帰り道。電車から降りて「今日の晩ご飯は何にしようかなぁ〜」なんて考えながら歩いていると、フランシスさんの後姿をみつけた。
って、あれ…?隣に居る子制服着てるけど…。ちょっと何肩に手ぇまわしてんのフランシスさん!!!
いい歳して女子高生相手に何やってんだあの髭ぇぇええええええ!!!

アーサーに無理矢理持たされた対変態用防犯グッズの一つである防犯スプレーを手にとりそっと二人の後をつける。
あの女の子を巻き込む事にならないように、二人が別れた時を狙って…

気づかれないようそっと後をつけると、公園の前で別れた二人。
よし、今がチャンス…!!


「このエンコー髭変態野郎がぁああ!!」

「うおおおお!?え、なに、名前ちゃん!?ちょっと何そのスプレーって、ぎゃぁあああ!!!」

「いたいけな少女にまで手を出すとは最低すぎんだろアンタぁあああ!!いい年して何やってんのマジで!!」

「痛い!!目ぇ痛ぁあああ!!ちょ、なにこのスプレー!?」

「アーサーからもらった対変態撃退防犯スプレー」

「あんにゃろぉおお!!」


目が、目があぁああ!と地面を転がり回るフランシスさん。
フン。女子高生などに手を出した罰だ!!


「見損ないました。まだ高校生でしょあの子。変態髭ロリコンおっさん」

「酷い!!違うって誤解だから!!あいつは俺の近所に住んでた…」

「往生際が悪いですよ髭」

「ちがうってぇえええ!!」


涙をボロボロ流しながら詰め寄ってくるフランシスさんの肩を掴み股間を蹴り上げる。
再び地面に転がりまわったフランシスさんは「だからあいつは俺の妹みたいなもんなんだってぇえええ!!」と泣き叫んだ。
妹みたいなものって…


「嘘じゃないでしょうね…」

「マジだから!!なんならあいつの小さい頃の写真見せる!?」

「え…じゃあ本当に…」

「俺に渡したい物があるからって近くで会ってここまで送っただけ!!」

「そうだったんですか…。ごめんなさい、勘違いしちゃって…」

「分かれば良いんだよ分かれば。お詫びはキスでいいからね〜お兄さんの唇にぶちゅっと」

「死んでください髭」

「ひでぇ!!」


勘違いだったのかぁ…。なんだかフランシスさんに悪いことしちゃったなぁ…。


「ちょっとそこに座っててくださいね」

「え?あ、はい…」


公園のベンチにフランシスさんを座らせ、自分は園内の端に設置されている水飲み場まで駆け足で走る。
ハンカチを水で濡らして軽く絞り、再びフランシスさんの元へ戻って濡れたハンカチを顔に掛けた


「え…死人扱い?」

「違います。それで拭いてください。おもいっきり顔面にスプレーかけちゃったんで」

「そうかそうか…。だけどこのハンカチ名前ちゃんのなの?すっごいセンス…」

「猫ちゃん柄のどこが悪いんですか。可愛いじゃないですか肉球」

「いや、悪くはないけどさぁ」

「そんな目で見ないでください!ったく…」


自分もベンチに腰を降ろして一息つくと、顔を拭き終わったフランシスさんが「どう?美男子になった?」と聞いてきたので「いつもの髭面です」と答えておいた。


「でもフランシスさん。あんなにベタベタくっついてたら勘違いされるのは当たり前ですよ」

「俺なりのスキンシップだからねぇ〜」

「またそんな事を…。どうせそうやって何人もの女性たぶらかしてるんでしょ。遊び半分とか最低だな髭」

「なんで名前ちゃんってそんなにお兄さんに厳しいの…。まぁ多くの女の子達に愛されてるのは確かだけどなぁ〜」

「逝けよ。はぁ…フランシスさんもいい歳なんですからそろそろ結婚とか考えてみたらどうです?本気で好きな人、居ないんですか?」


少し投げやり気味にそう聞くと、フランシスさんは少し困ったように笑った。


「本気で、ねぇ…」

「今まで本気で愛した女性なんているんですか?ずっと遊んでそうなイメージありますけど」

「もちろんあるって。大好きで大好きでたまらなかった女の子。片思いだったけどね」

「へぇ…」


フランシスさんにもそんな人が居たんだなぁ…。
やっぱりこの人も一端の人として本気の恋をしたことがあったのか。


「その人とはどうなったんです?」

「どうにもならなくてさぁ〜」

「どうして。フランシスさんなら即座に口説いてるでしょ」

「彼女、居なくなっちゃったから」

「へ…」


私の目を真っ直ぐ見て薄く微笑むフランシスさんに、心臓が逆回転したような動きでドッドッドと鳴り響いた。
居なくなっちゃったって…どういう意味…?


