「あいやー。ヨンスから聞いたある。お前あいつの文化祭見に行ってたあるか?」

「はい。ちょっと知り合いの子が居まして…。たまたまヨンス君と同じクラスだったみたいで」

「アイスは親友なんだぜ!今日も弁当にキムチ分けてやったら顔をしかめながら食べてたんだぜ!!しかめる程俺のキムチが大好きって事なんだぜ!」

「それは嫌々食ってるだけあるよ」

「いやですねぇ兄貴!!ツンデレの起源は俺なんだぜ!」

「お前わけわかんねーある!!!」

「まぁまぁ王耀さん…」


まだお客の入りの少ない夕方のこのお店、亜細亜飯店。
たまたま仕事帰りにお店の前を通った所、ヨンス君に捕まってお店の奥まで連れて来られたわけなのですが…


「まぁ茶でも飲んでけある。それからお前に食って欲しいものがあるからちょっと待っててくれあるよ」

「食べてほしい物…?」

「後のお楽しみある!」


にやりと笑った王耀さんはテケテケと小走りでどこかに行ってしまった。
なんだろう、食べてほしいものって…


「名前!!お茶淹れたんだぜ!」

「ありがとうヨンス君」

「アイヤぁー。お前また来てたアルかー」

「ヒッ…!!し、シナティー…さん」

「怯えなくてもいいヨー。頭撫でてやるからこっちこいよー」

「いえ、遠慮しておきます…!!」

「いいから来いアルヨー」


某猫キャラのパクリキャラ…じゃなくて、王耀さんが溺愛するキャラクターシナティーちゃん。の被り物を被っている中の人。
どすどすと近寄ってきたかと思うと、そのゴツゴツとした手で私の頭をらしゃわしゃと撫でた。
いや、ぶっちゃけ本当に怖いです。


「シナティーずるいんだぜ!名前の独り占めは良くないんだぜ!」

「アイヤー。おめぇはキムチでも食ってろアル」

「まぁた喧嘩してるあるかお前らー!ヨンスはさっさとホール行けあるよ!湾がかんかんに怒っててこえーある」

「分かりましたなんだぜ!兄貴!」


袖口が広く長く、手元が隠れきった制服を着たヨンスくんは鼻歌を歌いながらホールへと戻っていった。


「待たせたあるな。お前に食ってほしいのはこれあるよ」

「これって…」

「新しくメニューに取り入れようと検討中の黒蜜杏仁豆腐ある。まぁ食えあるよ」

「いいんですか?」

「良くねーんだったら出さねーあるよ。カロリーも控えめだから安心して食えある」


うわぁ、なんだかちょっと見透かされてる感があるなぁ…。
確かに甘い物は控えてるんだけど、カロリー控えめって言ってるし少しぐらい大丈夫だよね!
レンゲを手に取り「いただきます」と小さく会釈し、器に入った杏仁豆腐を口元へ運ぶ。


「んー…っ!!美味しい!!」

「ほぁ〜!良かったある!沢山あるから全部食ってもいいあるよ!」

「やったー!ありがとうございます!!これ本当に美味しいですよー!杏仁豆腐の独特の甘さと黒蜜がなんとも…!!」

「メニューに加える前に意見を聞きたかったある。何か物足りなさとか、具体的に意見はねーあるか?」

「そうですねぇ…フルーツとか入れてみるのも良いと思いますよ!あときな粉や抹茶をふってみたりするのも和風で見た目も綺麗かも…。味は文句の付け所がないぐらい美味しいです!!」

「あいやぁーすげぇあるなお前!良い意見貰えたあるよ!」

「いえ、こちらこそこんな美味しい物をありがとうございます」


本当に美味しいなぁ…!!これなら女性だけじゃなくて男性にも好まれそうな味だよねぇ…
これも王耀さんが考えたメニューなのかな?


