家に帰ると、また同居人が増えていた。 「へ…?」 「おかえり」 「あ、アイス君!?」 すっかり元気になって机の上でぴよぴよ歩くピヨちゃんの頭を人差し指で撫でたアイス君はペコリと頭を下げた。 「えーっと…なんでアイス君が?まだ制服着てるし学校帰りだよね…。わざわざこんな遠いとこまで…」 「家出」 「あぁ、そっか家出かぁ〜。なーんだ…って家出ぇえええええ!?」 「ノリツッコミかよ!!」 「ちょっ、どういう事ギルぅうう!!」 「俺も知るかよ!!昼寝してたらなーんか玄関の外で物音が聞こえると思って…調べにいったらこいつが玄関の前で座り込んでたんだよ」 「アイス君、家出ってどういう事なの?」 アイス君の隣に膝をつく。 視線を合わせると、少し拗ねたような顔をして視線を外した。 「今家誰も居ないから」 「え、お父さんとお母さんは?」 「旅行中。だからあいつが毎日家に居座ってる」 「あいつって…。言わずもがなデンさん。だよね…」 「面倒みてやっぺーって言って不味い飯食べさせられる」 「あらら…」 デンさんも悪気は無いんだろうけどなぁ… アイス君のこと可愛がってるし。 まぁ私でもあの人と一緒に暮らしたら耐えられないよな、うん。 「だからうちに来たんだ…」 「うん」 「まぁこれでも食えよ」 「うん」 「ジュース飲むか?」 「うん」 おお、ギルが面倒見てやってる…!! 最近ピヨちゃんの面倒もよくみてるし母性が目覚めたんだろうか… まぁ確かにアイス君は母性本能をくすぐられる可愛さだけど… って、何考えてんだ私… 「だけどアイス君、デンさんも心配するよ?」 「別にいい」 「よくないでしょーが。そんなに嫌なら今夜は泊まってっていいから。ちゃんと連絡はしておこう?」 「…」 「ちゃんと私が言ってあげるからね。アイス君の為ならデンさんだって言い負かしてやるよ」 「…うん」 「お前言葉の暴力も得意だもんな〜ケセセセ」 「黙れよ芋。埋めるよ?」 「ごめんなさい…」 ギルの頭を掴んで思いっきり下へ押しつぶす。 本当にこいつ懲りないよなぁ… 「アイス君晩ご飯何がいい?」 「なんでもいい」 「食べたいものとかないの?」 「…ハンバーグ」 「分かった。ハンバーグね」 「チーズ乗せろよチーズ!!」 「はいはい。着替えてから作るからちょっと待っててね〜」 「うん」 さきにデンさんに電話しておかないと… 携帯の電話帳から滅多に自分からはかけることのないアドレスを開く 「あ、もしもし、デンさんですか?」 『なんだっぺぇ〜おめぇから掛けてくるなんて珍しい。今夜会いてぇってか?じゃあおめん家迎えに行ってやっぺ!』 「違いますよアホですか。今私の家でアイス君を預かっていますから」 『ま、まさかおめ、誘拐…!?身代金要求して会社の金注ぎ込ませようとしてんだなおめぇえええ!!』 「するかぁああ!!!」 『もすもす、名前?』 あれ、この声はノルさんだ… 「ノルさん?」 『あんこやかましいからどついといた。アイスはおめん家?』 「そうなんです。デンさんが嫌で家出したみたいですよ」 『同情すんべ』 「ですよねぇ…。とりあえず今日はうちに泊まってもらいますから。心配しないでって言っておいてください」 『無駄だと思うけんど』 「ですよねぇ…。まぁ、お願いしますよノルさん…!!なんとかデンさんを宥めておいてください!!」 『…明日の昼食奢りだべ』 「うぐっ…。これもアイス君のため…。亜細亜飯店の並盛天心飯で手を打ちましょう!」 『わがった』 「それじゃあお願いしますね」 ノルさんに任せれば大丈夫だよね…。 そういえばアイス君学校帰りに来たからお泊りの準備何もしてきてないんじゃないのかなぁ…。 パジャマはギルのを貸してあげれば大丈夫だよね。あと必要な物は歯ブラシぐらいかなぁ。 あとでコンビニまで買いに行ってこよう。 リビングに戻るとアイス君とギルが一緒にテレビを見ていた。 って、またアニメ…。