「名前−アイスが食べたいんだぞ!!」

「もう、我侭言っちゃダメじゃないかアルー」


今日は土曜日。
仕事もお休みという事で、朝からギルと一緒にゴロゴロしていたんだけど、いきなりアルフレッド君とマシュー君がアポなしでやってきた。


「なんで来るんだよ!?帰れメタボ!!」

「OH!!前までは一緒にゲームしたりして仲良かったのになんだいその言い草は!!」

「テメェがなぁああ…!!!ああもう知るか!!俺はピヨちゃんと遊んでるから勝手にしろよお前ら!」

「ピヨちゃん…?WOW!!キュートな小鳥さんだな!」

「うわぁ…可愛い…」

「ギル、ちょっとマシュー君に触らせてあげなよ」

「え、良いの…?」

「うん。アルフレッド君は玩具にしそうだから触っちゃダメだよ」

「これ贔屓だぞ名前!」

「チッ。しょうがねーな…。ほらマシュー、手ぇ出せ」

「あ、うん…」


両手を差し出したマシュー君の掌に黄色くふわふわした小鳥、ピヨちゃんが乗せられた。
うわぁ、マシュー君すっごい笑顔。
動物好きなんだなぁ…


「あの、アル!しゃっ写真!!写真撮って、アル!!」

「えー面倒くさいよ」

「ぴぃぴぃー」

「うわぁああ〜〜…!!可愛いなぁ…!!」

「マシューばっかり独り占めしてずるいんだぞ!!」

「ピヨちゃん怪我してんだからお前の馬鹿力で手に持ったら悪化するだろ!」

「いいさいいさ!!俺には名前が居るからな!!こうなったら今日一日中名前にくっついててやるんだぞぉおお!!」

「うん、邪魔」

「NOOOO!!酷いよ名前!どうしてそんな事言うんだよぉおお!!」


がばっと私に抱きついたアルフレッド君は泣きそうな声で「どうじでなんだよぉお!!」と鼻水を垂らしながら私のお腹に顔をうずめた。
ちくしょう、母性本能が…!!
いかんいかん、学習しろよ私!!前に酷い目にあったんだからこれぐらい我慢しなきゃ…。
アルフレッド君の頭を撫でようとする手をぐっと押し込めて、「ギル助けてー」と声をかけると目にも止まらぬ速さでギルがアルフレッド君を引き剥がした。
…やれば出来る子だって信じてだよ、ギル。


「何するんだよG!!」

「Gって呼ぶな!!ゴキブリみたいじゃねーか!!」

「今の俊敏な動きはまるでゴキブリだったよ。今度俺の映画に出てみないかい?」

「え、マジかよ…。ま、まぁかっこいい俺様が出ればその映画はヒット間違いなしだぜ!」

「通行人Gとしてだけどね」

「ってエキストラかよ!!Gってなんだ!?通行人AとかBとかも居るんだろ!?なんで俺がGなんだよ!」

「一番動きが無いからさ!!ただ画面の遠く方で立ってるだけ」

「…」

「アルフレッド君、あんまりギル苛めないで。いじけると面倒くさいんだよギルは」

「ブーブー!!」

「ブーイングしないのー」


今日はゆっくり昼寝しようとしてたのにアルフレッド君が居るとゆっくりできないなぁ…
久しぶりにお菓子でも作ろうかな


「三人ともー。お菓子作るけど何が食べたい?」

「クーヘン!」

「いや、無理だろ」

「アップルパイが良いんだぞ!!」

「アップルパイかぁ〜」

「あ、僕はホットケーキが良いなぁ〜」

「ホットケーキって…簡単すぎやしないかいマシュー君。もっと他のお菓子でも良いんだよ?」

「いや、えっと…僕はホットケーキ大好きだから」


また手にピヨちゃんを乗せたままのマシュー君が照れくさそうにへにゃりと笑った。
かわっ…!!


