「あぢい…じめじめする…」 「しょうがないじゃん梅雨の時期なんだから」 「マジで梅雨死ね」 「気温だけはいっちょまえに夏やもんなぁ。あぁー海とか行って涼みたいわぁー」 「いいなぁ海。スイカ割りとかしたいよねぇ」 「エリザの水着エリザの水着エリザのでかい胸…」 「うわぁ、喧嘩うってるよこいつ」 ベタベタ汗ばむ体。扇風機の前で三人横に並んで風を受けているこの姿はなんとも滑稽だと思う。 「ちょっとギル、もうちょっとそっち行けや。お前の腕ベタベタしてて気持ち悪いねん」 「お前も汗ばんでて気持ち悪いんだよ。つかお前が居ると室内の温度が上がんだよ!働け居候!!」 「うわぁ、プーに言われたぁないわ。生憎今日のバイトは夕方からやねん〜。いつもお前の思い通りに行くと思ったら大間違いやぞワレぇ」 「トニーさん、キャラ崩壊キャラ崩壊」 「ハハ。暑さでついなぁ」 「あじい…クーラーつけようぜクーラー…」 「ダメ。絶対ダメ。贅沢は禁物」 「俺なんて真夏でも団扇一本で乗りきってんでー。扇風機も電気代かかるし、耐え切れんくなったら図書館行くねん」 「うん、クーラーつけようか。だからそんな切ない事言わないでトニーさん!!」 「やべぇ、本田のとこに漫画返しに行かねーと…めんどくせぇ」 「ダメだよちゃんと返さなきゃ。あ、ついでに本タッパー返しといて。こないだつくだ煮もらった時のやつ」 「自分で行けよ!」 「嫌だ暑い雨うざい超かったりぃ〜」 「お前もキャラ崩壊な!どこの女子高生だよ歳考えろバカ」 「ええで〜名前ちゃんナイスキャラやっほーい」 「いえーいトニーさんやっほーい」 「変なテンションやめろ!!」 やだなぁこのじめじめした空気… 雨で洗濯物干せないから部屋干しで余計にじめじめしてるし…。 あぁダメだ、頭からキノコ生えそう。 「ちょっとシャワー浴びてくるー」 「それがええなぁ。ちょっとはすっきりるわー」 「次俺浴びるぜ。むしろ水風呂に入りてぇー…」 「また今度ねー。そんじゃあ行ってくるー」 脱衣所で汗でベタベタになったTシャツを洗濯籠の中に脱ぎ捨ててバスルームに入る。 ふあぁー熱い!!シャワー浴びたってどうせ汗かいちゃうんだろうけどさぁ。 こうでもしてないとやってらんないぐらいの蒸し暑さだよ、今日は。 「お前らまたぐだぐだやってんのかよ」 「げ、眉毛が来た!!帰れゲジマユ!ロックリー!!」 「だれがリーだ!!」 「あかんでぇプーちゃん。リーに失礼やろ?あいつめっちゃええ奴やん」 「そうだよな。悪かったな、リー」 「俺に謝れよこのクソ甲斐性なし…!!!」 「てゆーか何しに来たんだよお前。さっさと帰れ!」 「こんなんと口利いたら馬鹿が移るでー」 「んだとカリエド…テメェ今日こそあの日の決着つけてやろうか…?」 「あぁ?望む所や。コンクリートに詰めて海流したるわ」 「ここで喧嘩すんじゃねーよ!!あいつに怒られんぞ!!」 「「うぐ…」」 「てゆーか何しに来たんだよ眉毛」 「あぁ、雲行きが怪しくなってきたから雷でも鳴るんじゃないかと思ってだな…」 「はぁ?そりゃ夕立でも来そうな感じやけど…」 「だから何でお前がくんだよ」 「あぁ…お前知らないのか。ん、だったら知らない方が良いよな。うん、俺の為にも知らないほうが良い」 「意味わかんねーよ。ただの雷がどういう…」 「あ。外雷鳴りだしたで」 「うわっ…今すげぇ音した」 「やべっ!!あいつどこにいんだよ!?」 「はぁ?名前ちゃんやったら風呂場に」 「ぎゃぁああああ!!!」 「い、今の名前ちゃんの叫び声ちゃう!?」 「名前ーーーーっ!!!!」 「んだよあの眉毛いきなり走りやがって…」 「ちょい待ちぃ!!今行ったら名前ちゃんがまだ風呂の中に…」 「…あ」 「ぎゃぁあああ!!今、今鳴った!?鳴ったよね!?鳴ったんだよねこんちくしょぉおお!!」 確かに窓の外から聞こえた空を割るような騒音。 うわ、絶対落ちた。絶対どこかに落ちたって今の!! やだやだやだやだ、怖いって怖いって!! 「名前!!」 「あ、アーサー!!」 「だいじょ、ってうおおおおお!!服!!服着ろ!いや、むしろ着なくていいけど!!」 「タオル!!タオル巻いてるからセーフ!!」 「そ、そうだよな!!それよりお前、大丈夫か…!?」 お風呂上りでタオルを体に巻きつけしゃがみこんでいた私を心配するように顔を覗き込むアーサー。 そっか、雷がなりそうだったから心配して見に来てくれてたのかな…。 今まで雷が怖くてしょうがない時アーサーが一緒に居てくれたもんね。 これでちょっとは落ち着いたかも… 「ほ、ほら…大丈夫だからな?耳塞いでれば音も聞こえないから」 「え、あ、そうですねそうですよねー。別に雷なんて必ずしも落ちるってわけでもないし…」 「そうだ。わ、分かったらまず服着ろな、服。俺外で廊下出てるから!」 「お騒がせしましたー」 顔を真っ赤にしたアーサーはできるだけ私をみないようにして体を強張らせながら廊下に出た。 あ、右足と右手が一緒に前に出てる。 