「ただいまぁ〜」

「あ、名前さんが帰ってこられましたよ!」

「お前遅すぎるんだよ!!」

「どうしたのギル…。あ、帰る途中イヴァンに会ってね〜。今日一緒に夕飯食べる事になったんだー」

「こんばんはギルベルト君。お邪魔するねー」

「ちょっと待て、今お前の妹が…」

「え…?」

「兄さん!!!」


俺の隣を突風が走ったかと思うと、数秒前までソファーに座ってくつろいでいたイヴァン妹の姿が目の前に現れた。
って、早っ!!!


「ナターリヤちゃん」

「現れたわねこのメスブタ!!やっぱり貴方が兄さんを誘惑していたのね…!!!殺す…!!!」

「えぇええ!?ちょっ、誤解だってナターリヤちゃん!!」

「だだだ、ダメだよナターリヤ…!名前は僕の大切な親友なんだから…!」

「兄さんこの女に騙されているのね…!!大丈夫よ、今すぐこの女の息の根を止めてあげるわ。そうすれば私と兄さんの邪魔をする者なんて居なくなるのよ。兄さんと私は一心同体ですものね、これからは何処に居る時も何をするでも一緒よ!!兄さんと合体合体合体合体合体…!!」

「イヤァアア!!帰ってナターリヤ!!!」


あのイヴァンが怯えている…!!
イヴァン妹、恐るべし…!!!
あの名前でさえビクビクしてるし…やべぇな、イヴァン妹…


「えっと、ともかくイヴァンもナターリヤちゃんも夕食食べていってよ。ね?今からパスタ作るから…」

「オムライス以外は食さないわ!」

「あ、じゃあオムライスで…」

「誰があんたの作ったものなんて食べるものですか!!」

「食べないの!?まぁそんな事言わずに、ね?イヴァンも食べるんだからナターリヤちゃんも食べようよ」

「…兄さんが一緒なら」


ホッと安心した表情を見せた名前は「それじゃあ準備するから座って待っててね」とやんわり笑った。
お人よしすぎんだろお前…!!
「食べ物に変なものを入れないよう見張っておく」とキッチンに立ったイヴァン妹。
って、どっちかって言うとお前の方が何か入れてきそうでおっかねーぜ!!


「いやぁ、キッチンに女性が二人居られるなんて…目の保養目の保養…」

「可愛い子が二人もおったら絵になるよなぁ〜」

「うん…ナターリヤは黙っていればとっても美人なんだよね。何もしなかったら、ね…」

「お前妹に何されてんだ…?」

「ナターリヤは僕が大好きらしいんだけど…ちょっと度が過ぎるんだぁ…。夜中にふと目が覚めて目を開いたらベッドの横にナターリヤが立ってたり…。あとあの子の作った食べ物は絶対食べられないんだ」

「何があったんやろなぁ〜アハハハ」


けっこうこいつもバイオレンスな生活おくってんだな…。
ただの腹黒い奴かと思ってたけどちょっぴり同情しちゃうぜ


「おまたせー。オムライスできたよー」

「わぁ、美味しそう」

「兄さんの分は私が作ったわ」

「ヒィッ…!!」

「アハハー…大丈夫、何も入れないように私が見張っておいたから」

「おひゃー!美味しそうやんなぁ〜」

「普通のオムライスじゃなくて、テレビとかでやってるパカーっと割れて半熟の卵が出てくる奴食べたかったぜ」

「文句があるなら食うな。そんなプロ染みた事できるかってーの」

「さぁ兄さん口を開けて。私が食べさせてあげるわ」

「一人で食べられるから…!!」

「良いですねぇ兄弟愛…!!さぁ名前さん、私たちも負けないように頑張りましょう」

「何を頑張るんだ」

「遠慮なさらずに”はーいお兄ちゃん、あーんして?”と私にオムライスを食べさせてくださいハァハァ!!!」

「死ねよ」

「ええなぁそれ〜。なぁ名前ちゃん、俺にも食べさせたって…?」

「可愛いなぁちくしょう!!はいトニーさん、あーんしてー」

「あーん」

「イチャついてんじゃねーよバカァ!!なんでこんなトマト野郎なんかと…!!」

「ああもう泣かないでよアーサー…うざいなぁー」

「うっ…!!どうせ俺はうざい男なんだよ!!ほっとけよバカァアアア!!」

「放っておけねーっての。ほら、アーサーもあーんして?」

「ふぇ…ま、まぁお前がそこまで言うならしてやらない事もないんだからな…」

「あーはいはいツンデレね。いいからさっさと食べちゃってよ」

「名前さん!私にも!!私にもお願いします…!!」

「本田さんは嫌!!」

「そんな殺生な…!!」

「名前、僕も「兄さんには私が居るでしょう?さぁ兄さん口を開けて。さもなくば無理矢理にでもこじ開けるわよ」ヒィイイイ!!!」


イライライライラ。
ちくしょう、名前の奴甘やかせすぎだろ…!!
いつも俺の目の前で他の野郎とイチャイチャしやがって!!
ま、まぁ俺だって他の野郎が居ない時甘やかせてもらってるんだからな!!
別に羨ましくなんか…

苛立ちの募る夕食を終え、迎の車が来たイヴァンと妹はさっさと帰っていった。
後片付けをすませた本田は締め切りが近いからと言って帰って行き、眉毛は仕事が残っているからと渋々帰って行った。


「そんじゃあお先にお風呂もらうなー」

「どうぞー」


食器を拭き終わったトニーは今日の一番風呂だ。
リビングが静かになって、なんだかやっと一息つけた気がするぜー…


「ため息つくと幸せ逃げるよー」

「やっと一息つけたんだよ…今日は最悪の一日だぜ」

「お疲れ様」


名前の手が伸びてきて俺の頭をポンポンと撫でた。
なんとなくこいつは俺の事子供扱いしてるような気がしてならねーぜ…
なんとなくむかついたけど、まぁ嫌な気分じゃねーよな…
疲れがたまっていたのか、撫でられると気持ちよくてなんだか眠くなってきた。
あぁ、今この状態で眠れたら幸せなんだろうな…


「ギル、眠いの?」

「んー…」

「お風呂入ってからにしてよ。もうすぐトニーさん上がるから」

「じゃあトニーが戻ってくるまで寝る」

「ったくこの子は…。膝貸してあげるからここに頭乗せなー」


膝をポンポン叩く名前…っておいおい、それってオイオイオイ!!
いや、これってチャンスじゃねーか…?
今日散々な目に会った俺様へ神様からのプレゼントに違いないぜ…!!
ぎこちなく体を横に倒して膝に頭を乗せる。
柔らけー…


「よしよーし」


名前の手がまた俺の髪を撫でた。
やべぇ…今なら幸せすぎて死ねる…

そんな時間が続くわけもなく、数分後風呂から上がったトニーに「ギル〜何してんねん」と床に頭を叩き落される破目になったのは…言うまでもねえ。

やっぱり俺って最後は不憫なのかよ!!!


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