「アップルパイ!アップルパイじゃなきゃ嫌なんだぞ!!」


先程から酷い扱いを受けているアルフレッド君は地団駄を踏んで「アップルパイ!!」と叫んでいる。
でかい子供が居るようだ…


「はいはい分かったから。アップルパイ作ってあげる」

「いやったぁああ!!アイアムウィーナー!!」

「ホットケーキはまた今度ね、マシュー君」

「あっ、えっと、うん!その時は僕の大好きなメイプルシロップ持ってきても良いかなぁ…?」

「もちろん!マシュー君の好きなメイプルシロップかぁ…どんなのだろう」

「食べる人を幸せにする魔法のメイプルだよ」

「嘘くせー!それごときで幸せになれたら苦労しねーぜ」

「でも本当に幸せになるんだよぉ〜…信じられないだろうけどさぁ」

「へぇ〜食べてみたいなぁそれ」

「今度持ってきますね」

「ありがとう、マシュー君」

「どっ、どういたしまして…!」


ふわふわしてて可愛いなぁマシュー君って。
アルフレッド君は性格もどことなくアーサーに似てるけど、マシュー君は全然似てないなぁ…
どちらかというとこの落ち着いた雰囲気はフランシスさんの…。
そういえばよくマシュー君の面倒をみてたってフランシスさん言ってたなぁ。
…マシュー君が変態にならなくて本当に良かった…!!!


「あの、名前さん…?」

「んー?」

「なんで僕の頭撫でてるの…?」

「あ、ごめん。ついね、つい。うん、本当に良かった」

「へ?」

「何でもないよー。それじゃあアップルパイ作るから大人しくして待っててねー」

「うんと甘くしてくれよ!」

「はいはい」


ふふふ。なんだか三人のお母さんにでもなった気分だ。
そういえばアルフレッド君とマシュー君はお母さんが居ないんだよね…
アーサーのお母さんとも離婚しちゃったし、今は家政婦さんが家事をやってくれてるとか…。
お袋の味ってやつ、知らないのかなぁあの二人。
私もお母さん居ないから知らないけど、私にはお婆ちゃんが居るしなぁ…


「…よし」






「ん〜!なんだか甘い匂いがしてきたなぁ!」

「甘酸っぱい匂い…」

「名前、順調にできてるかい?」

「勿論」

「リンゴとレモンを煮詰めてたのか!一口ちょーだい!あー」

「あ、僕も欲しい…!」


匂いに釣られてやってきた二人の口の中に甘酸っぱいリンゴを入れてあげると、幸せそうな顔をして甘さ加減が良いだとか自分好みの味だとか褒めていた。
性格はまるっきり違ってる二人だけど、幸せそうに笑う表情は本当にそっくりだなぁ。
なんだかこっちまで嬉しくなっちゃう。


「あともう少し焼けば出来上がり!!」

「やったー!」

「さぁて、アーサーでも呼んできてあげようかな」

「はぁ!?なんであんな奴誘うんだよー!!煩いし眉毛だし面倒くさいんだぞ!」

「アーサーをのけ者にしない。お兄ちゃんなんだから少しは優しくしてあげなきゃダメじゃん。それにパイと一緒にアーサーの紅茶が飲みたいのー」

「やだよ!せっかくの名前との時間を邪魔されたくないんだぞ!!」

「もっと言ってやれアルフレッド!!あんな奴来るぐらいならまだこいつらの相手してる方が有意義だぜ!」

「じゃあ私はアップルパイ持ってアーサーの部屋に遊びに行くから三人で仲良くやってなよ。私はアーサーと紅茶とパイと食べて有意義な午後を過ごすからさ」

「ぬあぁああ!!二人っきりになんてなったら襲われるぞ!!」

「襲われねーよ」

「アル、諦めようよ…」

「うー…」

「ほら、二人でアーサー呼んできて?喧嘩したらアップルパイは無しね」

「…名前の頼みならしょうがないね」

「早く行こうよアルフレッド〜!」

「押さないでくれよマシュー!」


アーサーの奴、弟二人が誘いに来てくれただけで幸せ一杯になれるんだろうなぁ…。
あんな可愛い弟二人が居て羨ましいぞアーサー!


