「ねぇギルー…なんか怒ってんの?」 「…」 いつものように仕事から帰ってみると、ソファーに寝転がったギルの姿があった。 昨日からギルの様子がおかしい。 ご飯も食べないでずっと寝ている…いや、寝転がって何も喋らない。 考えられる理由は一つ… 「私とアルフレッド君のキス見るのそんなに嫌だったんだ…」 「んなんじゃねーし…」 そりゃ知り合いのキスシーンなんて見たくないよなぁ。ましてや私は身内みたいなもんだし。 もし私がギルと誰かがキスしてるとこ見ちゃったら…。うん、苛立ちとなんとも言えない複雑な気持ちで一杯だろう。 「はぁ…アーサーの次はギルか…」 「…なんであの眉毛なんだよ」 「昨日の朝もアーサーが廃人みたいになっててさぁ。まぁなんとか何時ものアーサーに戻ったけど。ズボン履いて無いし頭ボサボサだしビックリしたよ」 「どうやって元に戻ったんだ?」 「頼りにしてるよーって言ってハグ。本田さんに現場を写真に収められてしまったけど」 「…」 私に背を向けて横になったままのギルはまた何も言わなくなった。 「ねぇギル…なんか怒ってるの?」 「…」 「ギルとアーサー二人っきりにしてアルフレッド君と行っちゃったから怒ってんの?だったらごめん。謝るよ」 何も反応が返ってこない。ちくしょう、なんだよこの野郎。 少しぐらい何か言ってくれてもいいじゃないか。 ギルに本気で無視されたのなんて始めてだから少しショックだった。 あぁ、なんでこんな事になるかなあぁ… アルフレッド君とデートしてキスされて、更にアイス君にもされちゃって。 私ってちょっとガードが弱すぎるんだろうか…。普通の人にはそんな事ないんだろうけど、やっぱり年下が相手になるとどうも甘くなっちゃうというか… ギルもよく「無防備すぎんだよ!」って怒ってるしなぁ…。うん、やっぱり今回の事は私に責任がある。 いつもギルに忠告されてんのに注意していなかった私の責任だ。 「あのね、ギル…。ごめんね。私年下の子が相手になるとどうも甘くて…。ギルがいつも注意してくれてるのに。だから本当にごめん。これからはちゃんと気をつけるから」 「そんなんで怒ってんじゃねーよ…」 「は…?」 だったら何!?アイス君のメイド姿を写真に撮りまくった事!? 「お前は」 「うん」 「あいつに、キスされた時」 「さてた時?」 「なにも感じなかったのかよ」 「何もって…?」 「ドキドキしたり、とか」 「ドキドキ…?ドキドキというよりビックリした方が大きかったかなぁ…。呆気にとられてたし」 「じゃあアイスの時は?」 「同じ。驚きが前に出ちゃってて何も考えられなかったし」 「じゃあこれはどうだよ」 ギルが起き上がったかと思うと、ゆっくりギルの顔が近づいてきてぶつかりそうなぐらい至近距離に顔を寄せた。 視界が、ギルでいっぱいになる。 「いや、近いです」 「ドキドキは?」 「なんか別の意味のドキドキな気がするんですが…冷や汗出てきたよ」 恥ずかしいやらビックリしたやら、何がなんだか分からない。 ギルはいったい何がしたいって言うんだ。 そうかと思うと、ギルの手が私の手首を掴んで、そっと自分の胸に手の平を添わせた。 「…胸触らせて何すんの…いやらしい」 「ちげーよドアホ!!」 あ、いつものギルだ。 至近距離にあるギルの顔がだんだんと頬が赤く染まっていき、薄っすらと目に浮かぶ涙。 そして手の平から伝わってくるギルの心臓は、ドクンドクンドクンと通常より早い脈を打っていた。 「すっごく早いね、ギルの心臓」 「だろ」 なんなんだろう、これ… ギルの音が私に伝わってきて、私の心臓も速さを増してきた気がする。 なんでかなぁ、ギルの顔見てらんない。 だめだ、これ、なんか変…!! 「ちょっ、ギル、もう少し離れて!!」 「なんでだよ」 「何でって、近すぎるんだよお前ぇええ!!」 「お前だってよくこんぐらいの距離で話かけてくんじゃねーか」 「嘘!?