「お前さぁ」 「んー」 「いや、俺もこんな事言いたかないんだぜ?」 「何。言いたい事あるならはっきり言え」 「お前さぁ…」 「うん」 「太ったよな」 手に取った洗濯物が床に落ちた。 「え、今なんと?」 「太ったよなって」 「パードン?」 「ふーとーつーたーよーなぁあああ!!」 「でけぇ声で言うんじゃねーよ芋野郎ォォオオオ!!」 「ひでぶっ!!!!」 拾い上げた洗濯物を思いっきりギルの顔面に投げつける。 って、あれトニーさんのパンツ(トマト柄)だった…。 「うげぇえええ!!きったねぇええ!!」 「あ、ごめん」 「うわ、腐った!!俺の顔腐ったぁああ!!」 「そんなに汚いか…。はい、この籠の中に入れて」 「気色わりぃ…」 人差し指と親指で摘み上げたギルはポイと洗濯籠の中にパンツを放り投げた。 っていうか私が太ったって… うそ、別に太ってなんか… けど最近体重計に乗ってないしなぁ… そういえばここの所よく甘い物食べてたし、もしかして… いや、大丈夫だよね!!一応体重計に乗ってみるけどそんなに酷いものじゃ… 「……あれー?壊れてんのかなぁ」 「何体重計叩いてんだよ!?」 「ちょっ、ギル見ないで!!これはあれだよ、壊れてるの!!だっておかしいもん…こんなにも増えてるなんて…おかしすぎるぜぇええ!?」 「壊れてんのはお前の頭だぁあああ!!!正常だってのその体重計!!俺よく乗ってるし」 「うそーん。お願い、嘘だと言ってくれよギルバート君!!」 「まず落ち着け。いかれてんぞお前!」 「うがぁああああなんだよテメェはずっとゴロゴロしてるくせになんだよその腹はぁああああ!!」 「ぎゃぁああ!!さ、触るんじゃねぇえええ!!」 ギルのTシャツを捲くり上げて平べったいお腹をパンパンと叩く。 なんだなんだこいつ!!食っちゃ寝してるくせに肉ついてないじゃないか!! 私なんて毎日働いてるのに…これが男女の差ってやつなのか…!? もう嫌だ、ギルなんて中年のビール腹のようになってしまえ!!! 「ダイエットしなきゃなぁ…」 「別に良いんじゃねーの?少し肉ついてる方がいいと思うぜ!」 「だけど太っちゃったってのは抵抗ありますよ…。しばらくは甘い物を控えて、帰りは一駅前から歩いて帰ろう…」 この体重は少し厳しいよなぁ… ギルに言われるって事は見た目も太ったって事だよねー!!ああああもう最悪!! ―ピンポーン 「ふあぁーい…どなた」 「んだよその情けない声…」 「チッ…眉毛かよ」 「っておおおい!!どうしたお前!?」 「そいつ今すげぇ苛立ってっからやめとけ」 「はぁ?なんでだよ」 はてなマークを浮かべたアーサーに説明する気もなく大きくため息をついて自室に篭る。 ううう…自分で気付くならまだしも、他人に指摘されるってショックもでかいよなぁ…。 「おい」 「なーにアーサー」 「何悩んでんだよ」 ベッドに寝転がっている私を見下ろしたアーサーはゆっくりベッドの淵に腰掛けた。 「何でもないよ」 「ばぁか。困った時は頼れって言ってんだろ」 頼れと言われましても…。 これだけは自分自身の問題だしなぁ 「うーん」と唸ってアーサーを見上げると、ポンポンと頭を撫でられた。 「いや、言ったら絶対笑うって」 「笑わねーよ」 「絶対笑う。賭けてもいいよ」 「何賭けるんだよ」 「そうだねぇー。アーサーが笑う方にギルの一日所有権をプレゼントしよう」 「あいつはいらねーよ!!」 「じゃあ私」 「よし乗った!!!」 「じゃあアーサーが負けたらトニーさんに”お前ってよく見るとかっこいいよな”って言ってね」 「はぁああ!?ま、まぁいいか…。よし、言ってみろ」 ぐっと身構えたアーサー。 上半身を起こして、明後日の方向を見ながら小さく「太ったの」と呟けば、呆気にとられたような表情を見せた。 「あれ、笑わないんだ」 「笑うっつーか…お前そんな事で悩んでたのかよ!?」 「悪いか眉毛。そりゃアーサーは細くて良いよねぇー。何食ったらそんなに細くなるんだ!!えぇ!?私に教えろってんだよエロ眉毛ぇえええ!!」 