「名前さん!これどうぞ」

「んー?あれ、これ短冊じゃん。そっかぁ〜もうそんな時期なのか」

「昨年同様、今日にでもオフィスに大きい笹が運ばれてくるみたいですよ!」

「うっしゃーどけどけどけー!!笹が通るっぺー!!」

「あんこやかまし…」


なにやら廊下の方が騒がしいのですが…
もしかしなくてもその声は我らが上司ものでありまして…
っていうか廊下で騒ぐなよ!!


「うっし!おめぇらこれに短冊付けるっぺ!!あと飾りつけもな!」

「ちょっ、でかっ!!どこから持ってきたんですかこの笹…!」

「んー?近くに中華料理屋あんの知ってっけ?あの裏の林」

「えっ、ちょっとそれってドロb「さぁー願い事さ書くっぺー!!」


近くの中華料理屋って…思いっきり知り合いのお店なんですけど…。
後で王耀さんに謝りに行こう…


「あれ、スーさん何作ってるの?」

「…ん」

「わぁー!スイカだ!笹の飾りだね〜」

「ん。おめもこさえっけ?」

「作る作るー。小さい頃は家でもやってたなぁ七夕。田舎だから天の川も綺麗に見えてさ」

「俺の故郷も星さ綺麗だったなぃ」

「スウェーデンだもんね〜。あ、オーロラ見えるの!?」

「見えんなぃ。キラキラでフラフラ」

「いいなぁ〜!私も一度でいいから見てみたいもんだよ」

「俺ん家こ」

「え、スーさん家?それって実家の?」

「ん」


折り紙をハサミで切る手を止めてスーさんの顔を横目で見ると、ほんのり頬がピンクになっていた。
あらら…スーさんのこんな顔久しぶりに見たなぁ…


「名前とティノと花たまごと4人でオーロラ見てぇ…」

「良いね、それ。なら沢山稼いで出世してどこにでも自由に遊びにいけるぐらいの権力握らなきゃね!!よーし、頑張ろう!」

「おめは本気でなれそうだなぃ」

「あれー、二人で何話してるんですかー?あ、飾り作ってるんですね!!それよりもう短冊に願い事書きました?」

「まだだよー」

「ん」

「じゃあ先に書いちゃいましょうよ!!それで三人一緒に見せあいっこしません?」

「ティノ君、願い事は人に見られちゃダメー…って、オフィスに飾るんだからバレバレだよねぇ」

「でしょ!他の人に見られる前に見せあいっこしましょうよ」

「ん」

「おっけー」


それぞれピンクと水色と黄色の短冊を手にとって願い事を書いていく。
家内安全?家族の健康…?それも良いけど夢が無いよなぁ…

よーし…!


「書けましたか?」

「ん」

「書けたよ」

「それじゃあせーので出しましょう!!せーのっ…!」


一斉に出された三色の短冊。


「「「あ…」」」


開いた口が塞がらないとはこの事だろう。
呆気にとられたような表情をしていたティノ君が「願い事、もう叶ってました」照れくさそうに笑った。



「デンさん。これ一番高い場所に結んでくれません?」

「あ?肩車してやんべ。自分で結べ!」

「死んでも嫌です」

「名前さーん!こっちで三人一緒に結びましょうよ!」

「いいね!」

「俺が結んでやっから」

「スーさん男前!」

「なんだ〜おめぇら、仲良しこよしか〜」

「友達より敵の数が多いデンさんにからかわれたって何とも思いません〜」

「俺にはノルがいるっぺ!!なぁ〜ノルー!!」

「名前、一緒に飾らせてけろ」

「いいですよーノルさん」

「ガハハ!!照れるな照れるな!!」

「あんこうざ…」


デンさんに肩に回された腕を心底嫌そうに払い除けるノルさん。
心中お察しいたします…!!


