「ほな名前ちゃん、今までお世話になりました」

「と、トニーさぁあああん!!」

「な、泣かんといてや名前ちゃん…!!泣いたら別れが苦しゅうなるやろ…?ほら、最後ぐらい笑顔見せて?名前ちゃんには笑顔が一番似合うさかいな…」

「トニーさんッ!」

「名前ちゃん…!」

「朝っぱらから玄関で何ドラマ繰り広げてんだお前らァアアア!!!」


ぱこーん

丸めた朝刊で頭を叩かれた。
ぱこーんって良い音。


「何すんねんギル!!」

「ああもうさっさと帰れよお前!!」

「酷い!!名前ちゃ〜んギルが苛めるぅう!」

「ギル、トニーさんを苛めたら私が仕返しするからな!!」

「卑怯だろお前!!女の後ろに隠れやがって!!」

「名前ちゃんの背中勇ましいわぁ…。俺名前ちゃんになら抱かれてもええわー…むしろ抱いて!」

「トニーさん、自重」


会社にでかける前の朝の時間。
私より一足早く玄関を出たトニーさんとの生活は今日で終わりだ。
やっぱり寂しいなぁ…。ずっとトニーさんばかり頼りにしてた気がするし。


「ねぇトニーさん、今まで本当にありがとうございました。トニーさんが居てくれて毎日楽しかった」

「名前ちゃん…。俺も毎日天国におるみたいな生活だったわぁ。それに…それにな、家に帰っておかえりって言ってくれる人が居るのってめっちゃ久しぶりやってん。ほんまに、幸せだった」

「トニーさん…」

「あ、家の鍵返すな!!」

「あ、いいですよ持ってても。邪魔なら破棄してもらっても良いですし、いつでもここに来られるように」

「名前ちゃん…」


頬を赤く染めたトニーさんはプルプルと首を左右に振った。


「やっぱり返す!!」

「そうですか?それじゃあ…」

「いつか俺が名前ちゃんに自分の家の鍵渡すからな。そんな時が来るように働いて金稼いでええ家買ったるで!!夢のマイホーム!!」

「それってすっごいお金かかるよトニーさん!!だけどそうなると良いね」

「うん!!ほなそろそろ行くわ!!それじゃあな名前ちゃん、ギルー!」

「また何時でも来てね〜!!」

「もっちろん!!」


大きく手を振ったトニーさんは駆け足で去っていった。


「さぁて、私も会社行かないと!」

「っていうかお前…さっきトニーが言ってたのって」

「何?」

「鍵がどうとか家がなんとかって…」

「あぁ、夢があるのは良いんじゃない?私も将来はマイホームが欲しいもんだよ〜。あ、でも実家をリフォームってのもアリかな。その時はちゃーんとギルの部屋も作ってあげるからね〜」

「はぁああー…」

「何そのため息!?」

「べっつに!!」


なんか気に障るなぁ…
まぁいいや。さっさと会社に行こーう!



――――



「今日の夕食は銀ダラのムニエル〜っと」

「僕は久しぶりにカラクッコでも作ろうかな!」

「カラクッコってフィンランド料理?へー、なんだか美味しそうな名前だねー!!」

「とっても美味しいですよ!!今度ご馳走しましょうか?」


今日の仕事も終わって帰り支度をしている時の事。
ティノ君の言う”カラクッコ”ってどんな料理だろう。
食べたい、と開こうとした口がスーさんの大きな手によって塞がれた。
え、何!?


「え、スーさん…?」

「喋るでね」

「え、なんで?」

「ええがら」


あれ、なんか額に薄っすらと汗が…
どどど、どうしたっていうのスーさん!!
あのスーさんがこんなに慌てたような様子で…


「えぇええ、どうしたんですかスーさん!?」

「帰っぞ」

「ふぇ?」

「帰っぞ」

「ええええ!?ちょっ、急がさないでくださいよスーさぁあん!!」


私をひょいと手荷物のようにわき腹に抱えたスーさんは自分と私の鞄を持って急ぎ足で廊下を歩いた。
って、え?何!?何があるのスーさぁぁあん!?


「あれだけは…食べさせらんね」

「え!?」


ど、どうやらさっきの”カラクッコ”に何かあるのかな…
スーさんがこんなに取り乱すようなカラクッコ…恐るべし…


―ピルピルピル


「あれ、電話鳴ってる…。ごめんスーさん、降ろしてくれる?」

「ん」

「ありがとーぅ」

「はぁっ、ふぁぁああ〜!!やっと追いついた〜!!もっ、スーさん歩くの早いですよぉおお〜!!」

「すまね」


いったい誰からだろう。
携帯の画面を確認せずに通話ボタンを押し携帯を耳に当てると、こちらが何か言う前に受話器の向こうから頭に響くような大声が聞えてきた。


『名前ーーっ!!やべぇぞちくしょう!!アントーニョがっ、アントーニョのアパートが綺麗になってるぞちくしょぉおおお!!』

「ろ、ロヴィーノ君!?あれ、確か今イタリアに帰ってるとかで…」

『たった今戻ってきたんだぞこのやろー!!土産渡そうと思ってアントーニョんとこ行ったらボロ屋だったアパートは小奇麗になっちまってるし…グスッ」

「あ〜も〜泣かないの!!とりあえず状況を説明してあげるからさぁ〜!!今どこに居るの?」

『うっ…とりあえず大学に…』

「分かった、今から行くからそこで大人しくしてるんだよ?」

『ヴぇー兄ちゃんなんで泣いてるの!?泣かないでよにいちゃん…ふぇ…えっえぐっ』

「あーもうフェリシアーノ君も泣かないの!!今すぐそっち行くから!!ね!?」

『早く来いよちぐしょっ…めそめそ〜』


ああもうこのヘタレ兄弟は…!!
今から急いで大学に向かっても一時間近くはかかるか…
あの兄弟をそんなに待たせてられないよね…


「どうかしたんですか?」

「ちょっとね…。タクシーを拾うべきか…」

「アイヤー!!おめぇら今帰りあるかー?新作のメニュー考えたあるから寄ってけあるよ〜!!」

「王耀さん…そのスクーター…」

「これは我の愛車あるよ!!ちゃーんとここにシナティーちゃんのステッカー貼ってあるある。かんわいいあるよぉお〜」

「わぁ、本当だ!!すっごく可愛いですねー!!ねっスーさん!!」

「…………………んだな」

「ちょっと王耀さん!!!そのスクーター貸してください!!」

「はいあぁああ!?何言ってるあるか!?」

「急いでいかないといけない場所があるんですぅうう!!」

「だったら香を使うよろし!!香ー出番あるよー!!」

「ウィッシュ!!」

「香君んんんん!?」

「君と一緒にドライビングー」

「香君んんんんんんんんん!?」

「わぁ、カッコいいバイクですね!!ねっスーさん!!」

「…………………んだな」


どこからか現れた香君。
香君の乗っている大型バイクにはよくわからないステッカーが所狭しと貼ってある。
うわぁ、バイクが勿体無い…じゃなかった。早く二人の所に行ってあげないと…!!


「ごめん香君、ここから一番近い場所の大学、分かる?」

「オーケイ。しっかり捕まってて」

「ごめんスーさんティノ君!!また明日ねぇえええ!!」

「ヒアウィーゴー」


何やらよく分からない掛け声と共に香君のバイクが走りだした。


「うわぁ…かっこいいなぁああいうの…ね、スーさん」

「…………………………んだな」

「事故んじゃねーあるよぉおお!!」






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