「さっきの弾…当たってらっしゃいませんか?」

「え、うん。大丈夫だよ」

「良かった…。申し訳ございません、まさか外に行ってしまうとは思わなかったので…。よろしければこの事は内密にしていただけないでしょうか?」


申し訳なさそうに恐る恐る首を傾げた少女。
可愛い子だなぁ…って、そうじゃなくて!!
こんな場所で実弾なんて見たら内密になんてしてられないじゃん!!
この場合警察に通報した方が…


「あのね、この国じゃ銃の所持は…」

「内密にしてくださらないとお兄さまにしかられてしまいます…」

「う…」


目に涙を溜める少女を見ると言葉に詰まってしまった。
ダメだなぁ、どうも女の子の涙には弱いんだよ私…


「じゃ、じゃあもう絶対に危なくないようにしてね?人に当たったら大変だし、ね?」

「分かりました。もう外では撃たないようにしておきます。なのでくれぐれもこの事は内緒にしてくだしまし」

「分かった。約束ね」

「ありがとうございます」


ふんわり笑った少女はトニーさんから弾を受け取り、ペコリとお辞儀をして近くの民家へ入って行った。


「なんや可愛い子やったけどなんで銃なんかぶっぱなしてたんやろー」

「銃ねぇ……あ」


そういえば菊さんが随分前に『近所に銃マニアの方が居られます』とか言ってたよなぁ。
もしかしてさっきの子の事…?
だとするとさっきの弾はもしかすると実弾じゃなくてダミーだったのかも。
マニアの人って本物そっくりに拘るもんねぇ


「黙っててもええんやろか〜?」

「大丈夫だよきっと!それにもしかしたら実弾じゃなかったかもよ?本物そっくりのダミーとか!」

「そやなぁ。あんな女の子が銃ぶっぱなしてるわけないよなぁ〜」

「だよね〜!普通に考えてみたらこの日本の住宅街で銃所持してるなんてありえないよね!!あはははー」

「あははは〜」



―――



「ただいまーギル」

「今帰ったで〜」


マンションにつき、重い荷物をリビングに置く。重いと言ってもほとんどトニーさんが持ってくれたんだけどね。
声をかけても返事が無いのでそっとソファーを覗いてみると、枕を抱えてすやすやと眠るギルの姿があった
こいつ…ちゃんと反省したんだろうか…


「ったく…」

「名前ちゃーん!アイス冷凍庫入れるで〜?」

「あ、お願いするよ〜」

「親分に任せとき!」


食材なんかの片付けはトニーさんにお任せしよう。
それにしてもギルの奴、気持ち良さそうに寝てるなぁ…


「ギルー。アイス買って来てあげたよー」

「ん゛ー…」

「要らないの?私とトニーさんとアーサーで食べちゃうよ〜」

「んっ…」


何かの言葉に反応したようにピクリと体を動かし繭を寄せるギル。
しゃがみ込んでしわの寄っている眉間をぐりぐりと押さえてやると「うー」とうなされるような声をあげた。
枕抱きしめちゃって。可愛いなぁ。
そういえば前に一緒に寝たときも私の体抱き枕みたいにしてたよね…
今度でかけた時クマさんの抱き枕でも買ってきてあげよう。
きっと似合うんだろうなぁ…

色んな想像を膨らませると、自然と笑みがこぼれた。
冬にはクマさんきぐるみパジャマも良いかもしれない。絶対に似合うよギルなら。


「名前ちゃん、なんや嬉しそうやなぁ」

「え?あぁ…なんだか最近ギル見てたら幸せだなーって思っちゃったりね」

「そ、それって…」

「私兄弟って居なかったからさぁ。弟とかこんな感じなのかなぁって。私にとってギルって家族なんだよね。だからこうやって一緒に暮らせる事が幸せなんだよ」


喧嘩もするしむかつく事も多いけどね、とトニーさんに笑顔を向けるとなんだか複雑な表情をされた。


「なぁ、名前ちゃん」

「んー?」

「あんまり感情移入せん方がええで?」

「え…なんで?」

「別れが、辛なんで?」


その言葉に心臓が大きく脈を打った。
別れ…か


「分かってるよ」

「分かってるて…」

「トニーさんはここに来る前のギルを知ってるんでしょ?私はよく知らないんだけど、ちゃんと家族も居るって言うし。だったら家族の場所へ帰ったほうが良いと私も思ってるんだよ」

