「それで、何か言う事は…?」

「ごめんなさいでした」

「そんな可愛く言っても許しませんよ。なんですかその上目遣いは!!今私が怒っていなかったら激写しているところですよ!!なんですか、なんなんですかその上目遣いは!!」


―パシャッパシャッ


現在私は本田さん宅にお邪魔しております。
それも先日の文化祭での一件についてのお説教。どうやらギルから事情を聞き出したらしい本田さんは私を呼び出すなり「ちょっとここに座りなさい」と畳を指差した。
「まだ未熟な若者とは言え男性に唇を簡単に奪われるとはなんという事!何時もなら萌えと言いたいところですが今回は兄として言わせていただきますよ!」
仁王立ちしている本田さんさからお怒りのお言葉をつらつらと述べられています。
っていうか本田さん、フラッシュが眩しいです。


「もう!!どうしてこんな所にカメラがあるんですか!!つい癖で手が伸びてしまったじゃないですか!!」

「プスプス怒らないでくださいよ…。それは私が本田さんにお返ししたものです」

「ったく貴方という人は…保護者として情けなくなりますよ」

「返す言葉もございませんよーだ」

「なんですかその反抗的な態度は。私を怒らせると酷い目にあいますよ?」

「よーく知ってますよドSジジイ」

「調子にのってると本気で泣かせますよこんガキゃぁ」


正座で麻痺してきた足の違和感を必死に抑えて本田さんを睨み上げる。
こう見えて本田さんって怒るとすっごく怖い。無言で制圧されるから性質が悪い。
だけど私も負けていられないと言わんばかりに鋭い眼差しを本田さんに向ける。


「ったく…貴方には負けますよ。ギルベルトさんからも注意を受けたそうですし今日のところはこれで許して差し上げます」

「やったー!あー足痛いー。絶対痺れきますよ」

「足の痺れですと…!?それは是非ビデオカメラに収めておかないと!!!痺れに悶える姿はお宝映像です!!」


バタバタと廊下を走ってゆく本田さん。
いつかの奥ゆかしい本田菊はどこに行ったんだ…


「きゅーん」

「あ、ぽちくん。ごめんね、本田さんが怖かった?あの人怒ると本当に怖いんだよー」

「きゅん」

「ぽちくんは良い子だから大丈夫だよね」

「わん!」

「うはーかわいいなぁ〜…って、ひぎゃぁあああ!!」


きたきたきたー!!足が痺れてきたよぉおおお!!
こ、こういう時は動かずじっと痺れが治まるのを待つしか…


「わん!!」

「ってダメダメダメぽちくんこっち来ちゃらめぇええええ!!うぎゃぁあああ!!」

「クーン」

「お願い足の上に乗らないで歩かないで嫌ぁあああ!!」

「どうしたんですか名前さん!?って…」

「ほ、本田さん!!足がしびっ…!!ぽちくんが…!!」

「犬 プ レ イ !!!!」

「死ねよジジィイイイイイ!!!」

「いいです!!いいですよポチくぅううううん!!!さすが私の愛犬です!!さぁもっと名前さんの足をその肉球でにぎにぎしてあげてください!!あぁっなんて素敵な展開なんでしょぉおおう!!むしろポチくんになりてええええ!!!」


はぁはぁと息の荒い本田さんが本格的なビデオカメラを構えて迫ってくる。
何このカオス…!!!
私が苛められているのかと勘違いしたのか、ポチくんが私の足から降りて本田さんに「わん!」と吼えた。
ぽ、ぽちくん…!!


