「ギルおはよー」

「おう」

「ギルが私より先に起きてるなんて珍しい…」

「ん、まぁな」


大方ピヨちゃんの事が心配で眠れなかったんだろうなぁ。
寝ている間に飛べるようになって、どこかへ飛んでいってしまうんじゃないかって心配になったんだろう。


「ピヨちゃんおはよ〜」

「ピィ」

「おうおう、羽バサバサさせちゃって…。もう飛べるんじゃない?」

「飛べねーよ」

「あのねぇギル…」

「飛べねーし…」


ったくもう…。
それから朝食の時も口数の少ないギルはずっとピヨちゃんばかり見つめていた。
私も特にする事もなく、ただギルの隣に座って本を読みながら会話のない空間で過ごした。
やっぱりギルが元気がないって、嫌だなぁ。
本を読んでいる間にだんだんと眠気に襲われた。
ほんの少しのつもりで仮眠をとったんだけど、目を覚ました時はもうお昼すぎだった。


「やばっ!!もうギルなんで起こしてくんなかったの〜。お昼ごはん作らなきゃ…」

「…」

「ギル、どうしたの?」

「ピヨちゃんが…」

「え…?」

「ピヨちゃんが…」


…うそ


「お前につられて俺寝ちまって、さっき起きたらもう」


ピヨちゃんが入っていたふかふかのタオルが敷き詰められた箱の中にはその小さくて黄色い姿はなく、ただその存在の痕跡がいくつか残っているだけだった。
うそ、こんなにいきなり…
しかもギルが居ない間に出て行っちゃうなんて…
窓を開けっ放しで寝ちゃったのがまずかった。じゃなかったら最後ぐらいちゃんとしたお別れも…


「ギル…」

「ピヨちゃん…やっぱ行っちゃったんだな」

「動物だもん。自然に返りたかったんだよ」

「で、でも最後ぐらい…」

「きっとピヨちゃんもギルにいっぱいいっぱい感謝してるはずだよ?」


力無くソファーにもたれかかるギルの頭をポンポンと撫でると、私の肩に頭を乗せて「本当に、か?」と小さく呟いた。


「うん。拾ってくれてありがとうって。手当をしてくれてありがとうって言ってるよ」

「そうか」

「うん」


ギルの頭にそっと頭を重ねると肩に顔を埋められた。
うん、寂しいよね。
あんなに可愛がってたんだもん。


「ギル」

「…うん?」

「ピヨちゃんは居なくなったけど、私はちゃんとここに居るからね」

「…あぁ」


日が傾いてリビングがオレンジ色に染まり始めた。



「ねぇギル、晩御飯何食べたい?」

「…パスタ。とビール」

「はいはい。せっかくだからこの間フランシスさんに教えてもらった料理作ってみようかなぁ」

「失敗すんなよ」

「善処します。じゃあギルはそこの窓閉めておいて?虫入ってきちゃうから」

「おう」


買い物行かなくても大丈夫かなぁ…。
この間フランシスさんが使ってたやつの残りが…


「あああああああああ!!!!!!」

「うわっ!!な、なに!?何が起こったの!?」

「ぴぴぴぴぴ、ピヨちゃんが…!」

「はぁ?」


何事かとベランダに出て居るギルの元へ走ると、そこにはベランダの手摺りにちょこんと乗った黄色くてふわふわとした…


「って、ピヨちゃん!?うそっ、ええええ!?」

「ぴ、ピヨちゃん…!俺のとこに戻ってきてくれたのか…!?」

「ピィ」

「ぴ、ピヨちゃーんっ!!!!」

「えええええ!?ちょっ、えええ!?なんで、野生の鳥が戻ってくるなんて…犬じゃあるまいし!」

「ピヨちゃんは俺様が拾った小鳥だぜ?そんじょそこらの小鳥とはわけが違うぜ!」

「うわー…常識を覆したよ…」


うん、本当にありえない!!
だけどギルもあんなに嬉しそうだし…


「な、なぁ名前…これからもピヨちゃん飼ってもいい、よな?」


ったく、そんな顔されちゃあダメなんて言えないじゃないか


「いいよ。だけどギルがちゃんと世話するんだよ?それからたまには外に出してあげること」

「おう!!」

「まさか本当に戻ってくるとはねー…。でも帰って来てくれてありがとね、ピヨちゃん」

「ピィ!」


どうやらもうピヨちゃんは立派な家族の一員になってたようだ。
ギルもあんなに嬉しそうに喜んじゃって…。
くるくると天井を飛んでいたピヨちゃんはちょこんとギルの頭の上に乗った。


「ちょっ、名前!!名前!!ピヨちゃんが!!」

「す、すごーい!ギルこっち向いて!!写メ撮るから!!」

「マジですげぇ!!うおおおピヨちやーん!!」


何はともあれギルが元気になって良かった。

その後、晩御飯を食べている途中にかかってきたイヴァンからの電話。
得に用もなかったようだったので今日あった事を興奮気味に話すと「良かったね。でも知ってる?鳥が頭に乗るのはその人を自分より地位が下だと思ってるんだって」といつものふわふわ声で言われた。

…この事はギルに内緒にしておこう。



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