あからさまな奴だなぁ… 「おい眉毛!!あいつに何したんだよ!!」 「何もしてねーよバカぁ!絶対中に入るなよ!!ドアに触れた奴殺すからな!!」 「はぁ?何言うてんねん自分今こん中おったやろ!!名前ちゃんになんかしたんちゃうやろなぁおんどれ!!」 「こんな短時間じゃできるものもできねーよ!」 「未遂かぁあ!!未遂か貴様ァアア!!」 「落ち着けトニー!!」 「落ち着いてられっかあぁあ!!テメェ名前ちゃんに何したか言えよ!!答え次第じゃ容赦しねぇぞぉおお!!」 「お前関西弁どうしたんだよ!?エセか!?」 「ちょっと、何騒いでんの…?」 「名前ちゃん!どないもない!?この眉毛になんか変な事されたり…」 「ど、どうしたのトニーさん…」 私の肩を掴みぐらぐらと揺すったトニーさん。 どうしたって言うんだ!! 助けを求めるようにギルに視線を送ると了解したと言わんばかりにトニーさんを抑えてくれた。 「ごめんね、騒がせちゃったみたいで。大丈夫だから」 「じゃあ今の悲鳴はなんだったんだよ」 「あれ?あれはその…は、発声練習?」 「そんな近所迷惑な発声練習あるか!!」 「違うあれだった、Gが出たんだよGが!!黒光りに触覚が生えててガサガサガサーって」 「ひぃいい!!そりゃ怖いなぁ…!」 どうやらトニーさんは納得してくれたらしく、大丈夫だった〜?と私の様子を伺った。 「アーサーもゴメンね。もう大丈夫みたいだから」 「そうだな」 外を見てみると、さっきより雨が小降りになってきている。 どうやら雷雲は通り雨のような物だったらしい。 「明日アイス君のとこの文化祭なのになぁ…ちゃんと晴れるだろうかー」 「今日もやってんだろ?この雨じゃ中止になってんじゃねーか」 「アルフレッド君に聞くと雨でもやるって言ってたんだけどなぁ…」 「明日は晴れるように親分てるてる坊主作っておいたるわ〜」 「ありがとートニーさん。けどそろそろバイトの時間じゃないの?」 「ほんまや!!やばっ…はよ行かな店長に怒られるー!!」 「帰りは10時でいいんだよね?晩ご飯はグラタンだからね〜」 「うん!ありがとなぁ名前ちゃん!そんじゃあ行ってくるわ〜!」 てるてる坊主頑張って作ってな!と言い残したトニーさんは慌てて玄関に走った。 「俺もやりかけの仕事あるから帰るな」 「仕事持ち帰り?大変だねぇ。晩ご飯は一緒に食べるでしょ?」 「ん。グラタンだっけ。楽しみにしてるからな」 「うん。わざわざありがとねー」 「あぁ」 照れくさそうに笑ったアーサーはどこか嬉しそうな顔をして帰っていった。 さて、私は晩ご飯の準備でもしておこうかな。 だけどその前に… 「そうだギル、トニーさんの言ってた通りてるてる坊主作らない?」 「てるてる坊主って、あの窓辺に吊り下げるあれか?」 「うん。白い布ないからティッシュで良いよ。二枚程こうやって丸めてくるんで紐でくくれば完成ー」 「お手軽すぎんだろ」 「そんなもんさね」 私の真似をしててるてる坊主を作るギルの手元を見ながら、滲まない油性ペンでてるてる坊主に顔を書いてゆく。 うわぁ、私って絵心ないなぁー… 「お前さぁ」 「なにー…。あぁもう、失敗しちゃった…」 「お前ってさ、雷苦手だろ」 「え゛…」 ギルのその確信突いた言葉にマジックを持っていた手元が狂った。 「な、なんで…」 「普通わかんだろ。あの眉毛がわざわざ心配して見に来たぐらいだし、そうとう苦手なんじゃねーの?」 「うわぁー…ギルには知られたくなかったんだけどなぁ…」 「なんでだよ!?」 「だって…雷ごときでってからかわれる嫌だったんだもん」 「なっ…!!そんだけかよ!アホらしい!!」 「何がアホらしいだって?こっちは真剣に怖がってんのに!!」 「だったらあんな眉毛頼ってんじゃねーよ!俺が一緒に居んだから俺様を頼れよ!!」 「えー…だってギルはねぇ…」 「んだよその目は…!!女一人守るぐらいわけねーぜ!」 「うわぁ、似合わない台詞ー。でもありがとうね、ギル」 「おう…」 「あ、だったら夜とか雷鳴った時一緒に寝ても良い?いいよねぇ今更気にする事もないし!うん、そうしよう!実は夜中に雷が鳴るのが一番怖くてさぁ!こればっかりは今までどうしようもなかったしずっと我慢してたんだけど、今はギルも居るもんね!うん、それが良い!」 「ふぇ…?一緒にって…」 「こんな時季だからこれから多くなりそうだよねー…。その時はよろしく頼むよ、ギル」 完成したてるてる坊主を窓に引っ掛けて微笑むと、「あ、あぁ…」と複雑そうに笑うギル。 なにその何とも言えない表情は… ともかく明日は晴れてもらわないと困るよね。せっかくアイス君の学園祭なんだし…。 本田さんから一眼レフも借りたしバッチリだよね!!沢山撮らないと!! てるてる坊主も作ったしきっと明日は晴れるよ!! そっとてるてる坊主の頭を撫でてキッチンへ向かう。 そっと窓辺に近づいて「雷鳴れ雷鳴れ」とてるてる坊主を逆さに向けているギルの姿がある事なんて知る由も無かった。 . ←|→ |