「よいしょっと!!これでだいたいの片付けは終わったよね」

「そやな!!なんとか夕方までに終わって良かったわ〜」

「おいトニー、ビール飲もうぜビール!!引っ越し祝いに一杯やろうぜ!!」

「お、いいねぇ。お兄さんも名前ちゃんのを肴にお酒飲みたいなぁ」

「そやなぁ、そんじゃあちょっとビール買ってくるわ。あとフランシス死ね」

「いいよ、私行ってくる。トニーさんは休んでて?あとフランシスさん死ね」

「ダブルパンチッ!!!」

「ほんま?ほな頼むわぁ」


沢山働いて汗だくの三人。
無事お引越しも終わって明日からトニーさんは元の生活に戻れるんだなぁ。
お財布片手に近くのコンビニまでひとっ走りした。


「えーっと、ビールビール…」

「あれ、名前ちゃん…?」

「へ…?あ、イヴァンのお姉さん!!」

「うわぁ、久しぶりだねっ!!いつもイヴァンちゃんがお世話になってます」

「こ、こちらこそ!!」


うわぁ、イヴァンのお姉さんのライナさん、だったよね…!!
相変わらずお胸が大きいなぁ…少し分けてほしいぐらいだよ


「今日はお仕事お休みなの?」

「いえ、ちょっと用があってお休みしたんです。ライナさんは?」

「私も今日はお休みなの。だけどナタちゃんは相手してくれないし…。甘い物でも食べようかなぁと思ってプリンを買いに来たの!」

「そうなんですかぁ」

「ねぇ名前ちゃん…こ、この後時間無いかなぁ?前々から名前ちゃんと一杯お喋りしたいなって思ってたの!!」

「えっと、今からビールを買って友人の家に帰らないといけないんですけど…」

「そっかぁ…残念だなぁ」

「あ、なんならライナさんも一緒に来ます?」

「え、いいの?」

「男ばかりでアレですけど」

「名前ちゃんが居るならいいの!うん、一緒に行きたい!」

「じゃあビール買ってくるんで待っててくださいね」


何故か涙を浮かべたライナさんは嬉しそうに笑った。
笑うとイヴァンに似てるよなぁ…
コンビニの籠の中にビールやらおつまみやらを詰め込みお会計をすませてライナさんと一緒にトニーさんのアパートに戻った。
道中ライナさんが「実は友達が居なくてずっと女友達に憧れてたの」と言った。
だからあんなに嬉しそうに…
私も女の子の友達って多い方じゃないから嬉しいな。


「ただいまー」

「お帰り名前ちゃ〜ん!!あれ、その子は…?」

「こちらはライナさんと言ってイヴァンのお姉さんなんだよー!!私のお友達」

「い、イヴァンの姉!?あのイヴァンの!?」

「あ!!あの時のデカパイ!!」


それぞれ分かりやい反応を見せてくれたところで部屋の真ん中にある机の上にビールの入った袋を置いた。
ただでさえ狭い部屋の中は大人5人で狭苦しい空間になってしまった。


「ほんまごめんなぁこんな狭いとこで!!」

「う、ううん!!いきなりお邪魔しちゃってごめんね」

「ライナさんビール飲みます?」

「いただこうかなぁ」

「素敵なお姉さん俺と一緒に飲みませんかハァハァ」

「ライナさん、あの髭のオッサンには絶対近づかないようにしてくださいね。あとその隣に居るギッラギラした目でライナさんを見つめている芋男も」

「うん!ずっと名前ちゃんの隣に居るね!!」

「俺は無害やから安心してやー」


その後は5人でビールを飲みながらお喋りしながら服を脱ぎ始めるフランシスさんを黙らせたり。
ほろ酔いで抱きついてくるライナさんの胸がに圧迫されて窒息死しそうになった。
男三人が羨ましそうにその様子を見つめていたのは言うまでも無いだろう。
日も落ちてきた頃に本田さんからの着信があって「よかったらうちで夕涼みでもされませんか?」とのお誘いがあった。
ライナさんは早く帰らないとイヴァンが心配するからと言ってどこか楽しそうに帰っていった。


