「ギル、この料理そっちに持って行って〜」

「お前にしては美味そうな出来だな」

「そりゃあトニーさんがバイトに出かける前に手伝ってくれたから…ってどういう意味だ、アーン?」

「名前、ケーキ焼けたぞ」

「あぁあ!!アーサーは触らないで!!お願いだからアーサーは食べ物に触らないで!!紅茶だけ淹れてくれればいいから、ね?」

「あ、あぁ…」


今日は朝から慌しくリビングを駆け回っています。
それも、今日はティノ君とスーさんが遊びに来るんだよね!!
昨日誕生日だったスーさんの為にサプライズパーティーを開く事にした私は今朝からケーキを作ったり、料理を作ったりと大忙し。
アーサー、ギルにも手伝ってもらってなんとか二人が来る予定の時間に間に合いそう


「あとはケーキをデコレーションして冷やせば終わりだよね」

「あの二人が来るの11時だろ?リビング使えねーし暇だぜー…」

「あとちょっとじゃん。なんなら私の
部屋に居てもいいよ?」

「そうする」


数冊漫画を抱えたギルはのろのろと私の寝室へと入っていった。


「てゆーか本当に俺が居ても良いのか?」

「いいに決まってんじゃん!!変な事聞かないでよ〜もう」

「しかしお前の友達…ベールヴァルドとか言ったっけ?俺前あいつにすげー睨まれた気がするんだが…」

「あぁ、スーさんは元からあんな顔なんだよ。気にする事ないって」

「そ、そうか…?」


大人数の方が楽しいしスーさんもティノ君もきっと喜んでくれるよね!


―ピンポーン


「あ、来たかなー!」

「じゃあ俺はあのプー呼んでくるな」

「頼むよ」


足取り軽く玄関へ向かい、鍵を開けて扉を開く


「いらっしゃい二人とも!」

「モイモイ名前さん!」

「ん。邪魔すんない」

「あ…スーさん、その腕に抱いてる子って…」

「すみません!花たまごも一緒に連れてきちゃいました」

「うわぁ〜可愛い!!始めまして花たまご君」

「わん!」

「うはぁああ!!可愛いなぁ〜…」


もこもことした毛並みの子犬をスーさんから受け取り、抱き上げるとペロペロ頬を舐められた。
可愛いよ可愛いよこの子!!
って、ダメじゃん私…どこぞの髭みたいな事言ってるよ…!!


「あ、そうだスーさん!目瞑って!」

「なじょした?」

「いいからいいから!!」


事情を知っているティノ君はクスクス笑って「さぁスーさん」と肩を叩いて促した。
目を瞑っているスーさんの手を引いてリビングに入り、そっとティノ君にパーティー用クラッカーを渡してにまりと笑う。


「スーさん、目ぇ開けてもいいよ」

「ん」


そっと閉じていた目を開くスーさん。
タイミングを見計らってクラッカーのヒモを引っ張ると、パァンとはじけるような音と火薬の匂いが広がった


「スーさん!誕生日おめでとう〜!」

「おめでとうございます、スーさん!」


頭や肩に紙ふぶきを被ったスーさんは相変わらずの無表情で。
だけど心なしか驚いているような表情を浮かべて居た。


「ビックリした?昨日はスーさんの誕生日だったもんねぇ〜!なのでささやかではありますが誕生日パーティーを企画したんだよ!」

「…」

「あれ、スーさん固まってる…」


ティノ君が恐る恐るスーさんの体を触ってみるものの、ピクリとも動かない。


「す、スーさん!?スーさあぁああん!?」

「どどどどうしたのスーさん!ショック死!?驚きのあまりの発作!?」

「うわぁああんスーさん!!スーさぁああん!!」

「何騒いでんだよお前ら」

「どうかしたのか!?」

「あ、アーサー!!スーさんが固まっちゃった!!」

「はぁ?」


何度かスーさんの目の前で手を振ってみると、パチパチとゆっくり瞬きをした。


「こん料理、おめぇがこさえだんか?」

「え?少し手伝ってもらったけど…」

「俺ん為に?」

「もちろん!」

「名前…」


スッと脇の下に手を入れられ、そのままふわりと体が宙に浮く。
え…?


「めんげぇ…」

「スーさん…私子供じゃないから高い高いはちょっと…」

「スゲェ!!すごすぎんだろベール!!このデブ持ち上げられるとかお前どんな腕力してんだよ!!」

「そこ黙れ!!」

「何やってんだよ!!あ、危ないから降ろせ!!」

「スーさん、余程嬉しかったんですね…!!」

「あんがとない、名前」

「うん。どういたしまして。どういたしましてだから降ろして高い場所怖い!」


身長の高いスーさんに持ち上げられたせいで頭は天井擦れ擦れの場所にある。
まさかこの歳で高い高いをされる事になるとは思わなかった…


「さぁ!気を取り直してパーティーにしようか!!」

「ほ、本当に俺も参加していいのかよ?」

「しつこいなぁアーサーは。あ、二人ともこの眉毛は隣に住んでるアーサーだよ!一度会ったことあると思うんだけど、覚えてるかな?

「勿論覚えていますよ!僕はティノです。改めて宜しくお願いします!」

「ベールヴァルドだ」

「よろしくな」


なんだかアーサー嬉しそうだなぁ。
良かった良かった!!