アイス君あんなの見てつまらないんじゃないのかなぁ… 「マジでおもしれぇぜー!」 「うん。毎週見てる」 「マジかよ!!」 …見てるんだ、アイス君も。 まぁアイス君の事はギルに任せておこう。 明日はアイス君も学校あるよね…。 お弁当作った方がいいのかなぁ…。 このハンバーグと卵焼きと… ついでにギルのお昼ご飯もお弁当にしちゃおう。 私はノルさんにお昼を奢る約束しちゃったから中華だよね… 「名前…」 「ん?どうしたのアイス君」 「迷惑かけてごめんね」 「んー?別に迷惑なんかじゃないよ。アイス君が居ると楽しいしね」 「明日の夜両親も帰ってくると思うから」 「そっか。デンさんの方にはちゃんと言っておいたからね。明日も学校だよね?お弁当作っちゃっていい?」 「いいの?」 「いいのいいの!!」 「ありがと」 嬉しそうに薄く微笑んで私の服の裾をちょこんと掴んだアイス君。 か、可愛いなぁ…!! その後も私の後ろに突っ立ったままのアイス君はじっとハンバーグを作る作業を見つめていた。 せっかくなので手伝ってもらうと、慣れない手つきながらも順序良くお手伝いしてくれた。 ―ピンポーン 「お、アーサーかな。ちょっとハンバーグ見ててくれる?あと2分ぐらい蒸すからね」 「うん」 油でべたべたになった手を水洗いして玄関に向かう。 「おいーすアーサー」 「んだよその挨拶は」 「うお!?何、なんかアーサー甘い匂いがする…!!バニラの香水みたいな…」 「ん?あぁ、さっき車で送ってもらった時に移ったのか…」 「え、何!?彼女!?彼女にここまで送ってもらったの!?」 「ち、ちげーよ馬鹿!!上司だ上司!!しかもずっと年上の既婚者だっての!!」 「しかもマダム!!まぁアーサーは年上ウケ良さそうだもんなぁ…。ふふふ。でも不倫はダメだよ不倫は」 「人の話聞けよ馬鹿ぁああ!!」 「ギールー!!アーサーがねっ、アーサーがぁああ!!」 「うわぁあああ何言おうとしてんだよお前ぇええ!!」 私の口を手で塞いだアーサーは涙目になって「馬鹿ぁああ!!」と叫んだ。 「何だ、面白い事でもあんのか…って何してんだよお前ぇええ!!」 「来るなプー太郎!!ああもう最悪だ、なんで一番勘違いされたくない相手に…」 「まぁまぁアーサー、そう落ち込まないで」 「うっ…」 「でも不倫はいけないと思う」 「馬鹿ぁあああ!!!」 「不倫!?マジかよお前…。眉毛のくせにやるな」 によによ笑っているギルと一緒にしばらくアーサーをからかってやると、アーサーはとうとう本格的に涙をボロボロ流しはじめてしまった。 ちょっとからかいすぎたかな… 「あー、ごめんごめんアーサー!!嘘嘘!!ちゃんと信じてるから!!アーサーはそんな子じゃないもんね〜純粋でピュアな子だもんね〜!!」 「当たり前だろ馬鹿っ…綺麗な心だから妖精も見えるんだよ俺は…!!」 「いや、それはお前の幻覚だろ」 「妖精は本当に居るんだよ!!小さくてキラキラしててすっごく可愛いんだからな!!」 「うん、私は信じてるよアーサー」 「名前…」 「信じてるから明日の仕事帰りに一緒に病院行こうね」 「バカバカバカバカバカぁああああ!!!」 やばい、アーサーからかうの楽しい…!! ポカポカと私の体を叩くアーサー。 なんかこう、アーサーが泣きそうになってる顔見るともっと苛めてやりたくなるんだよね…。 小さい頃弱い物いじめをしていた近所のガキ大将よっちゃんの気持ちが今分かった気がするよ。 「はいはいごめんね。今夜はハンバーグだよ〜?アーサー好きだよね、ハンバーグ」 「好き…だけど」 「明日はカレー作ってあげるから。ね?機嫌直して」 「しょ、しょうがねーな…。まぁ最近お前料理の腕あげてきてカレーも美味くなったしな!!カレーに免じて許してやるよ…。だけど妖精はマジで居るんだからな!!」 「はいはい…って、ああああ!!!」 ハンバーグ火にかけたままだったあぁあ!! とっくに2分すぎちゃってるよ…!! 焦げちゃう焦げちゃうぅううう!!! → ←|→ |