「えぇー!?アントーニョ君が?名前の家に居るの〜?」

「そうなんだよねー。台風で屋根が吹っ飛んじゃったらしくて行くあてもないって言うから」

「えーいいなぁーずるいなぁー。僕の家の屋根も飛んでいけばいいのにー」

「え、イヴァンの家もボロかったりするの?」

「ううん。僕の家はずっごく丈夫だよ!沢山お金注ぎ込んだからね!」

「うわぁ、金持ちだ…」


仕事帰りを見計らったのように電話をかけてきたイヴァンは「どこかでケーキでも食べない?僕が奢るよー」と相変わらずの緩やかな口調で用件を伝えた。
二つ返事で「行く!」と答えた私はイヴァンの指定されたお店に急ぎ足で向かった。
やったーケーキ!!だけど晩ご飯食べられなくなっちゃうから控えめにしないとなぁ…


「やっほーイヴァン!」

「わーい久しぶり、名前。先に飲み物頼んじゃったんだけど、コーヒーで良かった?」

「大丈夫だよ。ありがとねー」

「どういたしまして」


ふふふと笑ったイヴァンは相変わらず癒し系だ。
だけどこんな蒸し熱い日にまでマフラーなんて暑くないんだろうか…
そういえばイヴァンがマフラー外してるとこって見たことないよね


「イヴァンってさ、いつもマフラーしてるけど暑くないの?」

「そうでもないよ。僕ってマフラー大好きだからずっとつけてないとなんだか落ち着かないんだー」

「すごっ…!!でも蒸れるよね!?」

「夏用があるから大丈夫だよ〜」

「夏用あるの!?クールビズ!?」

「だけどなかなか夏用のマフラーって気に入るやつがなくってさ。選ぶのも大変なんよね〜」

「ストール、はちょっと違うもんねー。手編みとかはダメなの?」

「手編み…?全然構わないけど…」

「じゃあ私が編んであげようか?アーサーが手芸とか得意だから教えてもらうよ!」

「いいの…?」

「いいの!イヴァンにはよくお世話になってるしね」

「ありがとう名前!ふふふ、やっぱり名前大好き」


頬をピンクに染めて笑うイヴァンの可愛さは犯罪だと思います。
運ばれてきたコーヒーと、沢山のケーキの中から数個を選びお皿に盛り付けてもらう。
うわぁ、美味しそうなケーキ…!!


「いっただきまーす!んーおいひいい!!」

「名前って幸せそうに食べるよねー」

「だって幸せじゃん食べてる時って!特に甘い物を食べてる時って格別幸せだなぁ」

「じゃあ僕は幸せそうな名前を見てるのが幸せかなぁ」

「またまたー。あ、でも私イヴァンの笑顔見てるだけで幸せになるよ」

「笑顔…?」

「うん。イヴァンの笑顔って心がぽかぽかしてくるんだよね」

「そっか…。それじゃあずっと笑顔で居なきゃね」

「うん!」


美味しいケーキにイヴァンの笑顔。なんて素敵な組み合わせなんだろう…!!


「そういえば…前にアーサー君の弟に会ったよね?あの時何のお話してたのかなぁ」

「アルフレッド君?彼大学で映画作るサークル入ってるからアイディアをちょっとね」

「随分名前に懐いてるみたいだよねー彼って」

「そう?まぁ色々あって大変だったけどね…」

「色々って…?」

「ううん、なんでもなーい」


それからケーキを食べながらギルの事やイヴァンの妹さんの話を聞いて楽しい時間を過ごした。
帰りはわざわざマンションの前まで車で送ってもらっちゃった…
何時も思うんだけど、トーリス君って運転手さんだよね…?私とイヴァンが楽しくお喋りしている間も車の中で待っててくれてるのかなぁ…
うーん、なんだかすっごく申し訳ない…!!
今度会った時ちゃんとお礼とお詫びしなきゃね


「ただいまー」

「遅かったじゃねーか」

「ちょっとイヴァンとお喋りしてたら遅くなっちゃったー。はいこれ、お土産のケーキ」

「うおー!美味そう!!俺ショートケーキな」

「ダメだよショートケーキは私のなんだから!」

「お前食ってきたんだろ!?」

「お店で食べたのはショートケーキじゃなくてミルフィーユだったの。ギルはモンブランでいいじゃん」

「いーやショートケーキだ!苺が乗って無いのは嫌だ!」

「小学生かお前!!じゃあ苺あげるからモンブランの栗と交換してよ」

「それはできねー相談だぜ。両方俺様がいただく!」

「どこのジャイアン!?トニーさんが帰ってきたらジャンケンで決めましょうじゃんけんで!」

「その前に食ってやるぜー!」

「ダメ。絶対だめ。指一本でも触れたら殺す」

「ケチケチ女…」

「…何か言ったかしらギルベルトさん?」

「いえ何も」


ったく、我が侭だなぁギルは…
さて!夕食の準備しちゃおう!!