「…」

「だけどさ、ギルがここに居たいって言うなら何時までも居てくれて良いの。一生家族の所に戻りたくないって言うならずっとここに居ても良い」

「そんな事…」

「良いの。今はこのままで。それにもしそうなったとしても一生会えなくなるわけじゃないしね!」


さて!さっさと着替えて夕食の準備すませちゃおっと!
アーサーも呼んであげなきゃね〜
明日はスーさんとティノ君が来るし、パーティーもしたいからケーキも作らなきゃだし!

すやすや眠るギルの頭をポンと撫でて自室へ入る。
今日買った荷物も片付けておかなきゃ…!



「なぁギル…。ええんか〜?」

「…」

「狸寝入りしても親分にはお見通しやで」

「…何の話だよ」

「お前、名前ちゃんに言ってないんやろ」

「…」

「まぁ俺は名前ちゃんの事好きやし、お前には渡す気ないからなぁ。邪魔者は出てってくれた方が安心やわ〜」

「テメェ…」

「けどな。ライバルである前にお前は友達やねん。なんかあったらすぐに俺かフランシスに相談するんやで?もちろん恋愛相談以外で、の話やけどな!」

「勘違いすんなっての。誰があんなの」

「そろそろお前も素直にならんとあかんよ〜。親分もそろそろ本気になってきたみたいやわぁ」

「へ…?」

「やっぱり俺名前ちゃんが好きや。お前なんかには絶対に負けんで」

「なっ…!!」


「トニーさ〜ん。悪いけどお風呂沸かしておいてくれる〜?」

「あ、ええよ〜!今日も名前ちゃんが一番風呂入ってや〜。名前ちゃんの後のお風呂入れるなんて俺めっちゃ興奮するわぁあ!」

「何考えてんだエロ!!エロトマト!!」

「あれ、ギル起きてたの?」

「こいつ狸寝入りやで!!せこい奴や!!」

「マジかよ。おいおいギル、見損なったよ母さんは」

「誰が母さんだ!!お前が俺に触るまで寝てたっつーの」

「触るやて!!いやらし〜!!名前ちゃん、ギルにはあんまり近づかんほうがええで〜!触っただけで妊娠させられるわ」

「するか!!テメェを触るぞコラァア!!」

「いやーっ!!ケダモノやぁああ!!」

「待ちやがれトマト野郎!!エセ関西人!」

「エセじゃないよ本物ですよー」

「標準語喋れんじゃねーか!!キャラ立ちか!!キャラ立ちしたいが為の関西弁かテメェ!!」

「菊も言ってたやん、萌えギャグ漫画には関西弁キャラは欠かせませんって!」

「二次元と三次元を一緒にすんじゃねぇ!」

「二次元は分かるけど三次元って何?」

「あー。あれだ、こっちの世界の事言うんだよ。現実世界」

「ギルちゃん詳しいなぁ」

「伊達に本田に毎日話を聞かされてねーぜ!!」


なんだか仲良いなぁ二人とも。
うんうん、微笑ましい光景だ!

その後はアーサーを入れた4人で夕食を食べ、食後のデザートにはアイスを食べた。
なんだか今日は濃い一日だったなぁ…
トニーさんと買い物に行って、帰り道で危うく銃弾にぶつかりそうになって。
あの女の子あの家の子かなぁ…近所なのに見たことない子だったけど…。
そんな事より明日は久しぶりにティノ君とスーさんが遊びに来るんだもんね!!
誕生日パーティーするって事はスーさんには内緒だからいきなり始めて驚かせないと!!
明日が楽しみだなぁ〜!


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