「ねぇねぇトニーさん。今日お仕事休みって言ってたよね?良かったら買い物に付き合ってくれない?」 洗った食器をすすぎ終えた名前ちゃんはタオルで手を拭きながら可愛らしく首を傾げた。 あぁ…ほんまにかわええなぁ名前ちゃん! ほんでその名前ちゃんと俺が一緒に暮らしてるなんてほんまに夢みたいやで! バイトで疲れて帰ってきたら「お帰りー。お疲れ様トニーさん。晩ご飯今から温めなおすから待っててね〜」と玄関まで迎えに来てくれて… なんやろこれ、パラダイスやろか!! やたら機嫌の悪いギルはこの際どうだってええわ!むしろ俺ら二人の子供のようなポジションでええと思うんやなぁ。 あーでもギルみたいな子供は嫌やわぁ! 俺と名前ちゃんの子供はさぞかわええ子なんやろなぁ…。女の子やったら絶対名前ちゃん似がええわ! 一生懸命育ててゆくゆくはお嫁に… お嫁に…? 「あかん!!嫁になんかやれるかぁああ!!」 「嫁!?何、どうしたのトニーさん」 「え?あ、ごめんなぁちょっと想像が膨らみすぎたわぁ」 あかんあかん。子供なんてまだまだ先の話やわぁ。 その前にやる事が沢山あんで! あんな事やこんな事してー…ハァハァ、名前ちゃんと共同生活たまらんなぁ… 「やっぱりダメかな?友達の誕生日プレゼント買いに行くんだけど、トニーさんにも一緒に選んでもらおうと思って…」 「ええで!勿論!!どこにでも付いていくで〜俺」 「よっしゃ!それじゃあ出かけようか〜!」 「そやな〜!」 「えへへへ」 「ふへへへー」 あぁ、なんやこれ…めっちゃ幸せやわぁ… コツン 「あいたっ!!なんや頭に当たった…。って、何ゴミ投げてんねんギル!」 「投げてねーぜ、俺」 「阿呆。お前のおる方向からぶつかってきたわ」 「知らねーって言ってんだろ。ポルターガイストだろポルターガイスト」 「え、この部屋出るん!?やめてー!ホラーは苦手やねん俺!!」 「出る出る。夜中トイレに起きたらマジ出るんだぜ。ペチャパイでドSな女の亡霊が…」 「その亡霊はこーんな顔してる人かなぁ〜…?」 「ヒィイイ!!ちがっ、んなわけねーだろ!!冗談だぜ冗談!!」 汗をかきながら高笑いするギルを睨みでかける準備を整える。 ほんまヘタレやなぁこいつ… 「じゃあトニーさん、行こうか!ギルは一日大人しくお留守番しててね」 「ふぁ?」 自分も行く気満々だったらしく、部屋着のゴムズボンからジーパンへ履き替えるギル。 アホやなぁ〜 「バカめ!私が簡単に許すと思ったら大間違いなのだよ!!そんなわけだから今日は一人で反省する事。本田さんにも遊びに来ちゃだダメだって言っておくからね。そんじゃあ行ってきます〜」 「名前ちゃんの事は俺に任せとき〜!ほななー」 「………え?」 ――― 「実は会社の友達が今日お誕生日なの。それで明日家に遊びに来るからささやかなパーティーをしてプレゼントでも渡そうと思って!」 「名前ちゃんは友達思いやなぁ〜」 「トニーさんの誕生日もちゃーんとやるからね!明後日にはエリザの誕生日も来ちゃうんだよなぁ…。パーティーはできないけど何かプレゼント買わなきゃね!何が良いかなぁ〜」 スーさんへの誕生日プレゼントはもう決まってるんだよね。 前々から目をつけてた腕時計があって、それを特注してもらったのだ。 手首が太いからこっちのサイズのものはなかなか使い物にならなくて困るって言ってたもんね! 気に入ってくれると良いんだけど… トニーさんと仲良く肩を並べて、時計を注文していたお店に入る。 店員さんに引き換えを渡すとしっかりとした箱に入った時計を奥から出してきてくれた。 「こちらで間違いはございませんか?」 「はい」 「うひゃー高そうな時計やなぁ〜!」 「日頃お世話になってる友達にだしねー!ちょっと奮発しました」 「これ一個でトマトどれだけ買えるんやろー…」 「ちょっ、それは無し!!今それ言うの無しだよトニーさん!」 あはは、ごめんなぁ〜と笑うトニーさん。 うん、確かに安いものではないけど誠意ですからね!!それにスーさんやティノ君は私にとって掛け替えの無い友達だから。 折角の機会なんだし、ちゃんとした物でお祝いしたい。 「ふふふ。素敵な恋人さんで羨ましいですねぇ」 「へ?」 によによと少しからかうように笑った店員さん。 恋人さんって…トニーさんの事言ってるのかなぁ。 トニーさんの方をちらりと見るとキラキラと輝く笑顔で私を見ていた 「こ、恋人やて名前ちゃん…!!」 「そう見えるのかな」 「や、やろなぁ…。なんや恥ずかしいわぁ」 そうか、傍から見ればそう見えたりするものなんだ…。 恋人かぁ。トニーさんみたいな人が恋人だったら毎日楽しいんだろうなぁ。実際一緒に暮らし始めて毎日笑いが絶えないし。 トニーさんの彼女になる女の子はきっと幸せになれるよなぁ。 それから二人で色んなお店を巡って買い物を楽しんだ。 エリザへの誕生日プレゼントも買えたし大満足だ!! ギルの奴、大人しく家で反省してるのかなぁ… しょうがない、お土産にケーキ屋の美味しいアイスでも買って帰ってあげよう。 「名前ちゃん優しいなぁ。ギルの事怒ってたのにお土産買ってったるなんて」 「まぁギルも反省してるだろうしね。鞭の次には飴も必要でしょ?」 「そやなぁ〜」 きっとしばらくはビールも控えめにしてくれるはずだよね。 早く帰って一緒にアイスを食べよう! アーサーも誘ってあげようかなぁ〜 なんだか足取りが軽やかだ。 マンションの近くの住宅街を歩いていると、なにやら銃声のような音が聞えた これって… 「名前ちゃん危ない!!」 「え?」 トニーさんが私に覆いかぶさったかと思うと、私の直ぐ横を銃弾のようなものが掠めて壁にぶち当たった。 え…なにこれ… 「名前ちゃんどこも怪我しとらんか!?」 「あ、ありがとうトニーさん…!!てゆーかなんだろうこれ…オモチャ?」 「いや、これは実弾や。しかしどこからこんなもんが撃たれて…」 壁に当たった弾を指で掘って取り出すトニーさん。 な、なんでそんなに平然としてられんの!? ここ日本では銃の所持は認められていませんよ!!しかもこんな住宅街で… あれ…そういえばこんな騒音、家に居る時もたまに聞えてきてたような… 「あの、すみません」 「え?」 小さくか細い少女の声が響く。 声のした方に振り返ると、色素の薄い髪の色をした女の子が立っていた。 → ←|→ |