―ピンポーン


「あ。アーサーかな。今手が離せないからギル行ってきてー」

「めんどくせぇ。俺だって今テレビから目ぇ離せねーんだよ」

「いいから行け。ビール抜くよ?」

「ちっ…」


面倒くさそうに腰を上げたギルはあくびをしながら玄関へ向かっていく。
ったくだらしないなぁ…


「どうせ眉毛だろ…。はいはいどな…た…」

「こここれはあれだからな!!お前の為に買って来たとかそんなんじゃなくてだな…!!たまたま花屋で綺麗に咲いてたからきまぐれに買っただけで、別に花言葉とか気にしてるわけじゃ…!!!」

「…薔薇…っておいおいおい!!俺にそんな趣味はねぇえええ!!!」

「って、お前かよ!?んだよ花束で前見えないんだよ!!間際らしいなこのプー太郎!!」

「あぁ?こんな花束抱えて王子様気取りかよ。何の王子だ、眉毛の星か」

「芋の国の王子に言われたくねーぜ。名前はどうした」

「今手が離せないんだとさ」

「そうか…。それじゃあ勝手にあがらせてもらうぞ」

「ちょーっと待て!」

「んだよ」

「その薔薇…どうするつもりだよ」

「どうって…。ま、まぁ俺がこんなに持ってても勿体無いしな!あいつにプレゼントしようかと…」

「そうか。じゃあそれを捨ててから中に入る事だな!!」

「あぁ?なにぬかしてんだよ沈めんぞテメェ」

「くせーんだよプンプン匂ってきて!!!」

「薔薇の香りは世界一だぜ!?これだから違いの分からない奴は…」

「何が世界一だよマジで芳香剤の匂いだぜー!」

「あぁん?んだよやけに絡んできやがって。そんなに一人は寂しいか?今すぐお星様の所に連れてってやるからじっとしてろよ」

「コラ!!何喧嘩してんの二人とも!!」

「この眉毛が俺に死ねって言うんだぜ!!」

「馬鹿、お前ずるいぞ!!」

「って何なのこの薔薇の花束は…」

「こ、これはたまたま花屋で綺麗に咲いてたから…」

「だからってこんなに沢山買ってこなくても…。安い物でもないだろうに」

「良いんだよこれぐらい。やるって言ってんだから受け取れよ馬鹿ぁ!」

「はいはい。ありがとねーアーサー」


意外と重い薔薇の花束をアーサーから受け取る。
こんなに沢山…きっとすごい額だろうなぁ。薔薇ってすっごく高いし…


「薔薇ってアーサーの匂いだよね」

「え…?」

「なんかアーサーって薔薇っぽい匂いがしない?香水とか使ってる?」

「ほんの少しな。分かるのか…?」

「分かるよ。ふんわり花みたいな匂いがするもん」


アーサーって薔薇好きだもんねー。
まぁ私も薔薇は大好きだなぁ。育てるのに手間もかかるし手入れも大変だけどすっごく綺麗だし。この匂いも大好きだなぁ


「お前は香水とかつけてるのか?」

「持ってるけど使ってないなぁ。なにか匂う?なに、加齢臭!?」

「どんだけ早い加齢だ!なんていうか、甘いような匂いがする気がするんだが…」

「シャンプーかなぁ。だったらギルも同じ匂いだね」

「まぁシャンプーもボディーソープも一緒だしな」

「なっ…!!」


顔を引きつらせたアーサーはその場で固まった。
うん。いつもの事だし放っておこう。
それにしても、匂いって人それぞれだよねー。
トニーさんはお日様みたいな匂いがするし、フランシスさんはやたら女物の香水臭いし。本田さんはなんだかお母さんみたいな匂いがする。たまにインクのような匂いもするんだけど…
スーさんはなんだか落ち着く匂い。ティノ君は…いつもは普通なんだけどたまに複雑な匂いがするんだよね…。多分あれって彼が作った料理の匂いが服に染みこんじゃったんだと思う。
エリザは甘いお菓子みたいな匂いがするし、アルフレッド君はコーヒーの匂い。
本当に人それぞれだよねー。
そういやギルの匂いって意識したことなかったなぁ…


「ギルーちょっとじっとしててね」

「んだよ」

「いいからいいから」

「はぁ?いったい何す、」


ギルの首元に顔を近づけてスンスンと匂ってみると、甘いピーチの香り。
あ、これは家のシャンプーの匂いだ。


「やっぱギルは私と同じか。だったら今のトニーさんも同じだろうねー」

「って、何やってんだよお前!!!離れろぉおお!!」

「うわああ!!何!?何すんのアーサー!!」


後からアーサーに羽交い絞めにされるように引き寄せられる。
何がしたいんだこの眉毛ぇええ!!
ギルに助けを求めようと視線を送ってみると、口をぽかんと開けたまま固まっているギルの姿があった。
…うわぁ、マヌケ面…。
その後何度名前を読んでも固まったままのギルを放っておいてアーサーの二人で夕食をすませた。
トニーさんが帰ってくる少し前に動き出したギルは「お前…なぁ…!!」と顔を真っ赤にさせて泣きそうな顔で迫ってきた。
よく分かんないけど必死で可愛そうだったので、冷蔵庫からショートケーキを取り出し与え、頭をぐりぐり撫でてあげると機嫌を取り戻したようだった。
どんだけ単純なのこの子…!!!


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