「ここだね…」 「メイド喫茶みたいだな!」 「メイド喫茶かぁ…アイス君は裏方の方かな…?」 カメラを構えて恐る恐る教室の中に入る。 「お帰りなさいませご主人様、なんだぜ!!」 「あれ…この口調は…」 「あ!!名前なんだぜぇえええ!!!」 「た、確かヨンス君…だよね!?この学校だったの!?てゆーかこのクラスの子!?」 「ウリナラマンセェエエ!!!名前が来たんだぜぇ!!またおっぱい揉んじゃうんだぜ!!貧乳の起源は俺!!」 「うああぁあ!!ちょっとヨンスくぅううん!!そんなとこ触ったって何も出ないから!!!」 「ゆくゆく子供を産めば出るんだぜ!!」 「こらぁああああああ!!!!」 くるくると私の行く手を阻むヨンス君。 いや、メイド姿で迫ってこられると余計に怖いよ!!! 「君、俺の名前に何しようとしてるんだい…?」 「う…!!あ、アルフレッドさん、なんだぜ…!?」 「え!?二人って知り合いなの!?」 「知らないよこんな奴!!こっちが聞きたいよ!!なんでこんな奴と君は知り合いなんだい!?」 「いやぁ、行きつけのお店の子っていうか…」 「あああ、アルフレッドさんいらっしゃいませなんだぜ!今すぐケーキ持ってきますからお待ちくださいなんだぜぇええ!!アイゴアァアアア!!!」 「特大サイズで頼むよ」 アルフレッド君、彼になにかしたのだろうか…。 それにしてもヨンス君もこの学校だったなんてなぁ。偶然、にしては凄すぎるような… そうだ!そんな事よりアイス君だよ!!どこに居るのかなぁ… 「お待たせしましたなんだぜ!」 「ねぇヨンス君、アイス君は居ないのかな?」 「あいす…?あぁ、あいつなら今休憩中なんだぜ!」 「そっか、じゃあ休憩終わったら呼んできてもらえる?」 「分かりました、なんだぜ!」 ニカッと笑ったヨンス君は無邪気に「また揉ませるんだぜー!」と手を振って去って行った。 元気だなぁー…。行動があれだけどすっごく良い子だ。 メイド服は似合ってないけど。 「ったく…本当に君は知り合いが多いなぁ…」 「そうかな。そういえば最近知り合いの知り合いで友達になっていくパターンが多いような…」 「君を中心にネットワークができてる気さえするよ。あ、そのケーキ食べても良いかい!?」 「いいよー」 「あ、苺は君にあげるよ!俺からのプレゼントさ!」 「ははは、ありがとう」 「あーんして?」 「はいはい。あーん」 「美味しいかい!?」 「おいひいよー」 「そうか!」 まぁ嬉しそうに笑っちゃって… 本当に若いって良いもんだなぁ。こんなに無邪気に笑えるなんて、羨ましい。 「あ、名前。ここにクリームついてるぞ?」 「え、どこー?」 「こっち」 ちゅっ 「うひゃっ」 「HAHAHA!顔真っ赤だぞー名前!」 「そういうアルフレッド君も顔赤いじゃん…」 「おっ俺はヒーローだからそんな事ないぞ!」 なんだこれ、ほっぺについたクリームをキスで取ってって、どこかにB級少女マンガですか…!! ったく、恥ずかしいなぁ〜… 知り合いに見られなくて良かっ、 「…」 「あ、アイス君!?」 なにやら視線を感じ、横に視線を送ってみると至近距離にアイス君が居た。 い、いつの間に…!! 「こっち、向いて」 「だれだい?その子」 「あっ、この子がアイス君で…って、アイス君アイス君!!首捻っちゃうから無理矢理力入れないでぇえ!!」 アルフレッド君に視線をおくろうとすると、無理矢理私の両頬を掴んでがっちり固定するアイス君。 痛いと訴えると、いつもの調子でマイペースなアイス君は「そう」と答えて私の頬をごしごしとエプロンで擦った。 ちょっと痛いよ、アイス君・・・ 「綺麗になった」 「綺麗になったって…。ったく、この子はいきなり何がしたいんだろうねぇ…」 「ばばくさい」 「うっ…今のグサッときたよ、ぐさっと…」 「嘘、ごめん。可愛いよ、名前は」 「あ、アイス君…!!」 なんなのこの子可愛いすぎ!! 今日の衣装もフリフリしてて…って… 「ええええ!?ちょっとその衣装…!!」 「なんか無理矢理着させられた、メイド服」 「き、きゃぁあああ可愛いぃいい!!こっち!こっち向いてアイス君!写真撮ってもいいよね?うあぁあ似合ってるよ可愛いよ似合いすぎだよアイスくーん!!!にっこり笑って〜!」 「名前、菊みたいになってるぞ…」 「ハッ…!ご、ごめん。つい…」 「そのカメラ菊の生霊でも憑いてるんじゃないのかい?」 「やめてよ。シャレになんない」 本田さんの魂ならカメラぐらいならすぐ乗り移れそうだ 「で、その子はいったい誰なんだい?男、だよね」 「ったく機嫌悪いなぁアルフレッド君…。この子は私の上司の親戚の子でね。