「今日も一人楽しすぎるぜー!」


平日の真っ昼間。もちろんこの時間は名前は会社に行ってるし俺様一人!!
あー一人楽しすぎて笑いが止まらないぜー!
そろそろ腹減ってきたし昼飯食うか!!


「えーっと、今日の昼飯はチャーハンかよ…最近手抜きだぜあいつ」


あーなんか食う気しねぇなぁ〜…
他に何かないものかと冷蔵庫を漁ってみるものの、野菜や肉だけでそのまま食べられそうな物は無かった。
ちくしょう…
冷蔵庫を勢いよく閉じてキッチンをうろうろしていると、リビングから聞えてくる残酷な天使のテーゼ。俺の携帯の着信音だ。


「もしもし?」

『アロー!お兄さんだよ〜』

「んだよフランシスか。何か用か?」

『今何してる?どうせ暇なんだろー。ちょっと出てこないか?』

「はぁ?」

『知り合いの女の子がバーを開くらしくてさぁ。意見を聞きたいから友達連れて来いって言うんだよ〜。いくらでも酒飲ませてやるって言うからさ、お前も来いよ?』

「昼間っからそんな…いや、でもあいつにバレなきゃいいか…」

『そうそう!トニーは夜までバイトだろ?たまにはお兄さんと二人で飲もうよ〜プーちゃん』

「気色悪い呼び方すんな。今から行くから場所教えろよ」

『おっけー』


よっしゃ!タダ酒が飲める!!
あいつにはフランシスの家に遊びに行ってくるとでも言えば大丈夫だろ。
メールすんのめんどくせぇし書置きしておくか



―――




「トニーさーん」

「あ、名前ちゃん!仕事おつかれさーん」

「トニーさんもバイトお疲れ様。今日の晩ご飯はクリームシチューだよー」

「うわぁ〜めっちゃ楽しみやわぁ!な、なんかこういう会話って同棲してるって感じでええなぁ…」


トマトの箱を抱えたトニーさんは頬を染めてうへへと笑った。
うへへってトニーさん…!


「あ!!ごめん、俺今日いつもより遅くなりそうなんやぁ〜!」

「お仕事忙しいの?」

「今日だけ店長がミーティングする言うねん。だから一時間ぐらい遅くなる思うんや〜」

「そっか。了解しました!お仕事頑張ってねー!」

「名前ちゃんの為にも頑張るでー!!!」

「いや、トニーさんは自分の為に頑張って!!」


ただでさえ色々と生活が厳しいんだから!!
元のアパートに戻った後のトニーさんの生活が心配だ…

夕食の買い物を済ませいつものように玄関からリビングに向かって「ただいまー」と声を投げかける。
って、あれ…?返事が返ってこないなぁ
もしかしてギル寝ちゃってるとか…


「ギルー?」


居ない…。どこ行ったんだろう、あいつ


「あれ、書置き…?」


机の上に置いてある殴り書きしたような汚い字。
”フランシスんとこ行ってくる!”って、ギルはフランシスさんとこ遊びに行ったのか…珍しいじゃん。
まぁギルもたまには友達と遊んだ方が良いよね。
夕飯食べて帰るのかなぁ…
だとしたら今日は私一人の夕食か。
なんだか久しぶりだよなぁ


「…なんかギルが居ないと部屋が広く感じるのは気のせいだろうか…」


あいついつもソファーでゴロ寝してテレビ見ながら「うそくせー!」とかツッコミ入れてるし、鬱陶しい程存在感あるんだよなぁ。
ギルが居ないってなんだかちょっと変な感じ。


「さて、夕食の支度済ませるか」




―――



「だーかーらー。お前はあと一歩ってとこで引くからダメなんだよなぁ…。もういっその事押し倒しちゃえばこっちのもんだろ」

「うー…」

「名前ちゃんだって女なんだし?いくらドSで強いからって男の力には敵わないだろ。お前力つえーし。もうドサッと!!ガバッとやっちゃえよ!!」

「うー…」

「ダメだ、完全に潰れちゃってるよこの子…」


お前も酔ってんだろ、と言い返してやりたかったけど言葉が出なかった。
フランシスって酔うとやけに喋るんだよなぁ鬱陶しいぜ。
っていうか今何時だ…?この店地下だから外の様子わかんねーし…時計もねーし…


「おいフランシス…」

「んー?まだ飲むのか〜?次ウイスキーいっちゃう?」

「いや、そうじゃなくて」

「どんどん飲めよーギル。せっかくサラちゃんがご馳走してくれるって言ってんのにー。ねぇサラちゃん」

「えぇ」

「はぁはぁ綺麗だよなぁサラちゃんハァハァ」

「ウフフ。くたばれ髭!!!」

「え、ちょっ、酷くない?」

「それよりそちらのお兄さん大丈夫ですか…?随分飲んでらしたみたいですけど」

「あぁ、こいつは強いから大丈夫だって。なぁギル、まだまだいけるでしょ?」

「おいフランシス…今何時だ…?」

「えーっと、7時半だな。もう4時間も飲んでるよ俺ら」

「7時半…どらえもん終わってる…」

「どらえもんってお前…」

「7時半…あいつもう帰ってるじゃねーか。あいつ俺様が居ないから寂しがってるに決まってるぜ。あれだもんな、あいつ俺の事大好きだもんな、多分一番愛されてるし俺も愛してると思うぜなぁフランシス」

