「ったく名前の奴…お昼のタイムセールで洗剤買ってこいとか面倒くさい事言いやがって!もう残り少ないからって、お前がちゃんと買い置きしておかねーのが悪いんだっつーの!!ああもう雨降ってるし最悪だぜー!!」


―ぴぃぴぃ


「ん…?なんだよこの声…どこから聞こえんだ?…って、あっ…!!」




―――



「ただいま〜」

「名前!名前!」

「ぐわっ!!何そんなに慌てて!!とうとう頭までプップクプーになっちゃったの…!?」

「なんだよ頭までプップクプーって!?それより早くリビング来い!!」

「はぁ?なんで命令されなきゃならんのだよ」

「いいから!!」


まだ靴も脱いでいないというのに私の腕をぐいぐい引っ張っていくギル。
え、何…。ギルがこんなに慌ててるなんてただ事じゃないよね…
いったいリビングで何が…


「ぴぃぴぃ」

「大丈夫かよ鳥!名前が帰ってきたからもう安心していいぜ」

「ぴぃぴぃ」

「あんまり鳴くと体力奪われるぜ?ゆっくり休め」

「ぴぃぴぃ」

「名前、鳥って何食うんだ?卵とか食うっけ?」

「……」


ちょっと待て、何だこれは何だこれは。
私のお気に入りのふわふわもふもふタオルに包まれた泥の塊…いや、鳴き声からして鳥であろう。それもまん丸で小さな小鳥。
ギルが大事そうに腕に抱えて…


「ってうおおおおい!!どうしたそれ!!どこで拾ってきたのぉおお!?」

「道端」

「なんでもかんでも拾ってくるんじゃありません!!」

「お前だって道端で落ちてた俺様を拾っただろーが」

「うわー正論!むかつくなぁ…」

「こいつ羽怪我してんだよ。どうすれば良いんだ?」

「怪我…?ごめん、ちょっと見せて」

「ん」


そっと小鳥の羽を広げて羽毛を掻き分けてみると、じんわり滲み出ている血。
うわぁ…傷口からしてカラスか何かに突付かれたんだろうなぁ…


「治らねーのか…?」

「治るよ。思ったより大した事ないみたい。とりあえずこの泥を綺麗に洗い流してあげよう?傷口に水が当たらないようにね」

「分かった」


振動を与えないようにそっと立ち上がったギルはそのまま洗面所へ向かった。
心配だから私もついて行こう…


「ぴぃーぴぃー!!」

「こら、暴れるなって!」

「扱いが乱暴なんだよギルは。ほら、こっち貸して」

「う…」

「こうやってタオルを水に浸して…。鳥は基本的に水が好きじゃいからね。そっと拭き取る感じで洗ってあげるんだよ」

「へぇ…」


真っ白だったタオルが茶色に染まっていくにつれ、小鳥の黄色がかった綺麗な羽毛の色が見えてきた。


「おぉー…」

「よし、綺麗になった!!後は傷の手当てだね…。変に人間と同じ治療をして傷が悪化したら困るし、とりあえずガーゼでも貼っておこうか。様子見ってとこだね」

「こいつが元気になるまで飼ってもいいだろ?」

「んー…まぁいいか!だけど構いすぎると人に慣れちゃって野生に帰れなくなるからそっとしておいてあげるんだよ。あとその子の世話はギルがみてあげることー」

「分かったぜ!よし、今名前考えた!ピヨちゃん1号がぴったりだよな!」

「って全然分かってねーなこいつ!愛着わかせたら後が辛いよー」

「その時はその時だろ。なぁ、ピヨちゃん1号って何食うんだ?」

「さぁ…ミミズ、とかじゃないの?」

「み、ミミズ…!?ちょっとまてよこんな可愛いピヨちゃんがあんなゲテモノ食うって言うのかよお前ぇえええ!!」

「鳥にはミミズってのがお決まりのパターンなの!この辺にミミズって居るのかな…。あ、本田さんちの軒下とか居そうだよね!ちょっと捕まえてきなよギル」

「できるわけねーだろ!てかなんでそんなに目輝いてんだよお前!!」

「いやぁ、田舎娘なもので…。大丈夫、ミミズは友達怖くない!」

「んな友達だったら一生一人がいいってのぉおおお!!」


ミミズのどこが怖いんだろう。
うねうねしてて可愛いんだけどなぁ。
地面から出てくる所なんて愛嬌があって可愛いじゃないか…!


「芋とか食わねーか?」

「芋は食べないでしょう」

「じゃあ玉子焼きとか…」

「ちょっ、それだけはダメ!!」

「何でだよ!?」

「お前卵が孵化したら何になるか分かってんの!?ともかく卵だけはダメ!!

「じゃあ米とか…」

「米ねぇ…。あ、昔スズメが生米食べてるの見たことあるなぁー…」

「マジかよ!」

「試してみようか」


キッチンから生米を一つまみもってきて、ギルの掌に乗せる。


「ほら、餌だぞー食えー」

「……食べないね」

「腹減ってねーんじゃねえの?」

「かなぁ…。っていうか米嫌いなんじゃない?」

「じゃあ何食わせればいいんだよ!」

「逆ギレすんな。こういう時は…」

「こういう時は…?」





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