「いいなぁ弟ー」

「あ?弟欲しいのかよ」

「まぁね。兄弟ってやっぱり羨ましい」

「まぁ俺も弟の事結構大事にしてたぜ?いつも俺の後ろついてくるようなガキだったけどな!」

「へぇ…ギルの弟君、見てみたいなぁ…」

「…ま、無理だろうな」


そう小さく呟いたギルは私が切り分けたアップルパイの一つを取って一口、ぱくりと口の中に入れた。


「まぁ不味くないな」

「テメェ誰が食っていいって言った…?しばくぞ」

「生地のサクサク感が少ないぜー…。どうせ市販の安っぽいパイ生地使ってんだろ。パイの実見習えパイの実ー!!」

「文句があるんだったらギルは食べなくても良いよね。それも返しな」

「嫌だ」

「返せ!!」

「いーやーだ!!」

「こんにゃろ…!!!」

「いひゃっ!!やふぇほぅぅぉお!!」

「HAHAHA!!名前様に逆らおうとは100万年早いは小僧ぉおお!!」


ギルの両頬を摘んで横に引っ張ったり上下させたりと弄ぶ。
赤い瞳に薄っすら涙を浮かべたギルは「いひゃっ…」と言葉にならない声をあげていた。


「なぁにやってんだよお前ら…」

「あ。アーサーいらっしゃ…、ってなんて顔してんのアーサー…」

「な、なにかついてるか?」

「いや、なんというか…顔緩みきってると言うか鼻の下伸びてるというか…」

「俺達が迎えに来たって言ったらいきなりこれだよ。本当にうっとうしいなぁアーサーは!」

「ばっ、別にそんなんじゃねーよ!!名前のアップルパイが嬉しかっただけで別にお前らが来てくれたから喜んでたんじゃないんだからな!!」

「まぁまぁ。あ、そうだアーサー。紅茶淹れてくれる?」

「う…。分かった」

「アルフレッド君とマシュー君は座っててねー。すぐに持っていくから」

「分かったんだぞ!!あと名前、ギルベルトが泣いてるぞ」

「ふっ…ふぅううー…!!」

「あ、ごめん。頬っぺた掴んだままだった…」


情けない声を出しながら瞳一杯に涙を溜めたギル。
うわぁ、可愛いなぁこいつ…!!
思わず抱きしめたくなる衝動を必死に抑え、切り分けたアップルパイをお皿の上に乗せる。


「さぁ!それではいただきましょう!」

「いっただっきまーす!!」

「アルフレッド、ボロボロこぼすなよ」

「うるさいなぁーもう!あとで掃除すれば大丈夫さ!」

「うわぁ、美味しそう〜!!」

「マシュー君もアルフレッド君に負けないくらい沢山食べてね」

「うっ、うん!」

「なぁ名前、ピヨちゃんもパイ食うか?」

「食わねー…よねぇ、アーサー?」

「俺に振るな」


紅茶とアップルパイを楽しみながら会話に花を咲かせながら午後のひと時を過ごすのも良いもんだなぁ…。
アルフレッド君とマシュー君もすっごく喜んでくれて良かった。
やっぱり二人はお袋の味ってのを知らないらしい。
だけどフランシスさんがよくご飯を作ってくれていたらしく、彼の料理はそれに近い物があるらしい。
フランシスさんの料理がお袋の味って…。舌が肥えちゃいそうだよ…!!

そういえばギルにも懐かしいお袋の味、みたいなものってあるのかなぁ…
今日「クーヘンが食べたい!」とか言ってたよね。
小さい頃作ってもらったことあるのかな…?
クーヘンは無理だけど、ギルの好きなじゃが芋料理だったら私も沢山作れるもんね!!
まぁお母さんの味には到底敵わないだろうけどさぁ…。

もし、いつかギルと離れ離れになる時が来たら、ギルは私の料理の味が恋しくなったりするんだろうか…
って、それは無いか…。いつも「微妙」とか「そこはかとなく美味い」としか言わないしね。

…ちくしょう。
もう少し料理が上手くなるように練習しようかなぁ…。
よし!!また今度フランシスさんに習いに行ってみよっと!


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