きたいよね。 そろそろ梅雨の時期も終わりに近づいてきて、本格的な夏入りをするまであとちょっとって感じだし。 夏は好きなんだけど夕立とかに困るんだよねー… 今夜の空も今にも雷が鳴りそうな空模様だ。 どうか何事も起こりませんように…。 今夜は早く布団に入って寝よう… 「それじゃあギル、先に寝るねー」 「もう寝るのかよ」 「うん…まぁ、ね。そんじゃおやすみー」 「おぉ」 ベッドに入っちゃえばすぐに眠れるもんね。 それじゃあおやすみなさーい… ―ゴロロロ うん。聞えない。聞えなかったよ、大丈夫。気のせい気のせい… ―ゴロゴロゴロ 「気のせい気のせいアーッハッハッハ。歌でも歌って気を紛らわせようかなぁ!!あるっ晴れーた日ーのコトー!!」 ―ゴロゴロビシャァア! 「ひぃいいいよぉおお!!?ちょっ、ギル、ギル様ぁあああああ!!!」 「ひぃい!?なんだよお前!!」 「ちょっ、あれ、外、ひゃぁあああ!!」 「耳元で叫ぶなぁああ!!ったく…。そういえばお前雷苦手とか言ってたっけ…?」 「苦手じゃねーよぉおお!?恐怖だよ恐怖!!小さい頃雷が怖すぎて車の中で一夜をあかした事あるもんねーっ!!」 「落ち着けぇええ!!」 布団を頭から被って丸くなってはみるものの、雷の音が塞ぎきれる事はなくだんだんと冷や汗が出てきた。 うわぁ、何、もう嫌だ… 「ギル…約束したよね…?」 「は?」 「夜雷が鳴ったら…一緒に寝てくれるって約束したよね…?」 「え…」 「私と、寝てくれないか」 「なななな何言ってんだよお前ぇええええ!!」 「私と共一夜を明かしてくれないかと聞いている」 「その言い方やめろ!!あーもう、なんでお前はいつもそう…!!だぁああ!!」 「来いよ、ベッド暖めてあっから」 「無駄に男前な台詞やめろーっ!!」 いかんいかん、恐怖のあまりキャラ崩壊しちゃったよ。 驚いた時ほど冷静になっちゃうあれと同じだよね、うん。 あれ、自分で自分が何言ってるかわかんなくなってきた。 「しょ、しょーがねーから寝てやるぜ!!俺の為じゃなくてお前の為だからな!!」 「うん、アーサーばりのツンデレありがとう。じゃあこっち入って、あと手握って」 「手…?」 「うん。いつもはアーサーが手握って背中撫でてくれるんだよね。けっこう落ち着くんだ、これが」 「…へぇー…あんの眉毛…」 「いいから早くこっち来てよ」 「お、おう」 ぎこちなくベッドの空いたスペースに入ったギルは向かい合わせになるように横になった。 「うわぁ、すっごい雷鳴ってる。耳栓しなきゃ眠れない」 「雨もすげーな…」 「あのピカーッって光るのがダメなんだよね…。しかもなんでゴロゴロって鳴るまで時間差あんの?恐怖?恐怖で支配したいのか貴様らは」 「誰に言ってんだよ」 「雷様?」 「なんで疑問系なんだよ」 「知らない」 「お前なぁ…」 もぞもそと薄手の掛け布団に潜り込み視界を遮断する。 これであの雷の光は見なくてもすむだろう。 それからギルにくっついて、ギルの体で音を遮るようにすれば幾分かましにはなったと思う。 「お、お、おい…、近っ…!!」 「おやすみー」 「って寝るのかよ!!この状態で!?」 「寝るが勝ち。寝ちゃえばこっちのもんだからね。ざまぁみろ雷」 「っておおおい!?」 おでこをギルの胸板にくっつけると、ビクッとギルの体が強張った。 あー、こういう時本当にギルが居てくれて良かったって思うよ。 私一人だったら…きっとアーサーのとこに押しかけるか雷の鳴り響く中本田さんの家に非難してたね。 うん、過去数回その経験あるし。 ギルが居てくれて良かったー… これからは雷の夜でも安心して眠れそうだ。 ありがとうギルベルト、明日はビール一本おまけしちゃうよ。 それじゃあ、おやすみ。 「生殺しかよ…」 . ←|→ |