こんなに近くないって私は!!」 「いーや近い。すんげぇ近い」 離れようとしても背中に手を回されていて動けない。 顔を反らそうとしてもガードされてしまう。 あぁ近い。ものすごく近い 心臓が煩い。ギルの音か、私の音かも分からない。 「えっと…あの、ごめんなさい」 うん。どうしたらいいか分かんないからとりあえず謝っておこう。 「もうキスなんてされんじゃねーぞ。絶対にな!」 「あ、はい、ごめんなさい」 「あと眉毛に優しくするな。つけあがるからなあいつ」 「了解です…」 「トニーにも同じだかんな。あと男を軽く見てるとマジで取り返しのつかない事になるって事肝に銘じておけ」 「う、うん」 小さく返事を返すと背中にあった腕が外され、そっとギルの体が離れていった。 うわぁ、驚いた…。 驚いた、けどなんだろう。あの変な感じ。 普段あんな風にギルに怒られたことなかったからかなぁ… なんにせよあんなのはもうごめんだ。心臓がもたない。 「飯!!」 「って…なに、急に…!!」 「昨日から何も食ってねーんだよ!飯とビールとヴルスト持ってこい!!あと今すぐ風呂入りたいからお湯張っておけよ!」 「なんでそんなに偉そうなわけ…?腹立つなぁ…」 ブツブツ文句を言いつつもそそくさとキッチンに立ち冷蔵庫からビールや食材などを取り出し調理を始める。 ってゆーか結局なんでギルが拗ねてたか分からずじまいなんですが… やっぱり私が無防備だから? でも違う!みたいな事言ってたしなぁ… やっぱりギルの事は理解できない事だらけだ。 「風呂ー!」 「自分でやれや」 「誰のせいでこうなったと思ってんだ!!」 「はぁ?一日中家に居るくせして何大口叩いてんだよヒモが」 「あぁーん?誰に口利いてんだよ!!俺様だぜ俺様!!」 「よーしじっとしてろよ、この噴かしたじゃが芋体の穴と言う穴に詰めこんでやっから」 「は!?ちょっと待てよ!!それだけは勘弁マジで!!」 「はーいまずはお口ね。あーんして?」 「ふぇ…あ、あーん…?」 「たらふく食えよプー太郎!!!」 「もがっ!!ふほっふぅううう!!!ふにゃぁああああ!!!!」 噴かしたての熱々じゃが芋を丸ごと口の中にねじ込む。 涙を流すギルを見て「あぁ、やっぱりいつものギルが良いやー」なんて思ったりして。 涙を流しているギルが面白くてこみ上げてきた笑いが爆発した。 「ふひははっへんはぁああ!!」 「ぶはっ!!だめ、キモ可愛いってその顔!!ちょっと待っててね、本田さんに一眼レフまだ返してないから撮っておくよ!!はーいギルちゃんこっち向いてー」 「ふぅううううううう!!!!」 やっぱりギルは不憫なぐらいが丁度いいんだよね!! だけどギルに注意された事はちゃんと守っておこう。さっきみたいなギルって、なんだかギルじゃないみたいで嫌だもんね。 よく肝に銘じておくことにします。 「さて、晩ご飯晩ご飯!!!」 「ただいま〜名前ちゃん!」 「あ、トニーさんお帰りー!」 「今日はバイト早く終わってん〜!晩ご飯の準備手伝うで」 「いいよ、トニーさん疲れてるんだし。ソファーに座ってテレビでも見てて?」 「名前ちゃん…!!」 「って、全く分かってねーじゃねぇかお前ぇえええ!!」 「何怒ってんねんギル。うっざ〜!」 「あ、じゃが芋取り出したんだ。もったいない…」 「名前ちゃん、お皿だけでも出しててええか〜?」 「ああもうトニーさんは休んでてってば!!ギルにやらせるからトニーさんは良いの!」 「でも俺名前ちゃんに迷惑かけたぁないねん…。名前ちゃんも仕事で疲れてんのに料理したり家事こなしたりで大変やろ?お世話になっとる以上協力したいねん。そ、それに一緒ににやってた方がなんか夫婦みたいで…あかん、自分で言ってて照れてきた!!」 「トニーさん…」 「だらぁあああ!!お前らなぁあああ!!! . ←|→ |