「落ち着けってばかぁ!!べ、べつにどこも太ってねーじゃねえか!!」 「だってギルがお前太ったよなーって!!」 「見間違いだろ」 「何故断言できる?」 「そりゃお前…。お、俺はよく見てるし…お前の事」 「うわぁ…その言い方キモい」 「ば、ばかぁ!!」 「だけど実際に体重増えてるんだよ」 「それってお前…」 「何」 「便秘かなにかじゃないのか…?」 「ちょっ、便秘って…。…ん?」 「心当たりがあるんだろお前!!」 「いやぁ、そんなはずは…えーっと…」 「消化の悪いものばっか食ってるからだろバカァ!!ったく、これからはスコーンとか消化にいいものを食べる事だな。なんなら俺が作ったスコーン分けてやってもいいぜ…」 「全力で拒否する」 「なっ…」 便秘、だと…? 思い返してみれば昨日からそういった記憶が思いあたらない。 うわぁ、そんな、まさか便秘で体重が…? だけどギル私の顔見て「太った」って… 「本当に私太ってない?見た目的なところで」 「太ってないって言ってんだろ」 「まじでか」 「だから最初っから言ってんだろ。俺の言うこと少しは信じろよバカァ」 私の両頬を手の平で挟んで軽く押しつぶしたアーサー。 何がしたいのこの子。 思わず「うみゅ」と出た声にアーサーが笑い声をあげるもんだから、なんとなく腹が立った。 「まぁ一件落着で良かった。たく、ギルの奴いい加減な事言いやがって…」 「え、えっと…さっきの賭けの事なんだけどな」 「あぁ、一日所有権?」 「こ、今度の日曜って空いてるか?」 冗談のつもりだったんだけど…まぁいいか。 どうせ暇だしね 「空いてるよ。何かあるの?」 「実はピーターの奴が動物園つれてけって我が侭を言っててだな…。お前も一緒じゃなきゃ嫌だって駄々こてんだよ」 「なんだ。言ってくれれば良かったのに!私ピーター君大好きだし、私なんかで良ければご一緒させてもらいたいなぁー」 「い、良いのか?」 「もちろん!そうなったらギルは…」 「あいつは留守番させておけばいいだろ。っていうか置いていけあんなでかい荷物!!」 「でかい荷物って…」 まぁギルも一日ぐらい留守番してくれるよね。 そうと決まったら来週はピーター君と一緒に動物園を楽しまなきゃ!! 「安心したらお腹すいちゃった〜。確か冷蔵庫にプリンが…」 「うげっ、お前何冷蔵庫あさってんだよ!?マジデブになるぜお前…」 「くぉらギル!!私が太ったなんて嘘でしょ!!アーサーはちっとも太ってないって言ってるよ!!」 「はぁ?太ってんだろ明らかに!」 「具体的にどの辺が」 「ここ」 私の下腹を人差し指で指差したギル。 って、そこかい…!!! 「なんで服で見えないような場所に肉がついてきてるって知ってんだよお前!?」 「それは…えっと、だな!!べべべ、別にそういうのは無いぜ!!」 「き、昨日抱きついた時か!!」 「抱きついた!?こいつがお前にか!?」 「ちがっ!!この痴女が一方的に・・・!!」 「だれが痴女だ。そうか…お腹か・・・下腹が太ったのか…」 「おいこらプー太郎…ちょっと表出ろ。話がある」 「俺様は話なんてないぜ!!今からサザエさん見るから邪魔すんな!!」 「磯野家なんてどうでもいいんだよ馬鹿!!」 「どうでもいいだと!?波平に謝れよお前!!」 「誰が謝るか!!!」 「下腹…肉、太った…」 磯野家だとか波平だとか舟だとかで喧嘩をしている二人の間で、ひたすら下腹辺りを触って変化を確認している私。 最悪だ…。 やっぱりこれからしばらくカロリー控えなきゃなぁ…。 今流行のダイエット器具もいいかもしれない。 うん、同じ女性であるエリザに相談してみよう!!って言ってもエリザってスタイル良いし必要ないかもなぁ… 明日の仕事帰りにお店に寄って聞いてみよう…。 耳にキーンと響く二人の怒声。 ああもうこいつらは…!!! 「磯野だとか波平だとかタラオだとかごたごたうるせーんだよ。自力で黙らすぞお前ら」 「いや、元はと言えばお前が…!!」 「何か言ったかなぁギルベルト君」 「いえ何も」 . ←|→ |