「それって…」

「小さい頃の初恋って奴でさぁ。始めて女の子好きになったんだよねぇ俺。強くて男勝りで喧嘩も一番強くて。そうだなぁ…名前ちゃんみたいな子だったかもなぁ…」


フランシスさんの大きい手が私の髪を撫でて。
いつもなら殴り返してるはずなのに、振り払おうとする手が動かなかった。


「そ、その女の子は…」

「んー?その女の子はねぇうぉおおおおおおお!!!何やってんだこの変態髭ぇええええ!!!」いっでぇええええ!!!」

「あ、アーサぁああ!?」

「っにしてんだよ髭野郎…テメェ今こいつに何しようとしてたんだ…?」


スーツを着た仕事帰りのアーサーがいきなり現れ鞄で思いっきりフランシスさんを殴り飛ばした。
ってゆーかその鞄パソコン入ってなかった!?今バキッって怪しい音したよ確実にぃいい!!


「ちょっとアーサー!!」

「大丈夫、お前はちょっと下がってろな。今すぐこの髭引っこ抜いてネス湖に沈めてきてやるから」

「ちょっ、お前目がやばい血走ってる!!」

「あぁん?ふざけんなよこの髭!!!こいつに手ぇ出すなって毎回毎回言ってんのがまだわかんねーみたいだなぁ…。そろそろ本気でお仕置きが必要か…?」

「ヒィイイイ!!こいつ確実にヤンキー時代に戻ってるよ今ああああ!!名前ちゃーん!!」

「何もされてないってアーサー!!それに今、フランシスさんから大事な話を…!!」

「それってまさかこいつの初恋の女の話じゃないのか?」

「え…」


何で知ってんのアーサーと尋ねるとフランシスさんの上に馬乗りになったアーサーは呆れたように答えた。


「こいつの女口説く時の手口なんだよそれ!!初恋の女がお前に似てるとか言って、その次は死んだとか行方不明になっただとかって相手の女の同情を利用すんだよこいつは!!」

「いでででで髭引っ張んないで髭はぁああ!!」

「フランシスさん…。さっきの話ってもしかして…」

「い、いやぁ…。真剣な顔する名前ちゃんが可愛くてつい、ね!!でもこのまま押し倒して誰も居ない場所に連れ込もうとかそんな気はないから!!」

「…アーサー」

「あぁ」

「殺れ」

「喜んで」

「ちょっ、やだやだやだ!!うぎゃぁあああああ!!!!」


夕焼け色に染まる公園に男の甲高い叫び声が響き渡った。
あんな嘘で同情をひこうなんて最低すぎるだろうフランシスさん。
もうあんな髭の言う事は信じまい、そう心に誓い笑い声をあげながらひたすらフランシスさんを殴り続けるアーサーを止めた。
血濡れになった右手がやけに生々しい。
アーサーが昔手がつけられない程荒れてて喧嘩も負け知らずってのは本当だったんだと確信した瞬間でもあった。
地面に突っ伏すフランシスさんに「遊んだ女に刺されてしまえ」と捨て台詞を吐いて、まだ襲い掛かろうとしているアーサーの頬を叩き首根っこを掴んで引き摺って帰った。


「ただいまぁー…」

「おかえり名前ちゃ、ってなんやのそれぇえええ!!カークランドの手血ぃ付いてるやん!」

「それがさっき公園でフランシスさんとねぇ…色々あってアーサーが…」

「うわぁ、マジギレしてもたんやなぁ。そいつ抑えるん大変やったやろ」

「二・三発ビンタしてやったら大人しくなったよ」

「凄いなぁ名前ちゃんは…。そや、もう直ぐ晩ご飯できるから手ぇ洗ってきてなぁ〜」

「わー!ありがとうトニーさん!ほらアーサー、起きて。晩ご飯できるよー」

「う…。フランシスの野郎は…?」

「公園でおねんねしてるよ。いいからさっさとシャワーでも浴びて着替えてきなー。血なまぐさいよ」

「あぁ、分かった」


食卓が血なまぐさいって最悪じゃないか。
それにしてもフランシスさん、本当に最悪だ…!!思わず私も引っかかるところだったよ…!!
だけどあの時の悲しそうな目…。あれも演技だったのかなぁー
だとしたら俳優向きかもしれないな、フランシスさんは。
まぁあんな髭の事はどうでもいいや!
今日の晩ご飯は何かなぁ〜!


「おいしそう!!から揚げだー!」

「一個味見する〜?」

「するする」

「はい、あーんして〜」

「あーん」

「おいし?」

「うん!すっごく美味しい!!やっぱりトニーさん料理上手だねー」

「トニー、俺にもよこせよ」

「嫌やぁ。男にあーんって食べさせたぁないし」

「じゃあお前がやれよ」

「私が?しょうがないなぁ…。はい、あーんして〜」

「あ」


漫画を片手に口を開くギルの口の中にから揚げを放り込む。
「あぢぃ!!」と舌を火傷し、トニーさんにジェスチャーで水を要求したが「何言ってるか分からんれていた。
不憫、ギルベルト。

後でとっておいたアイスでもあげよっと






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