「うん、お前にしてはなかなか良い味じゃねぇこの料理」

「わーギルに褒められた。明日は大雨かなぁ」

「アハハ。本当に仲良いですねぇお二人は!」

「ベール、このポテト食えよ。俺が茹でたんだぜ俺が!!」

「茹でただけで偉そうにすんなよ!」

「テメェは料理もできねーくせに文句言うんじゃねーよ。味オンチ〜」

「んだと…!!」

「アーサー、お座り」

「俺は犬じゃねぇ!!」

「そう変わらないでしょー。あ、ティノ君ワインもう一杯いかが?」

「あ、いただきます!」


5人で食事に舌鼓を打ちつつ会話を楽しんだ。
スーさんも心なしか…いや、誰にでも分かるぐらいの笑みを浮かべていて喜んでくれているようだった。


「ケーキも食べたしそろそろプレゼントでも渡そうかな〜」

「実は僕も今日ここでお渡ししようと思って昨日渡すのをぐっと我慢してたんです!」

「わるいな、俺は用意できてないんだ…」

「気にするでね。気持ぢだけで充分だがんら」

「それじゃあ僕からお渡ししますね!!じゃじゃーん!!花たまご柄ネクタイです!!」

「えぇええ!?ちょっ、どうしたのこれ!?」

「特注で作ってもらいました!!」

「これはジョークなのか…それとも本気なのか…」

「あんがとない。あすた会社につけて行ぐから」

「はい!!嬉しいなぁ〜」

「本気かよ!!」

「やるなぁティノ君!!じゃあ私からはこれねー!!」

「…?」

「わぁ、高そうな箱ですね〜!」

「開けてもえ゛ぇ?」

「もちろん!」


ガサガサと丁寧に包装紙を捲っていくスーさん。
わぁ、なんだかドキドキするなぁ…


「これ…」

「腕時計!スーさん自分のサイズなかなか無いって言ってたでしょ?だから特注してもらったんだよねー」

「わぁ〜!かっこいい腕時計ですね!!」

「うわ…いいな、それ…」

「アーサーはもっとお高いの持ってるでしょ」

「持ってねーよ馬鹿」


腕時計をまじまじと見つめたスーさんは、また数秒固まった後に私とティノ君の体を纏めて抱きしめた。


「俺はこげなえ゛ぇ友達持って幸せもんだない」

「お、大げさですよスーさん!!あと顔が近くで怖いです…あ、いや、なんでもありません!」

「そうだよスーさん。私なんて普段お世話になってるんだしこんな時ぐらいお礼したいじゃない?スーさんとティノ君は会社に入社した時からずっと仲良くしてくれてる最高の友達だもんね!入社当時…アレの時も助けてくれてたし」

「そんな事もありましたねぇ…」

「ん」

「時計、気に入ってくれた?」

「一度にこんなすげぇプレゼント二づも貰ったん始めでだない」


幸せそうに頬を緩めるスーさんを見ていると、なんだかこっちまで幸せな気分になった。
良かった、喜んでくれて


「同僚か…いいな」

「アーサーは周りがお偉いさんのオジサンばっかだもんねぇ」

「だから余計友達いねーんじゃねぇのか?」

「プー太郎のお前には言われたかねぇよ」

「俺はこいつら二人と友達だぜ?ベール、俺からもプレゼントくれてやるぜ!!」

「ってそれ芋じゃん!!」

「あんがとない」

「良いんだスーさん!!」

「ほら見ろ!!」

「お前はえばるな馬鹿!!」


なんだかなぁ。
だけどいつもはあまり表情に出して笑わないスーさんがこんなにも嬉しそうなんて本当に珍しい事だ。
本当に喜んでてくれたんだなぁ…
料理も残さず綺麗に食べてくれて。
ティノ君が冗談交じりで「これなら何時でもお嫁に行けますねー名前さん!」と笑うと机をドンと叩いて「どこにも嫁さやんね」とドスをきかせてた時は怖かったけど。
隣に座っているアーサーがビクビクしていた。

夕方、スーさんとティノ君と入れ違いになるように帰ってきたトニーさんと片づけを手伝ってくれていたアーサーが例のごとく喧嘩をおっぱじめたのでベランダに吊るしあげておいた。
懲りないなぁあの二人は…


「そういや明日はエリザの誕生日なんだよね!帰りにプレゼント渡しに行くんだ〜。楽しみ楽しみ!」

「そういやそうだったな」

「またまたー。ちゃんと覚えてたくせに」

「いちいちあいつの誕生日なんか覚えてねーよ!」

「へぇ。ギルはエリザに何か用意してる…わけないよねぇ。お小遣いねだってこなかったし」

「あいつに何かプレゼントして喜ばれた記憶がねぇぜ」

「そんなに嫌われてるんだ、ギル…」


幼馴染なのに、不憫だなぁ…
とにかく明日はエリザの誕生日!!
きっとお店のお客さん達にもお祝いしてもらうんだろうなぁ…
だけど一番嬉しいお祝いはローデリヒさんの「おめでとうございます」の一言なんだろうね。
花が咲いたみたいな笑顔で「ありがとうございます!」って喜ぶエリザの笑顔が目に浮かぶ。
明日、楽しみだなぁ。


「そういやお前の誕生日は何時なんだよ」

「さぁ、何時でしょうね〜」

「んだよその含み笑い!!うぜぇ!」



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