「おやおや…ぽちくんにそう言われてしまったら仕方がありませんねぇ」

「わんわん!」

「だけど名前さんが頬を染めて涙目になりながら悶えてるなんてレアなんですよ?」

「きゅーん」

「なんですかポチくん、いつから名前さんの味方になったんですか?流石は私の愛犬…」

「犬と会話を成り立たせないでください!!」

「いやぁ、長く生きてるとこれぐらいできちゃうもんですよ、名前さん」

「あんたは仙人か!!」

「いえ、仙人キャラは他におられますので」

「はぁ?」

「おっと、余計な事を口走ってしまいましたね。さて、時間も時間ですしそろそろお帰りになられた方がよろしいですね。部屋の前まで送っていきます」

「いいですよー晩ご飯はトニーさんが作ってくれてますし。それに近所なのにわざわざ送ってくださらなくても大丈夫です」

「近所と言えど夜道は危険です。何かあってからでは遅いですからね。送らせてください」

「分かりました。でもまだ足痺れてるんでもう少し…」

「…触ってもいいでs「自重しろよ」…チッ」


わー…本田さんが舌打ちしちゃったよ…。
本当に昔の奥ゆかしく慎ましい本田さんの影が見るも無残な姿に…


「ぽちくんは大人しくお留守番していてくださいね」

「わん」

「よし!もう痺れ治まりました〜」

「それでは参りましょうか」

「はい!それじゃあまたね、ぽちくん」

「わん!」


ふわふわとした毛を流れに沿って撫でると目を閉じて気持ち良さそうに尻尾を振るぽちくん。
名残惜しいなぁ…


「名前さん、行きますよ」

「はい。ばいばいぽちくん」

「きゅーん」

「ああもうそんな声で鳴かないで!!別れが辛くなる…!!」

「名前さん?」

「はーい…」


ううう…また今度一緒に散歩しようねぽちくん…!!!
数メートル先に居る本田さんの元へ駆け足で向かい「ぽちくん…」と呟くと「本当にかわいいものが好きですねぇ」と呟かれた。
本田さんの家から私のマンションまでの距離は歩いて約5分。
わざわざ送ってくれなくても平気な距離なんだけど、本田さんはいつも部屋の前まで送ってくれるんだよね。
私も本田さんに甘えちゃう部分って多いから、つい毎度こんな場所まで送っていただいているんだけど…


「ただいまー!」

「おかえり〜名前ちゃん。菊に何説教されてたん?」

「まぁ色々あってねー」

「保護者として名前さんにご指導を」

「なんや名前ちゃんと菊ってほんまの兄妹みたいやんなぁ」

「いや、爺孫でしょ」

「名前さんが孫だったら小さな頃から手塩にかけて私好みの萌えーな少女に育てておりますよ。いいですねぇ、孫…!!」

「孫の前にまず結婚を考えてくださいよ本田さん。いい加減嫁さんもらわないと老後は一人で余生をすごさなきゃならなくなりますよ?」

「大丈夫ですよ。私には名前さんがおりますから」

「うわーなにその自身」


愛されてんなぁーと嬉しそうに微笑んだトニーさんの言葉になんだか照れくさくなった。


「それじゃあ私はこの辺でおいとまさせていただきますね」

「ご飯食べていかんの〜?」

「家でぽちくんが待っていますので。それでじゃおじゃましました」

「お説教ありがとうございますー」

「こちらこそご馳走様でした」

「写真か!ビデオか!!」

「さぁ!家に帰って編集編集!!」

「私の写真と映像で何する気ですかアンタァアアア!!!」

「ふふふ。それは出来てからのお楽しみというものですよ。それでは失礼いたします」

「本田さん…!!!」


ああもうやっぱあの人最悪だ!!
今度会った時今度は私が説教してやる…!!






「兄妹、ですか…。さて、どうしたものでしょうかねぇ…」




―――




「お風呂あがったよー」

「んじゃ次おれ入ってくるな〜。あ、冷蔵庫にスイカ切って入れてあんで!売れ残りやけど今日タダでもらってきてん」

「やったー。でもトニーさんがお風呂から出てくるまで待ってるね」

「名前ちゃん…!!よっしゃ!!親分ソニックで風呂入ってくるさかいなぁああ!!」

「ゆっくり入ってきていいからね〜」


どどどど、と廊下を走る音が聞えたかと思うと、ドスッと低い音が床に響いた。
あ、今トニーさん転んだな…


「何はしゃいでんだよあいつ…」

「そういうあんたは何ビール飲んでスカしかてんの」

「っていうかそろそろトニーんとこの屋根の修理も終わってんじゃねーのか?長すぎんだろマジで!

「まだ一週間とちょっとしかたってないじゃん。いくらサディクさんのとこの大工さんの腕がいいからってそんなに早くはできないでしょー。お忙しい所無理言ってお願いしたのに」

「うげぇ…。あいつが入ると俺様の一人の時間が減っておちつかねーんだよな」

「だめだよーそんな事言っちゃ。友達は大事にしないと。ただでさえ敵多いんだからギルは。てゆーか友達フランシスさんとトニーさんと本田さん以外に居ないでしょ」

「うるせぇええ!!あー一人楽しすぎるぜー!!」

「…」

「んだよその目は!!可哀想なものを見る目で見るなよ!!」


そういえばギル自身の交友関係って、フランシスさんとトニーさんとエリザぐらいしか知らないよね…。
本当に友達、居ないのかなぁ…
まぁ我が侭でナルシストで苛めっ子で高笑いの耐えない不憫な子だけど根は良いやつなのになぁ。
ギルにちゃんとしたお友達を作ってあげないと…。シー君とかいいかもね。うん、そうしよう!
また今度アーサーに頼み込んでシー君に遊びに来てもらおう。
きっとギルも喜ぶよね!


「ギル、友達ってちゃんと大事にしなきゃいけないよ?」

「だから何なんだよその輝かしい目は…!!!」

「ピーター君連れてきてもらうからね。これでギルも安心安心!」

「なんの安心だよ!?わけわかんねぇえー!!」

「題して”おともだちを作ろうの会”!」

「やめろドアホォオオ!!」


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