「さぁーて仕事仕事!!ティノ君、昨日の書類ってできてるー?」

「あ、はい!できてます!」

「じゃあついでにコピーとっちゃうね。20部でいいんだっけ?」

「わぁ〜!ありがとうございます!」

「スーさんも何かコピーある?」

「ねぇ」

「本当はあるくせにー。ほら、さっさと出して!」

「…おめぇには一生勝てねぇない」

「ハッハッハ」






「”ティノ君とスーさんとずっと友達でいられますように”って、あの三人同じ事書いてんじゃながっぺ〜」

「若ぇ…」

「アホだアホ。短冊に書くならもっとでっけぇ夢書くべきだっぺ。願わなくても良い事願いやがって…」

「若さだ若さ」

「ちなみに俺の願いは「あんこのは聞いてね」



―――





「ギルたっだいまー!!」

「うお…!?んだよテンション高ぇな…」

「うへへー。今日は会社でいい事あってね」

「うへへってお前…。って言うかその竹なんだよ!?」

「竹じゃねーよ笹だよ。ちょっと例の中華料理屋さん行ったらミニサイズの笹くれてさ〜。ちょうどいいサイズでしょ?」


仕事帰りに王耀さんのところに行って頭を提げると、呆気にとられた顔をして「あれは我があの男に売ったあるよ?」と言われた。
こっちこそ吃驚して数秒固まってしまった。
どうやらデンさんは王耀さんから笹を買い取ったらしい。
お店の庭の飾り林に生えていた笹で、あまりに大きくなりすぎたから王耀さんも快く譲ったらしい。
って、そうならそうと言えよあの上司ぃいいい!!!
大きくため息をついていると、私を不憫に思った香君…が、奥からお手頃サイズの笹を持ってきてくれた。
彼曰く「七夕の夜は願い叶ウイッシュ」との事らしい。
え、ギャグ?それとも巷で流行ってるギャル男って奴なの?
わけのわからないまま笹をいただいて帰ってきたわけなのだ。


「パンダでも飼うのか?」

「ちげーよ。七夕を知らんのか貴様は」

「あー…願い叶う奴だろ?」

「それそれ」


ふぅんとソファーに座ったまま顔を上に反らして、背後に立っている私の顔を覗いたギル。
笹を顔にぶつけてやると「ぶわっ!!」と、なんとも情けない声があがった。


「ははは」

「何すんだよ!?」

「何でもないよー。あ、これ明日飾りつけしようね!あと短冊も書かなきゃ〜」

「タンザク…?」

「紙に願い事を書いてこの笹に吊るすんだよ」

「あぁ、あのお札みたいなのか」

「ギルって七夕やった事ないの?」

「漫画の中でやってるの見たことある程度だぜ」

「へー。そうだ、笹が枯れないようにバケツに水張って浸けておかないと…!」

「七夕って七日だろ?」

「うん。七日の夜に外に出しておくんだよー。やり方はひとそれぞれだけど私の家ではいつもそうしてた」

「へー。ドラゴンボールのDVD全巻欲しいぜ!とかでも良いんだろ?」

「小学生だなお前。それがダメなら大金持ちになりたいとかドラえもんが欲しいとか書くんだろ、どうせ」

「ドラえもんはいらねーから四次元ポケット欲しいぜ!」

「はぁ!?何言ってんのドラえもんは道具じゃなくてドラえもん自身に価値があるんじゃない!!道具は二の次!!」

「お前だってどこでもドアとかタイム風呂敷とか増えるミラーとか欲しいんだろ!?」

「欲しいけどさ!!欲しいけどさ!!って、何非現実的な事で言い争わなきゃいけないの…」

「お前が始めたんだろ」

「はいそうですよー。ったくうぜぇなこのヒモ」

「そうやって口悪いから彼氏の一人もできねーんだよお前。短冊に”かっこよくて足の長いお金持ちの彼氏が欲しいです!”なんて書くんじゃねーのお前!!」

「へぇ…ギルはそんなに私にフルボッコにされたいんだ」

「ふぇ…?ちょっ、待てよ今の冗談!!嘘嘘嘘嘘!!胸倉掴むなって馬鹿!!ちょっ、顔ちか…っ!!」

「ギル?」

「…はい?」

「短冊に”早く怪我が治りますように”って書く事をお勧めするよ」

「それってどういう…って、いだぁあああああ!!!!」



さて、短冊に何を願うか楽しみにしておこう。



「絞まる!!ギブギブギブ!!!」

「十文字固め〜」

「なんでそんな技できんだよお前!?」

「いやぁ、変態に襲われた時の為にって本田さんが教えてくれてさぁ…」

「本田ぁぁぁああああああ!!!!」


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