「ギルゥウウウ!?ちょっ、大丈夫かお前!?」

「俺帰るわ…」

「はぁ!?ったくお前は…足元フラフラじゃねーか…。しょうがないなぁ〜」


面倒くさそうに俺の肩を支えたフランシス。お互い酒くせぇ…
カウンターの奥に居るサラとか言う女に「また来るよ!」と投げキスをしたフランシスに支えられ店を出た。
夜の冷たい風が上気した頬に当たってなんだか気持ちが良い。
おぼつかない足取りで歩きタクシーに乗り込むとフランシスは適当に行き先を運転手に伝えた。


「お前大丈夫か〜?ボーっとしてるし相当酔ってるなぁ…」

「うー…」

「お前酔ったらそれしか言わなくなるもんなぁ…」

「お前だってべらべら喋りやがって…男のお喋りは嫌われるぜ」

「いや、お兄さんはいつでもモテモテだから!」


自分の武勇伝を語り始めるフランシスの声を子守唄代わりに、マンションにつくまで一眠りする事にした。
うわぁ、頭ぐるぐるする…
久しぶりに酔っ払った。
多分今あいつに会ったら理性保てないよな。いっその事フランシスの言うと通り押し倒してねちっこくキスして服脱がせて…。もうこの際胸が無いとかそういった事はどうだって良い、むしろあいつの体だったそんなコンプレックスさえも愛おしい。
ダメだ、頭ぐるぐるする。
ぐるぐるぐるぐる…


「うおえええええ」

「ぎゃぁあああ!!ちょっ、俺の膝の上はやめてギル!!ギルゥウウウウウ!!!!」



―――



「わざわざすみません…っていうか酸っぱいよフランシスさん。うわぁ、加齢臭…?」

「いや、ギルが吐いちゃって…近くの公園で降ろされるはギルは寝てるはで俺本当に汚れ役…」

「散々でしたね。気をつけてお帰りください」

「えぇー可哀想なお兄さんにご褒美のキスとかはー…ありませんよねーハハハハ」

「ええ。わざわざありがとうございました、フランシスさん。」

「どういたしまして。じゃあおやすみ、名前ちゃん」


フランシスさんにおやすみなさいと返し、玄関の鍵を閉める。
帰ってくるなりフランシスさんからギルをゴミを渡されるようにポイと投げられたのはつい数分前。
ったく、潰れるまで飲んで帰ってくるなんて何やってんだろこの野郎…


何とかギルの肩を支えてソファーの上に寝かせる。
コップに水を入れて机の上に置くと、目を覚ましたギルが「うー…」と唸った。


「おはようございますギルベルトさん…。ご機嫌如何かしら?」

「ここは…」

「私の家のリビングですがそれが何か?」

「あれ、俺タクシーに乗ってて…」

「あのさぁギル…。飲むなとは言わないけど酔いつぶれてフランシスさんにまで迷惑かけるのはどうかと思うよ。寝ゲロされたってフランシスさん泣いてたよ」

「気持ち悪い…」

「ったく…ほら、水飲んで」


水を受け取ったギルは喉を鳴らしてコップの中の水を飲み干した。


「夕食は…食べられないよね?」

「あぁー…」

「せっかくクリームシチュー作ったのになぁ…。まぁいいや。今日はもう寝なよ。なんなら私のベッド使う?」

「んー…」


だるそうに体を起こしたギルはまだ虚ろな目で私を見た…かと思った瞬間にギルの腕が私の腰に伸び、体を引き寄せられソファーの上に体を打ち付けられた。


「いったぁ〜…!!何すんだこの…!!ってどこ触ってんだコラァアアア!!!」

「小さいな…」

「はぁあああ!?死ね!!マジでお前死ねよ!!離せアフォォオオオ!!!」

「やだ」


どさくさに紛れにギルの手の平が私の胸に触れた。
どうせペチャパイだよこのボイン好きがぁあああ!!
離せと頭をぐいぐい押してみる物のびくともしない。
ちくしょう、最近こんなのばっかりだ。


「良い匂い…どこが一緒だよ、俺こんな甘い匂いしねーぜ」

「ちょっ、嗅ぐな!!酔ってるからって調子に乗るなよ馬鹿!!」

「眠い…」


ぼすっ

私のお腹に顔をうずめたギルはそのまま数秒もたたないうちに規則正しい寝息を立てた。
って、はぁあああ!?何がしたかったのこいつ…!!
いきなり腕引っ張ってソファーに押し倒して…。酔ってるから錯乱してたのかな…。
っていうか動けないんですけど…
しっかり私の体をホールドしたギルは今頃夢の国で芋とビールに囲まれたドリームな世界に旅立っているであろう。
本当になんなのこの子!ギル、母さんあんたが分からなくなってきたよ…!!

結局トニーさんが帰ってくるまでの数時間間、お腹の上で寝息をたてるギルを起こせず仕舞いの私はやっぱりギルに甘いのだと確信した。
「なんやこの状況はあぁああああ!!」と叫んだトニーさんと、大声に驚いてやってきたアーサーにギルがフルボッコにされたのは言うまでも無い。


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