「いらっしゃいませ皆さん。お引越しお疲れ様です。私も用がなかったらお手伝いできたのですが…」

「大丈夫ですよ本田さん。4人で充分でしたしね!!」

「さぁ、軒下にとてもいい風が入っていますよ。今冷えたスイカも持ってきますのであがってください」

「っしゃースイカスイカ!!」

「ん〜なんか風流だねぇ」

「七夕やしなぁ。あ、一番星見っけた!!あれ俺の星なぁ〜!!」

「んじゃあ次出たやつ俺のな!!」

「じゃあお兄さんは空に一際輝く月ってとこだなぁ」

「お前はブラックホールやろブラックホール」

「それか人工衛星ってとこがお似合いだぜ」


何言ってんだか、この馬鹿トリオは。


「本田さん、何か手伝う事ありますか?」

「いえ、大丈夫ですよ。名前さんも今日はお疲れ様でした」

「いえ。私は何もしてないですよ」

「アントーニョさんとの生活も今日で終わりなんですねぇ…。やはり寂しいですか?」

「はい…。でも一生の別れってわけでもないんですし!!いつでも会えるんですから大丈夫ですよ!」

「そうですね。何時でも会える、それだけでありがたい事ですから」

「はい!」

「私も名前さんがいつでも会えるような場所に居てくださってとっても嬉しいですよ。これからも私の目の届く場所に居てくださいね」

「えぇー。なんかずっと保護者に監視されてるような気分になるのですが…」

「そのまさかです」

「うげっ」


スイカの乗ったお皿をお盆の上に乗せた本田さんは相変わらずの笑顔で私の頭を撫でた。
やっぱりこの人には敵わないよなぁ…


「皆さん、スイカが切れましたよ」

「俺一番でかいの取った!!」

「アホォ!!こういう時は今日の主役の俺に譲るもんやで!!」

「いやいやここは一番年上のお兄さんが…」

「オッサンはちっさいの食ってろよ!!」

「おっさ…!!お前らとそう歳かわんねーだろぉお!?」

「名前ちゃんどれにするー?あ、種の飛ばしあいっこしようや〜」

「ビリになったやつがアーサーの眉毛にタッチするって事で」

「うわぁ、それ絶対負けられん!!」

「私は普通にいただきます」

「ちなみに参加しなかった人はお兄さんのの下半身をタッチ」

「よーし飛ばすぞ!!」

「名前ちゃんノリええなぁ〜」

「ほら菊も!!」


やたらテンションの高い三人に推され軒下でのスイカの種飛ばし大会が始まった。
優勝はとんでもない肺活量をみせつけてくれた本田さんの大勝利。
伊達に歳はくっちゃいないなかった。
ちなみにギルがビリだった。
本田さん家からマンションに帰ってさっそくアーサーの眉毛をタッチしに玄関のチャイムを鳴らしに行くギルの潔さはそれは素晴らしい物だった。
結局殴られて終わったけど。


「三人とも短冊に願い事書けた?」

「俺は書けたでー!」

「俺はまだだ」

「俺もおもいつかねーぜ…」

「いい、他の人の短冊は見ちゃダメだよ?盗み見も禁止」

「分かってるっつーの。そういうお前はもう書けたのかよ」

「私はとっくに書いて笹に結んでるよ」

「んだよ…」


ベランダの外に出て空を見上げると心なしかいつもより多くの星が見えた気がした。
ちゃんと晴れてて良かったなぁ…。
短冊に書いた願い事。”これからも皆で幸せで居られますように”なんてありふれた事だけどとっても大事な事だよね。
今の環境がとっても幸せだから壊れてほしくないもんね


「よし、書けたぞ!!」

「じゃアーサーも短冊結んでー」

「あぁ」

「あーあ、今日で名前ちゃんと過ごす夜も終わってまうんやなぁ…めっちゃ悲しゅうて涙出てくるわー…」

「ちょっとやめてよトニーさん!!私までしんみりしちゃうじゃん!!」

「そやかて名前ちゃん…名前ちゃーああん!!!」

「ばっ、何してんだよお前!!」

「よし、表出ろカリエド。血祭りにしてやる」

「そんな血生臭い七夕の夜は嫌ぁああ!!落ち着けアーサー!!」

「馬鹿、胸倉掴むなよ名前…」

「え、何、変なスイッチ入っちゃったよこの眉毛…」

「うざいわぁー」

「きめぇな」

「んだとアホコンビ…!!」

「それ以上喧嘩するとマジで今夜は笹と一緒にベランダで一夜を過ごしてもらうよ…?」

「「「すみませんでした」」」

「分かればよろしい」


それにしてもギルはまだ書き終わらないのかな…
まぁいいや、放っておいても適当に書いて結んでるだろうし。
明日は今日会社を休んだ分仕事も溜ってるから頑張らないとなぁー!!


「そんじゃあ俺帰るな」

「うん。おやすみアーサー」

「ん。おやすみ」

「ほな俺もお風呂入ってこよー」


それじゃあ私はテレビでも見るか…
何か面白い番組やってたっけ


「んー…」

「何、まだ悩んでんのーギル」

「ゲームか漫画かDVDか…」

「って、もしかしてゲームがほしいですー!とか書くつもり!?小学生かお前!!」

「ちょっ、人の短冊覗くなよ!!何書こうが俺の勝手だろ!!」

「だけどもっと為になる事書けないの?友達100人欲しいとか」

「どこの一年生だよ」

「ギルは中二だもんね〜」

「あぁ?」

「いいからさっさと願い事書いちゃいなさい」

「あーもうホントにむかつくぜこの女…」

「その女に食わせてもらってんだから文句言わない」

「ちくしょー…!!」


ギルがどんな願い事を書いたのかは知らないけど、それからしばらく悩んでからコソコソと手元を隠すように一字一字丁寧に書き上げていた。
いったいどんな願い事を書いたんだろう。
ゲームとか呟いてたしやっぱり欲しい物をお願いしたとか?
まぁなんにしろ願い事なんて自由なんだし気にかける必要もないか。

短冊を結び終えて空を見上げているギルの横に立つとおもむろに髪をわしゃわしゃに撫でられた。
「願い事叶うといいね」と呟くと嬉しそうに「あぁ!」と笑ったギルの笑顔がなんだか胸にズンときた。

皆の願い事、叶うと良いなぁ…


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