社員旅行の時に知り合って、今でも仲良くしてるんだよ!ねーアイス君」 「え…?」 「え…っておいおい!違うの!?私の勘違いなの!?」 うわああ、今私のハートが砕け散ったよ…!! こんな可愛いアイス君にそんなそぶりをされちゃうなんて… 「ひ、酷いよアイス君…」 「嘘」 「え、嘘なの?」 「嘘」 「えっ?嘘ってのが嘘なの?それともただの嘘?」 「ああもうこんがらがってきたんだぞ!!!名前、さっさとここ出て他の店見に行こうよ!!」 「でもまだアイス君の写真が…」 「今充分撮ってたじゃないか!行くぞ!!」 「うーん…。そういう事だから、メイド頑張ってねアイス君!」 「…」 ぐいぐい私の腕を引っ張って廊下を歩くアルフレッド君。 あーあ。もう少しアイス君のメイド姿を堪能したかったなぁ…。って、ダメじゃん私!!完全に本田さん入ってたよ今の発言は!! やっぱりこのカメラには何か本田さんの呪いが… 「なにブツブツ言ってるんだい?」 「え、何も…」 「ったく…君は本当に知り合いが多すぎるんだぞ。どこに言っても名前名前って!今は俺と一緒に居るんだから俺の事だけ考えててくれよ!!」 「あ、うん。ごめんなさい」 「ったく…。そんな顔されちゃ調子が狂うじゃないか。名前は笑ってくれればそれで良いんだぞ」 あ、なんだか今アルフレッド君が男に見えた。 腕を掴んでいた手で私の手に指をからめてギュッと握る。 チラリとアルフレッドくんの顔を覗くと、頬を赤く染めていた。 なんだか今日のアルフレッド君はいつもと違うような気がするよなぁ… いつもはもっとこう、パワフルで誰の言う事も聞かないようなKYな子なのに… 「ねぇアルフレッド君、何かあったの?」 「何かって、なんだい?」 「だって朝からいつもと様子が違うというか…なんとなくだけど」 「そ、そんな事ないんだぞ!」 「あるって。マシュー君と喧嘩でもしたの?」 「なんでマシューの名前が出てくるんだい。関係ないよ、マシューは」 「じゃあなんで」 何かのイベントで大いに賑っているメインステージの裏。 空き箱の上に腰をおろしたアルフレッド君は、小さく「ごめん」と呟いた。 「ごめん…」 「なんであやまんの」 「俺って強引で…今日は名前に一杯迷惑かけたじゃないか」 「迷惑なんてかけてないじゃない。そんな事ちっとも考えてないよ」 「俺…去年までここの学校に居て文化祭はイベントの司会とか執行委員とかで大忙しでね。ちゃんと文化祭を楽しんだことって無かったんだよ」 そういえばそんな事言ってたような… 「そ、それで…。ずっと思ってたんだよ。文化祭を見回るなら、好きな子と一緒が良いってね!」 「好きな子、居たの?」 「最近まで居なかったよ。そりゃあ俺はヒーローだからモテモテなんだぞ?だけどどの子にも運命を感じなかったのさ。女友達だって居るけど、そんなんじゃないしさ」 「それで、どうして私…」 「ああもう鈍いな!!ちっとも俺の気持ちに気付いてないじゃないか君は!!もぉおお!」 「ああ拗ねないで!!大人げないよー?」 「どうせ俺の事大人扱いしてないだろ、名前は!もう怒った!怒ったんだからなー俺は!!」 そういうとこが子供だと思うのですが…なんて言えるわけも無く、ただプスプス怒っているアルフレッド君の頭をポンポンと撫でた。 「俺は君のヒーローになれないのかい?」 「ヒーローねぇ…。でもヒーローって皆を助けるものじゃないの?」 「俺がヒーローで君がヒロイン。ヒーローはいつでもヒロインのピンチに現れてどんな敵でも倒しちゃうんだよ。そして最後には結ばれるのがお約束じゃないか」 「そうなんだ」 「そうなんだよ!」 「それじゃあアルフレッド君は私がピンチになったら助けに来てくれるんだよね?」 「もちろんさ!」 「それじゃあ君は私のヒーローだ。私は映画に出てくるような金髪美人なヒロインにはなれそうにないけどね」 「そんなのどうだっていいんだぞ!!それじゃあ、君のヒーローは俺だけって約束してくれるかい!?ずっとずっと俺だけって約束してくれる!?」 「するよ。指きりね」 「うん!!名前、大好きだぞ!!」 「うわっ!!ちょっと重いってアルフレッド君んんん!!倒れる、倒れちゃうから!!」 「指切りなんかより誓いのキスをくれよ!」 「調子に乗るな!!」 「えー…」 頬を膨らませたアルフレッド君はやっぱり子供みたいで、だけど今日始めてアルフレッド君も”男”なんだって気付く事ができた。 彼の気持ちがどこまで本気なのか分からないけど…。 今はこのままでいいか、なんて私のお腹に抱きつき嬉しそうに笑うアルフレッド君を見てそう思った。 → ←|→ |