「この新作も王耀さんが考えられたんですか?」

「いや、何時もメニューは香がやってるあるよ。あいつ暇な時によく適当な料理作ってるある。それが偶然美味くてメニューになったり、ってパターンが多いある」

「うわぁ…なんていうか香君すごっ…!!」

「まぁ我の弟あるからな!もちろん我はお前も妹のように思ってるある。いつでもにーにを頼るといいあるよー」

「いえ、私は遠慮しておきます」

「なんであるかぁああ!!にーにって呼べあるよ!」

「善処します」

「あいやぁあああ!!!」



―――




「ふぅ…ただいまぁー」

「お帰り〜愛しのマドモアゼル」

「なんで私の家に変態髭野郎が居るんですか」

「のっけから酷い!!いやぁ、今日は男塾の集会があったからお昼あたりからお邪魔しちゃってるんだよね〜」

「男塾ってなんですか!?私の家で変な集会開かないでください!!」

「おや、お帰りなさい名前さん。お仕事お疲れ様です」

「本田さんまで…人ん家で何やってんだよあんたら」


家に帰って私を出迎えたのはギルでもなくトニーさんでもなく、変態髭フランシスさんだった。


「あぁーお帰り名前ちゃん!!お疲れさん〜!もう晩ご飯できてんで」

「ただいまートニーさん。このオッサンと爺はいったい何なの?」

「おっさ…!!」

「今日は男塾の集会やってん!」

「だからその男塾って何ぃいいい!?」

「俺とフランシスとギルと菊が集まって男同士で語りあうねんで!」

「うわぁ…そんなむさ苦しい事を私の家で…」

「名前ちゃんも入るー?」

「色々ツッコミたい所があるんだけど第一に私女だからね、トニーさん」

「それぐらい知っとるわー!!もう名前ちゃんおもろいなぁ〜」


…なんだかどっと疲れた…。
自室で着替えを済ませてリビングに戻ってみると、テーブルの上に並べられた夕食の数々。
うーん…家に帰ったら暖かい食事があるって幸せだよねー…


「ぷはー!ビール美味すぎるぜ!!

「あ、ギルー私も飲みたい」

「はぁ?珍しいな…」

「たまにはね。沢山は飲めないからギルのちょっと頂戴」

「んー。全部飲むなよ」

「飲まねーっての」


ギルから缶ビールを受け取り二口程飲んでみる。
うーん、やっぱり私はビールよりチューハイとかの方が飲みやすいなぁ…


「ん。返す」

「もう良いのかよ?」

「うん。あんまり飲むと酔うし」

「弱すぎだろお前…。まぁここで酔われたら堪ったもんじゃねーしな!」

「名前ちゃん名前ちゃん。お兄さんの持ってきたワイン飲む?」

「なんか怪しいから遠慮しておきます」

「何も入ってないって!ちょーっとアルコール度数が高いだけで普通に美味しいワインだから!」

「あ、俺それ飲みたいわーフランシス」

「私もお願いします」


なんだか夕食が酒の席みたいになってきちゃったよ…
まぁいいや、気にせずトニーさんの手作り料理にをいただこう!!
本当にトニーさんの料理って美味しいよねー。
マジで嫁に来てくれないかなぁトニーさん。


「あれ、ビール飲まないの?ギル」

「ふぇ!?あ、いや、飲むぜ!!飲むに決まってんだろー!!」


さっきから缶ビールを両手に持ってじっと見つめたままのギルは挙動不審な態度を見せたかと思うと、一気にビールを飲み干した。


「間接キスですね、ギルベルトさん」

「ぶっ!!」

「か、間接キスぅううう!?」


本田さんの言葉にギルは咳き込む、トニーさんはワインを注いでいたグラスを握り潰した。


「トニーさん割れてる!!グラス割れてるぅうう!!!」

「ちょっ何間接キスて、なんやのそれ!?」

「名前さんが飲まれたビールをギルベルトさんが…いやはや、まるで中学生のような反応をするギルベルトさんが可愛くてつい言葉が漏れてしまいました。ふふふ、ナイスですギルベルトさん」

「間接キスっておいおいギルー…お前そんなのでいちいち反応してんの?お兄さんちょっと悲しいんだけど…」

「ばばばばば、馬鹿だろお前ら!!そ、そんなの一々気にしてるわけねーだろ!!こいつ相手じゃ尚更だぜ尚更!!」

「まぁ一緒に暮らしてるんだしそれぐらいの事はねぇ…。今まで気にした事もなかったよ」

「俺は嫌やで名前ちゃん!間接とは言えギルとそんな…!!そんな破廉恥な事親分は許しません!!」

「アフォだろアフォ!!そんな事一々気にするとかアレだぜ!?あー…えっと、とにかくアレだぜ!!!」

「落ち着けギルゥウ!!お前どんだけ同様してんだ!!どこの中二!?」

「ギルベルトさんったらあんなに顔を赤くして…。良いですねぇ、若いって」


何がなんだか…。
顔を真っ赤にさせたギルはケセセセと高笑いを始めるし、トニーさんは酒が入ってる事もあってか涙を浮かべて「なぁ名前ちゃん、間接でもキスやで!?そんなんあかんでぇ〜、あかんのやでぇ〜!!」と詰め寄ってくるし…
なんというか、このメンバーが揃うとろくな事が無い気がするのですが…。
とりあえずひたすら高笑いを続けるギルを殴って黙らせて、本格的に泣き始めるトニーさんをフランシスさんに任せて自分は夕食をとることにした。
隣で「名前さん、間接キスは青春のバイブルですよ!」と爽やかに親指を立てる本田さんを無視して料理を平らげた。

はぁ…なんだかどっと疲れた…


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